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それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
🩵「、…ん?」
朝。
目を覚ました柚葉は、いつもと違う違和感に眉を寄せた。
隣では未渚美が何か話してる。
けれど、その声が遠かった。
まるで厚いガラス越しに聞いてるみたいに。
🩷「柚葉、大丈夫ですか?」
未渚美の声がぼんやりと届く。
🩵「…あ、ごめん。ちょっと寝ぼけてるだけ。」
そう笑って誤魔化した。
だけど、違った。
寝ぼけてる訳じゃない。
テレビの音も。
外の車の音も。
冷蔵庫のモーター音も。
全部が霞んでいる。
嫌な予感がした。
ーーーーー
休暇期間だったことが幸いだった。
その日の内に病院へ向かう。
聴力検査。
MRI。
いくつもの検査。
そして数日後の診察室。
医師の口が動いている。
けれど、その言葉は半分程しか聞き取れなかった。
『……若年発症型…両側性感音難聴…』
聞き返す。
医師は資料を見せながら、ゆっくり説明した。
『難病指定の疾患です。』
その瞬間だけ聞こえた。
“難病“
その二文字だけ。
『進行を遅らせる治療はあります。しかし…』
医師は少し言葉を選んだ。
『完全に止める方法は、現時点ではありません。』
頭が真っ白になった。
聞こえない。
よく聞こえない。
でも。
何を言われたのかだけは分かった。
私は_
これから少しずつ
音を失うんだっていうこと。
病院を出ても足が動かなかった。
公園のベンチに座る。
スマホを開く。
1番上にある未渚美とのトーク。
🩷『帰り何食べたいですか?』
数分前に送られていた。
いつも通りだ。
何も知らない。
そのことに少しだけ安心してしまう。
知らないままでいてほしい。
せめてもう少しだけ。
笑っていて欲しい。
ーーーーー
その日の夜。
柚葉はリーダーの美咲を呼び出した。
静かなカフェ。
向かいに座った美咲は不思議そうな顔をしている。
🧡「どうしたの?」
柚葉は診断書を差し出した。
美咲の表情が固まる。
何度も読み返す。
🧡「……え?」
そして小さく声が漏れた。
🧡「嘘でしょ…」
🩵「嘘じゃない。」
🧡「治るんだよね?」
柚葉は首を横に振った。
美咲の目に涙が浮かぶ。
🧡「なんで……」
その声が少し聞こえた。
🧡「なんで柚葉なの…」
柚葉は笑った。
🩵「泣かないでよ。」
🧡「泣くよ…!」
涙を拭う。
🧡「家族なんだから。」
その言葉に初めて涙が出そうになった。
ーーーーー
数日後。
休暇が終わった。
事務所では既に話し合いが行われていた。
スタッフも医療チームも。
今後の活動方針を検討している。
そして。
メンバー全員が集められた。
美咲が隣に座る。
その手が少し震えていたことを柚葉は見ていた。
🩵「みんなに話がある。」
静かになる部屋。
🩵「私、病気になった。」
そこから説明した。
難聴。
進行性。
治療法が無いこと。
将来的にはさらに聞こえなくなる可能性があること。
けれど、これだけは話せなかった。
“もう既にみんなの声が霞んで聞こえないこと“
話終わった頃には、部屋が静まり返っていた。
ーーーーー
桜花が最初に泣いた。
💜「そんなの嫌だよ…」
綺羅も目を赤くする。
百花は唇を噛み締めていた。
來亜は何も言えず俯く。
美咲も涙を堪えている。
綺羅は席を立ち、柚葉を抱き締めた。
💛「1人で抱えないで。」
その言葉だけが少し聞こえた。
ーーーーー
そして、最後まで何も言わなかった人がいた。
未渚美だった。
会議が終わる。
メンバーが帰っていく。
未渚美だけが残った。
静かな練習室。
柚葉は気まずそうに視線を逸らした。
🩵「……怒ってる?」
返事がない。
🩵「未渚美。」
その瞬間。
強く抱き締められた。
苦しいほどに。
🩷「どうしてですか。」
震える声。
聞こえないはずなのに、はっきりと鼓膜の奥まで届いた。
🩷「どうして私に言ってくれなかったんですか。」
🩵「……」
🩷「恋人ですよ…。」
涙声だった。
🩷「一緒に住んでるじゃないですか。」
柚葉は何も言えなかった。
🩷「私、そんなに頼りなかったですか?」
🩵「違う。」
🩷「じゃあどうして。」
柚葉の顔を見つめるその瞳には涙がいっぱいいっぱい溜まっていた。
🩵「笑ってて欲しかった。」
未渚美の肩が震える。
🩵「最後まで。」
🩷「最後じゃないです。」
即答だった。
🩷「まだ何も終わってないです。」
未渚美は柚葉の両手を震える手で優しく握った。
🩷「聞こえなくなっても、私がいます。」
涙を流しながら笑う。
🩵「…、」
🩷「何回でも話します。」
🩵「、未渚美。」
🩷「聞こえなくても伝えます。」
🩷「だから、…」
🩷「勝手に1人で決めないでください。」
その言葉に、柚葉はとうとう泣いた。
ーーーーー
それからの日々は変わった。
未渚美は手話を勉強し始めた。
メンバー達も同じだった。
練習の合間。
休憩時間。
移動中。
みんなで覚える。
間違えて笑い合う。
また覚える。
繰り返す。
ーーーーー
数ヶ月後。
新しい新曲のリリースに向けての準備期間。
練習室。
音楽が流れる。
みんなより一拍遅れて始めてしまう。
以前より聞こえない。
確実に進行していた。
迷惑なんじゃないかって不安になる日もある。
怖い夜もある。
けれど、振り返ればそこにはいつもメンバーがいた。
ーーーーー
🧡「柚葉!」
美咲が大きく手を振る。
百花が変な手話をして笑われる。
桜花が慌てて訂正する。
綺羅がそれを動画に撮る。
來亜が爆笑する。
そして、1番後ろには未渚美。
未渚美はゆっくり手を動かした。
まだ少しぎこちない。
でも、一生懸命覚えた手話。
🩷『大丈夫』
柚葉は笑う。
すると未渚美は続けた。
🩷『ずっと一緒。』
ーーーーー
音は少しずつ消えていく。
それは変えられない。
だけど、失わないものもある。
支えてくれるメンバー。
そして。
誰よりも隣で手を握ってくれる恋人。
🩷「柚葉。」
その声はもう殆ど聞こえない。
それでも、口の動きで分かる。
🩷「愛してます。」
柚葉は笑って答えた。
🩵「私も。」
聞こえなくなっていく世界の中で。
その想いだけは___
いつまでも鮮やかなままだった。
end.
※1500字以内に収めようとしたんですが、、笑。2000字を超えてしまいました、笑笑。以後気をつけます。。
コメント
1件
ゆあ。🪽さん、重くて美しい話をありがとうございます…!進行性難聴っていう現実と、それでも「ずっと一緒」って手話で伝える未渚美に完全に持ってかれました😭💕 音が消えていく世界で、愛だけは鮮やかに残るって表現が刺さりすぎる。1話でここまで心揺さぶられるって、やばいです。続き、絶対読みます…!🌸