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2話
翌日、リハーサルスタジオ。
「……仁人は?」
ドアを開けた瞬間、勇斗は辺りを見回した。
いつもなら先に来ているはずの姿がない。
「え、来てないの?」
メンバーの柔太朗が首をかしげる。
「いや、まだ見てない」
「連絡は?」
「してないの?」
口々に飛ぶ言葉に、勇斗の眉が寄る。
「……昨日あの後、誰か連絡取った?」
「いや、特に…」
「既読もつかないんだけど」
空気がざわつく。
「スタッフさんは?」
スタッフもスマホを確認しながら首を振る。
「電話も出ないですね…」
「マジで?」
「体調不良とかじゃないですか?」
「でもそれなら普通連絡来るでしょ…」
その言葉が、妙に引っかかった。
勇斗はポケットからスマホを取り出す。
発信履歴を開いて、仁人の名前をタップ。
コール音。
長い。
出ない。
「……チッ」
無意識に舌打ちが漏れる。
「勇斗?」
「……ちょっと行ってくる」
「え、どこに?」
「家」
短くそれだけ言って、スタジオを飛び出した。
マンションの前で立ち止まる。
見慣れた建物。
何度も来たことがある場所。
でも今日は、やけに重い。
「……何もなきゃいいけど」
小さく呟いて、エントランスを抜ける。
エレベーターの時間が、やけに長く感じた。
目的の階に着き、部屋の前へ。
インターホンを押す。
反応なし。
もう一度押す。
無音。
「……おい」
ドアノブに手をかける。
カチャ。
「……は?」
開いた。
鍵、かかってない。
一気に嫌な予感が広がる。
「仁人?」
靴も脱がずに中へ入る。
静かすぎる部屋。
「おい、いるんだろ?」
返事はない。
リビングへ向かう。
その瞬間、視界の端に人影。
「……っ!」
床に倒れている仁人。
「仁人!!」
駆け寄る。
肩を揺らす。
「おい、起きろ!仁人!」
反応が鈍い。
呼吸はある。
でも明らかにぐったりしている。
「何やってんだよ……!」
視線が、ふと横に落ちる。
開いたままのノート。
床に散らばるペン。
何気なく手に取る。
ページをめくる。
「……は?」
びっしりだった。
文字で埋め尽くされている。
ライブ構成、曲順、演出、照明、MCの流れ。
細かいメモ、修正案、時間配分。
何ページも、何ページも。
同じところに何度も書き直された跡。
「……嘘だろ」
さらにめくる。
「ここ変更→やっぱり戻す」「全体の流れ再検討」
「メンバーの見せ場バランス」「勇斗のパートここ強調」
手が止まる。
「……は?」
思わず声が漏れる。
自分の名前。
何度も出てくる。
「ここは勇斗が引っ張る」「勇斗の表情で空気作る」
「任せたい」
ページの端に、小さく書かれた文字。
「ちゃんと話す」
「時間足りない」
「どう伝えればいいか」
「……っ」
喉が詰まる。
ノートを持つ手が、わずかに震えた。
「お前……」
床に倒れている仁人を見る。
「こんな…」
言葉が続かない。
「……考えてねえわけ、ないじゃん」
昨日の会話が、頭の中で蘇る。
“曖昧な返事しかしなかった”
“考えてる間に全部止まる”
「……俺、何言ってたんだよ」
小さく、吐き出す。
仁人のそばに膝をつく。
「……おい」
もう一度、肩に手を置く。
さっきより、少しだけ優しく。
「起きろって…」
返事はない。
ただ、弱い呼吸だけが続いている。
「……バカじゃねえの」
掠れた声。
でもその言葉は、どこか震えていた。
「倒れるまでやるなよ……」
ノートをそっと閉じる。
そして、少しだけ強く肩を揺らす。
「仁人、起きろ」
「……頼むから」
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹