森の中は、夜になるとぜんぜんちがう顔をしていた。昼間は小鳥の声でにぎやかな道も、
今はしんと静まりかえっていて、
葉っぱがひとつ落ちただけでも、胸がどきんとする。
でも、足もとは小さな光の粒がぽつぽつと続いていて、
まるで「こっちへおいで」と道を作ってくれているみたいだった。
「ひかりの花さん、どこですか」
小さな声でつぶやきながら歩く。
ときどき、木の根っこにけつまずいたり、
ふくろうの声にびくっとしたりしたけれど、
わたしは立ち止まらなかった。
やがて、大きな切り株の広場に出た。
そこには、つぼみが三つ並んで光っていた。
でも、どれもまだ固く閉じていて、咲く気配がない。
「うーん、どれを選べばいいのかな…」
迷っていると、風がふわっと吹いて、
つぼみのひとつが、かすかに震えた。
近づいて手をかざすと、
その花の光が少し強くなって、
わたしの手をあたためてくれた。
「……あなたなんだね」
そう言ってつぼみを見守っていると、
その奥の森から、もっと強い光が一瞬だけひらめいた。
星が落ちたみたいに、ぱっとまぶしい光。
「まだ、もっと奥に…!」
胸が高鳴って、わたしはもう一度歩き出した。
──お兄ちゃんのために。