太陽がギンギン光る下で、僕達は歩く。
葉月は初めて行く海で、気分が上がっているようだ。
スキップをしながら手を振りながら、本当に楽しそうだった。
だけど、そのせいで、前から来る車に気が付かなかった。
「危ない──っ!」
「ん?」
気づけば、体が動いていた。
葉月の体を全力で押し、横断歩道の外へと出していた。
目が上手く開かない。
頭も動かない。
きっと、轢かれたのだろう。
「痛〜っ…もう、何す──…え、」
「何…?嘘…一澄…くん?ねぇ、ねぇってば…」
車から人が降りてくる。見る限り若い男性だ。
「大丈夫…ですか…?」
「大丈夫な訳ないでしょ!」
葉月は焦った顔を見せながらも大声で叫んでいた。今回は確実にこちらが悪い。
こちらが前を向いて歩いていれば、こんなことには…。
そのはずなのに、葉月は必死に叫んでいた。
「信じられない!何してくれてんの!?最低!」
「ごめんなさい…」
若い男性は何度も頭を下げ、謝っている。
「謝って済むと思ってる!?人が怪我したんだよ!?」
「ごめんなさい…救急車呼びましょうか…?」
「早く呼んでよ!」
しばらくして、救急車は赤いランプをチカチカさせ、走ってきた。
しばらくして病院に着いてはすぐに治療をされた。
治療は長い時間行われた。
どうやら危ない状況で大変なようだ。
「──一澄くん…!」
「ねぇ、起きてよ!」
頭の中まで声が響いた。
手術…が終わったのか…?
でもなぜか、目が開けない。
意識はあるはずで、記憶もまともにあるはずだ。
なのに、目だけが開かない。
「えっと、あの…事故の時はごめんなさい…」
「大丈夫です。きっと、頭が混乱していたんでしょう。好きな人が大切ですもんね」
「好きな人…!?は、はい…」
この声は車に乗っていた方の声か…。
好きな人…?
そうだ、俺…海で告白するって…。
伝えるなら今だ。伝えないと…。
「──っ…!」
だめだ。声がでない。
伝えるなら今しかないのに…!
「失礼します。医師の谷田です。白之さんの状況にて、お話しに来ました。」
「よろしくお願いします…!」
告げられたことは、どうやら僕は一生目が覚めないらしい。意識はある状態なはずなのに、目が開かないそうだ。言葉も目が開かないのと同じく、言葉も二度と発せないそうだ。
意識があるのに、言葉で伝えられないなんて…
そんなこと、信じられるかよ。
やっと、やっと気持ちを伝えれると思ったのに。
これじゃあ、伝えられないじゃないか。
僕は、もう二度と彼女に〃好き〃を伝えられないのか。
僕は、もう二度と彼女に〃会いたい〃を伝えられないのか。
僕は、永遠に彼女と目を合わして話せないのか。
そんなことが、頭の中に映像のように繰り返し流れた。
「一澄くん、しっかり聞いててね」
「あのね、私ね、一澄くんのこと…」
「──好きだよ。ずっと…愛してるからね…ずっと…大丈夫だからね…」
その瞬間、光に包み込まれたような感覚に陥り、気づけば目が開いていた。
きっと、葉月が〃好きだ〃と伝えてくれたから、神様が味方してくれたんだ、そう思った。
だが、それは違ったようだ。
近くに葉月が居るはずなのに、
病室には葉月がいなかった。
あの日車に乗っていた若い男性が近くに居て、事情を聞いた。
だが、若い男性の方もわからないとのこと。
自分は、すぐに状況を理解した。
おそらく、葉月は…
──願ったんだ。
病室には葉月の温かさがあった。
〃もう会えない〃全てのことに絶望を感じた。
こうなるなら、まだ目が開かない方がマシだった。そうすれば、目が開かなくても話せた。
でも今は、そうじゃない。
目が開いても、葉月はいない。
目が開いても葉月がいないなら、
この世界は世界じゃない!
葉月が居たから世界だったんだ。
葉月がいない世界なんて、…
──世界とは呼べない。
温かさに向かって、僕は叫んだ。
「馬鹿…!何してんだよ、ほんとに…。」
「願わないって約束したじゃないか…!ふざけるなよ!ほんと…迷惑な奴…だな…」
いくら声が枯れようと、叫んだ。
葉月は願った。
葉月は願ったんだ。
一度願えば終わりの願いを、僕に使ったんだ。
もう二度と会えることはないし、
目を合わして話すこともできなくなった。
葉月はもっと、もっと遠い所に行ってしまった。
会えることのない場所に。
絶望で、涙しか出なかった。
だが、すぐに涙を拭った。
自分は、やらなければならないことがある。
新聞に、彼女を出すこと。
この新聞を全国に配るんだ。
もちろん全国に無理なことはわかってる。
たかが部活だから。
でも、それでも必死に頼めば、きっと全国に届くようになるはずだ。
そう信じて、手には鉛筆を持ち、鉛筆を走らせた。
何時間も、何日間も考え続け、完成させた。
新聞にこれまでのこと、全てを書いた。
思い出が削られる中、必死に自分の記憶と戦い、書き出した。
一生忘れたくない記憶なのに、
頭の中は彼女と過ごした内容を消していく。
早く、記憶が全て失くなる前に新聞を出すんだ。
世の中に、この状況を伝えるんだ。
早く、早く…。
ここに電話するだけだ。
電話の相手から返事が返ってくる。
「そのような内容なのですね…本当はダメですけど…今回ばかりは合格とします!」
「本当ですか!?いいんですか!!」
本当に…いいのか…。
こんな、たかが新聞部なのに…
良かった…よかった。
コメント
1件
結構伏線回収しっかりしてる!! すごい展開ね。まさか轢かれるとは思わなんだ… それにしても葉月ちゃん消えちゃったのね。すぐに消えるんじゃなくて徐々に徐々に消えてくのか…それはそれで辛いな。 私だったら存在してた痕跡も残さずに一瞬で消し去って、大切な人が消えたことにすら気付かない感じにしそうだから、結構新鮮で切なくてすっっごい好きだ…!! 続きが楽しみ!