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これは貴女のために書くラブレター。
他人を心から好きになる事の無い私が貴女を想って綴った生涯でたった一通の恋文。
亡霊が居た。
透けた身体を花畑に預ける少女の亡霊が。
人は死後、誰かに想われると亡霊の周りに綺麗な花が咲くらしい。
誰かが見た訳でも誰かから聞いた訳でも無く、ただの素敵な想像だろうけれど。
私はそんな空想を信じたくて貴女を想った。
貴女に花畑の真ん中で微笑んで欲しくて、
貴女に寂しい思いをして欲しくは無くて、
貴女が見えない憎らしい世界で貴女を好いた。
冬の澄んだ空のような色が好きで、私の顔を見るやいなや前髪やアイラインの1ミリの変化にも気付く。
私から見ても私を愛していた子。
私から見て、私に愛されている事に少し鈍感だった子。
某月、貴女に出逢った。
いつも通りの通学路の脇、ひんやり湿った土の小路を見付けて妙に惹かれる扉を開けた。
暑かった様な、寒かった様な、心地良い春風が吹いていた様な、少し肌寒い木枯らしが吹いていた様な。
扉の先、光の中で貴女を見付けた。
振り向いた少女は驚いたように綺麗な眼を見開いて、可愛らしく細めた。
私より背が高くて、でもどことなく私より幼く見えた。
「 ねえ、名前は? 」
泡が弾けるような声が耳に届いた。
「 ぁ、えっと、璃々です。
貴女は? 」
可愛らしい女の子を目の前にして辿々しい話し方になってしまった。
「 璃々ちゃん!可愛い名前!
私は、彩織って言います!宜しくね! 」
そんな出逢い方だった。
貴方とは月に1回くらいの決して多くない頻度で会いに行った。
それが約半年間、6回だっただろうか。
1回目、初めて会った日。
白い光の中で微笑む女の子に目を奪われた。
綺麗だと心から思った。
「 璃々ちゃんはどうしてここに来たの? 」
視界に入ってくる姿も耳に届く音も全てが可愛らしくて綺麗で、受け答えは随分適当だったと思う。
「 何だか素敵な小路があるなーと思って、その先で見付けた扉を開けたの。 」
あながち間違った事は言っていない。
かなり可笑しな話だけれども。
「 ふーん、じゃあ運命だね! 」
くしゃりと笑う顔が好きだと思った。
2回目、私のお気に入りのカメラを持って行った日。
貴方の綺麗な姿を写しておきたくて、眩い光を切り取った。
時間の進みがよく分からないその場所で陽が傾くとか夜になるとか、そういうことを実感したことは無かった。
「 私を撮って楽しいの? 」
不思議そうに聞いてきた貴方は撮られることに慣れていなくて、不器用にはにかんだ。
「 今まで見てきた何よりも1番綺麗だから撮っておきたいと思って、 」
扉が軋む音と共に今月も湿った土の上を歩き出した。
3回目、少し風が強い日だった気がする。
扉を開けると光に満ちたそこでは少し浮いている焦げ茶の髪が揺れて、それを貴方の指がそっと掬った。
「 今日は風が強そうね。 」
室内に入ったみたいに穏やかな花畑の世界。
ここだけ世界から切り離されたみたいでワクワクする気持ちと寂しい気持ちがぶつかった。
「 ここはいつも穏やかだね。 」
何気ないひと言に少女は少し哀しそうな顔を魅せた。
「 外に出られたら良いのにね、 」
また扉の音が鳴って湿った土の上を引き返した。
4回目、雨が土に強く打ち付けていた日。
「 今日の外は随分うるさいね。 」
貴方は雨を知らないみたいな顔で今日も花畑の真ん中で微笑んでいた。
「 朝から雨が降ってるから今日はずっとここに居たいよ、いつも晴れてて快適だし。 」
「 そうなんだ、私は雨も見てみたいけど憂鬱なものなの? 」
これは唯の疑問だったのか、それとも少し皮肉を混ぜた愚痴のようなものだったのか。
今考えるとどちらでもなく、ただ、貴方はここから出たかったのかもしれない。
そんなことを時々思う。
この日は酷く泥濘んだ路を歩いて帰った。
5回目、ピクニックをした日。
レジャーシートと飲み物、サンドウィッチとお菓子をカゴに詰めて扉を開けた。
貴方は私が荷物を持っているのが珍しかったのか少し驚いていた。
「 どうしたの?そんな荷物持って来て。 」
「 折角の綺麗なお花畑なんだからピクニックしようよ! 」
困惑しつつも受け入れてくれた貴方は気付けば楽しそうにサンドウィッチを頬張っていた。
「 このお菓子は何て言うの? 」
「 あーそれは、 」
どこにでも売っている焼き菓子をとても嬉しそうに手に取るから、この場所や貴方の秘密なんてどうだって良かった。
行きより軽くなったカゴを持って湿った土の上を踊るように歩いた。
6回目、花冠だけが残った日。
いつもに増して穏やかだった日。
その日は花冠を作って貴方の頭に乗せた。
「 とっても上手ね!ありがとう! 」
珍しく貴方からカメラで撮っておいて欲しいと頼まれて、くしゃりと笑う可愛らしい顔を綺麗にフィルター越しで切り取った。
「 ねえ、次会う時はここから出て私の家にでも来てみない? 」
そんな言葉を言ってしまったからか、私は瞬きをする間に冷たく湿った土の上に立っていた。
それから貴方には逢えなくなった。
何度あの小路に行ってみても扉なんて無く、ただの行き止まり。
彩織という名前とその端麗な姿しか知らない少女を探し続けた。
ひと月に1回しか会わない関係だったのに、貴女が恋しくて、逢いたくて。
もう一度、光と花に包まれた貴女を見付けたくて、何度も胸の内で貴女を呼んでいた。
貴女の笑顔を捜した。
貴女と逢えなくなって丁度半年。
あの小路の前。
4回目に逢った時のように雨が強く、強く、土を打ち付けて泥に変えていた。
傘を少し傾けて視線を上げた先に、あの扉があった。
傘が手から落ちて靴が泥で汚れる事も気に止めず、そのまま走って扉を開けた。
記憶の通りの光が私の視界を奪って、貴女を見付けた。
「 彩織、…… 彩織! 」
貴女は微笑んで抱き着いた私の頭に優しい手つきで触れた。
「 見付かっちゃった笑
かくれんぼ、璃々ちゃんの勝ち! 」
悪戯に笑った貴女はその笑顔の下で泣いていた。
「 ごめんね、急に居なくなって。
私、雨の音で寂しくなっちゃったのかな、 」
直感が当たるかは知らないけれど、嫌な予感は当たってしまうことも少なくない。
「 ねえ、彩織。
どこにも行かないで。 」
「 璃々ちゃん、ごめんね。
いい加減さよならって言わなきゃね。 」
私の願いは届かなかった。
貴女は私と逢えなくなることなんて出逢ったあの日から分かっていたんだろう。
私とは住む世界が違うって知っていたんだろう。
貴女は私を強く抱き締めて耳元で小さな泡が弾けたような声で言った。
「 さよなら、璃々ちゃん。 」
嫌だ。
「 ねえ、名前は? 」
置いて行かないで。
「 璃々ちゃん!可愛い名前!
私は、彩織って言います! 」
今回もかくれんぼだって言って。
「 ふーん、じゃあ運命だね! 」
ひとりにしないで。
「 外に出られたら良いのにね、 」
私と生きて。
「 バウムクーヘン!名前まで素敵なお菓子ね!ねえ私またこれ食べたいな! 」
神様、連れて行かないで。
「 私ね、璃々ちゃんと出逢ってから新鮮な事が沢山で楽しいの! 」
彼女の笑顔をもう一度だけ見させて。
「 見付かっちゃった笑 」
私達だけの場所を消さないで。
「 さよなら、璃々ちゃん。 」
嫌だよ。
貴女は死んでいた。
私と出逢うずっとずっと前に。
いつか貴女とピクニックをした時のカゴに便箋が一通入っていた。
これは貴女のために書くラブレター。
他人を心から好きにならない私が貴女を想って綴った生涯でたった一通の恋文。
そんな書き出しだった。
そこには私が直接聞くことかできなかった彼女の話が綴られていた。
貴女は死んでいた。
私と出逢うずっとずっと前に重い病気で亡くなったらしい。
目が覚めた時には既にあの場所に居て、彼女が成仏し切れていなかったのだろうと記されていた。
外の世界のことは幼い頃から病気だったせいであまり知らない上に記憶が曖昧になっていたらしい。
雨という言葉や存在は知っているけれどカーテンの閉められた病室からでは見ることも儘ならなかったこと。バウムクーヘンなんてものは食べるどころか存在も知ることが出来なかったこと。生きていた頃の半分程を意識が朦朧とした状態で過ごしていたこと。
生前の彼女は酷く苦しい人生だったのかもしれないと胸が苦しくなった。
一度、逢えなくなった時、彼女は成仏しかけて神様とやらに半年間も頭を下げ続けたらしい。
これをカゴに入れてくれたのは神様だから感謝はしているとか冗談も書かれていた。
最後には「 璃々ちゃん、私に沢山幸せをくれてありがとう。愛してるよ。」と丸い可愛らしい字で締め括られていた。
人は死後、誰かに想われると亡霊の周りに綺麗な花が咲くらしい。
誰かが見た訳でも誰かから聞いた訳でも無く、ただの素敵な想像だろうけれど。
私はそんな空想を信じたくて貴女を想った。
貴女に花畑の真ん中で微笑んで欲しくて、
貴女に寂しい思いをして欲しくは無くて、
貴女が見えずとも美しい世界で貴女を好いた。
私が亡霊となるその日まで。
コメント
2件
ほんとに天才でしょまじで。 場所が光に包まれてたり外なのか室内なのかあやふやだったりするところから実在する場所ではない感じがするの最高です 回想シーンみたいな所めっちゃ好きなんだが‼️‼️‼️‼️‼️ 始まりと終わりが一緒なの良過ぎるよねまじで ほんとに天才でしょまじで‼️‼️‼️
まじめっちゃ好きなんだけどありがとう🫵🏻💖 りーちゃの物語って起承転結がしっかりしてるからほんと読みやすい😻 超絶切ない物語で朝から泣きそうになった😭😭