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扉を押し開けると、そこは奇妙なほど広い部屋だった。 壁も床もまだ曖昧で、白い靄が漂い、足元すら頼りない。
「ここが……?」
私は思わず立ち止まる。
「まだ土が眠ってるだけ」
少年が言った。
「呼んであげれば目を覚ますわ」
少女が続ける。
二人は顔を見合わせ、同時に床へ膝をついた。
小さな手が白い靄に触れる。
その瞬間、部屋全体に重い響きが広がった。
ぼろぼろと、床の下から石畳が顔を覗かせる。
次第にそれは広がり、靄を押しのけて大地の匂いを放った。
私は思わず膝をつき、掌でその土を掴んだ。
湿り気を帯びた黒土が、確かにそこにあった。
爪の間に入り込み、手のひらに重みを残す。
胸の奥に、懐かしい熱が込み上げる。
これなら、種は根を張れる――そう直感した。
その瞬間、部屋の外に眩しい光が走った。
窓の外、赤と青と空の下に、地平線が盛り上がる。
丘が生まれ、大地が広がり、川を抱き込んでいく。
「やっと……やっと耕せる」
声が震え、知らぬ間に涙が土に落ちていた。