テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第八章 闇が還る月夜
第六話 満月の大聖堂
夜の帝都は、不気味な静けさに包まれていた。
石畳を走る馬車の音だけが、重く響く。
窓の外、人影は少ない。
街全体に、薄黒い瘴気が漂い始めていた。
それは霧のように、ゆっくりと帝都を覆っている。
馬車の中。
ジオは小さく息を吐いた。
「……っ」
苦しそうに胸元を押さえる。
瘴気が濃い。
息をするだけで、胸の奥へ何かが流れ込んでくる。
負の感情。不安。恐怖。
街中から溢れた闇が、勝手に身体へ引き寄せられていく。
「ジオ」
隣のサフィアンが心配そうに顔を覗き込む。
ジオは小さく首を振った。
「……まだ、大丈夫」
そう答えながらも、顔色はかなり悪い。
アクセルは窓の外を見上げる。
空には満月。
だが幸いにも、厚い雲がその光を遮っていた。
「まだ抑えられている……」
クロードが低く呟く。
誰もそれ以上は言わなかった。
やがて馬車がゆっくりと止まる。
巨大な白亜の建物。
太陽教大聖堂。
夜の闇の中でも、異様な存在感を放っている。
五人は馬車を降りた。
冷たい夜風。
ジオが僅かによろめく。
サフィアンがすぐに支える。
「平気か」
「……うん」
だがその黒い瞳は、不安定に揺れていた。
大聖堂の扉が重く開かれる。
中は静まり返っていた。
高い天井。長い赤絨毯。無数の燭台。
そしてその奥。
まるで待っていたかのように、一人の老人が椅子に腰掛けていた。
ーーヴァルド。
灰色の瞳が真っ直ぐジオを射抜く。
観察するような鋭い視線。
左右には神官たちが並び、怒りと緊張を滲ませている。
その中に一人、不安気な表情でこちらを見る神官がいた。
クラウスだった。
空気が張り詰める。
最初に口を開いたのはアクセルだった。
「昨夜の宿屋襲撃」
低い声が大聖堂に響く。
「何故、あのような強引な手段を取った」
ヴァルドは静かに目を細める。
そして、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「……先に聞きたいことがある」
灰色の瞳がアクセルを見据える。
「地下禁書庫に保管されていた禁書……」
「持ち出したのは、貴方だろう」
空気が凍る。
クラウスの肩がビクッと震えた。
#ファンタジー
comi
4,781
#恋愛
ばたっちゅ
20,117
7
coco🌹🫶
20
ラスタが目を見開く。
クロードも息を呑む。
アクセルは否定しなかった。
その沈黙が、すべてを語っていた。
ヴァルドはゆっくりと立ち上がる。
「真実を知ったのだろう」
静かな声。
「月蝕の子が、世界の循環に必要な存在だと」
「ならば分かるはずだ」
杖が床を突く。
乾いた音が響いた。
「我々は月蝕の子を“厄災”として扱わねばならない」
「人々の恐怖を鎮めるために」
「帝国は、どうする」
鋭い視線。
「厄災を野放しにするのか」
「違う!」
アクセルが強く否定した。
黄金の瞳が揺れる。
「月蝕の子は厄災じゃない!」
「世界の救済だ!」
その瞬間。
空気がさらに重く沈んだ。
ジオが小さく息を呑む。
瘴気が濃い。
さっきより明らかに。
床、柱、人の影。
すべてが揺らぐ。
「瘴気が急激に増えとる……!」
ラスタが顔を強張らせる。
クロードが窓を見る。
その時だった。
雲が流れた。
満月が姿を現す。
銀の光が大聖堂へ差し込む。
その光が、窓際の神官を照らした瞬間。
――ぞわり。
影が動いた。
黒い影が膨れ上がり、神官へ絡みつく。
「……え?」
影が神官を飲み込んでいく。
「な、なんだ!?」
「やめろ!」
悲鳴か上がる。
混乱が広がる。
椅子が倒れ、駆け回る足音が響く。
ヴァルドですら動けない。
クロードの瞳が揺れる。
脳裏に過る過去の記憶。
満月。
赤い目。
白銀を覆う影。
「……っ」
ジオが前へ出た。
「ジオ!?」
サフィアンが腕を掴もうとするが、ジオは首を振る。
ゆっくりと神官へ近づく。
影はすでに半身を覆っていた。
ジオは震える手を伸ばす。
そして、影へ手をかざした。
瘴気が一気に流れ込む。
「……っ!!」
身体が震える。
恐怖、絶望、憎悪。
闇の奔流。
それでも手を下ろさない。
影は薄れていく。
神官の顔が見えた。
「……たす……」
涙を流す顔。
希望が生まれる。
だが。
――ドクン。
影が再び膨れ上がった。
「ァァァァアアアッ!!」
絶叫が響き渡る。
完全に飲み込まれる。
「……っ!!」
限界だった。
ふっとジオの瞳から力が抜け、身体が崩れ落ちる。
「ジオ!!」
サフィアンが抱きとめる。
その瞬間、瘴気が爆発するように広がった。
そこに現れたのは。
歪んだ四肢、裂けた口。
もはや人間の面影もない巨大な魔物。
アクセルが剣を抜く。
黄金の刃が月光を反射する。
その隣でクロードもまた、震える手で剣を構えた。
コメント
1件
うわああ第22話めっちゃ重くて苦しくて最高だった…!!😭💔 大聖堂の荘厳な雰囲気と張り詰めた空気感が画面越しに伝わってきて、息するのも忘れるくらい没入したよ。ジオが瘴気を吸い込んで苦しそうなのに、それでも神官を助けようと手を伸ばすところがもう…尊すぎて涙出た。しかも満月出た瞬間の“影が動く”描写、ぞわぞわして鳥肌止まらなかったよ…! アクセルの「月蝕の子は救済だ!」って叫び、心に響いたなあ。ラストの魔物化も衝撃的すぎて続きが気になりすぎる〜!!co-miさんの描写力、毎回エグいです✨ 次話も全力で待ってます!!