「たのもー!!」
インターホン越しに畑葉さんの声が響く。
畑葉さんの後ろを歩いている人は引いた目で畑葉さんを見ていた。
玄関の扉を開けると
「おはよ古佐くん!!」
と言いながら入ってくる。
「おはよ」
そう冷静を保ちつつも、内心ドッキドキ。
そりゃあそうだろう。
だって好きな人が初めて僕の家に来るんだし。
しかもお泊まり会。
ドキドキしないわけが無い。
「案外早く来たんだね」
そう言いながらリビングに案内しつつ、時計を見る。
今は畑葉さんが来るはずだった時間の2時間前。
早すぎる。
「もしかして迷惑だった感じ?」
不安そうな目を向けながらそんなことを言ってくる。
「そういうわけじゃないけど…」
家族は買い物へ行ってしまった。
つまり、今家の中に居るのは僕と畑葉さんの2人だけっていうのが問題である。
「あ、そういえばかき氷作れるけど食べる?」
気まずい雰囲気に完全に包まれる前に口を開く。
「じゃあじゃあ!!かき氷勝負しよ!!」
「どっちが早く食べれるかってやつ!!」
ゆっくり味わって食べたかったんだけど…
そう心の中で不満を零す。
「いいよ」
だけどこの勝負、僕には奥の手というものがある。
いや、奥の手では無いと思うけど。
自分でボケ、自分でツッコミを入れる。
いつも反論や不満を垂らすのに今日は何も言わなかったのが気になったのか畑葉さんは
「え、かき氷勝負だよ?早食いだよ?」
「本当にいいの?」
と再度聞いてくる。
「うん」
そう答えるとなぜか疑いの目を向けてきた。
「味何にする〜?」
早食いだから味とか関係なくない?
そう思いつつも
「イチゴ」
と答える。
「イチゴ?案外可愛いんだね」
「なっ…」
「女の子みたい」
『女の子みたい』男にとってどれだけ屈辱な言葉だろうか。
人によるとは思うが、大体は複雑な気分である。
「私はブルーハワイ一択〜!!」
そう言って氷が消えてしまうほどブルーハワイをかける。
「ズルじゃん」
思わず、そんな言葉が飛び出してくる。
「違うもん!!もう1回氷かけるんだし!」
と言いながらどこか慌てたように氷をブルーハワイジュースのようになった場所に入れていく。
多分、僕が何も言わなかったらそのまま始めていただろうに。
ズル賢い奴め。
「よーし」
「じゃあ、よーいスタート!!」
そう畑葉さん声が上げたと同時に互いにかき氷を口に含む。
最初はバクバク食べていた畑葉さんだが、
途中からペースダウンしてきた。
「頭が…」
なんて言ってるし。
そう。
僕の奥の手じゃない奥の手とは『頭が痛くならない』ということ。
でもその代わりに喉や口の中が冷たくなる。
しかも呂律が回らなくなるのだ。
多分、舌が凍っているのだろう。
畑葉さんが苦戦している間に僕の器のかき氷は僕の胃の中へ。
「ご馳走様」
手を合わせながらそんなことを言うと
「え!!?もう食べ終わったの?!」
とびっくりしている。
「うん」
そう短く答えるも、内心かなり焦っている。
その理由は案の定、舌が凍って喋りにくいからだった。
「なんでそんな早かったの?」
そう聞かれ、
『アイスクリーム頭痛』のことを伝えようと思ったが『無理だ』と察す。
スマホのメモ機能で『実は僕、アイスクリーム頭痛にならないんだよね』と打ち込み、
見せる。
と、
「ズルじゃん!!」
と言われてしまう。
さっきまでシロップで氷溶かしてた人に言われたくないんだが。
そう思っていると
「それより、なんで声で話さないの?」
と言われる。
「…かちゅぜちゅが」
「わりゅくなっちゃうかりゃ…」
そう赤ちゃん言葉のように答えると、
畑葉さんは目を丸くした後、爆笑する。
僕は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
「滑舌が悪くなっちゃうんでちゅか〜?」
そう馬鹿にするように煽ってくる。
とても腹が立つ。
「うりゅしゃい───」
「え!!古佐くん、ベロから血出てるよ!!」
急にそんなことを言いながら僕の両頬を両手で掴んでくる。
絶対言うと思った。
舌がイチゴシロップで真っ赤に染まっていたから言うだろうとは思っていたけれど。
あなたの舌も相当ですよ。
そうは思ったが、両頬を掴まれてるせいで喋れない。
そもそも滑舌が終わってるから尚更。
「イチゴシロップ」
そう短く言うと
「へ?」
と間抜け声を漏らす畑葉さん。
「だーかーら!!イチゴシロップだってば!」
喋っているうちに気づけば僕の舌の氷は溶けかけてきていた。
それはそうと畑葉さんは先程の僕の言葉を聞き、
自分が何を言っていたのか気づいたのか頬を徐々に、
真っ赤に、
染めていく。
「ぇ…あ……」
「ごめん…怪我してるのかと思って……」
少し俯きながらそう言う。
案外天然で可愛らしい一面もあるんだなと心の中でそんな独り言を零す。
「畑葉さんも舌の色のせいでモンスターみたいになってるよ」
やっと言いたかったことが言えた…
そう安堵のため息をついていると
「モンスター?」
「がおー!!」
そう言いながら僕を押し倒してくる。
「ちょっ…」
一気に僕の体温が上がる。
それに畑葉さんも気づいたのか、
「ぁ、ごめん…」
と言いながら僕から少し離れた場所へ行く。
そして顔を隠して何やらブツブツ独り言を話しているようだった。
というかお泊まり会初日からこんな出来事があっていいのだろうか。
それともこれはまだ序の口とか?
お泊まり会、無事に終わるだろうか…
それとも僕の恋心が狂ってしまうのが先だろうか。
そう考えただけで、
またもや僕の心の高鳴りは収まらなくなる。
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