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怜が口淫を止め、神妙な顔つきで奏に覆い被さると、白皙の首の後ろに腕を通して抱き寄せた。


「やっぱり……多少なりとも疑っていたか……」


「……え?」


予想もしなかった言葉が怜の口から返ってきた事に、奏は困惑したような面持ちで彼を見た。


「恋人同士になって数時間後に、奏の身体に触れて…………お泊まりした翌日、仕事の後に俺の部屋に来て、セックス寸前までの行為をしただろ?」


「……うん」


「あの時、俺は付き合ってから三日目で、ここまでするのは早過ぎたかって思ったし、もしかしたら、奏が俺に対して『実は身体だけが目的なのでは』って疑っているんじゃないかって…………考えてた」


彼が奏の身体が目的ではないという事は、怜の言動で彼女自身も分かっている事。


ただ、明るい時間帯に如何わしい行為をしようとして、奏に淫猥な言葉を囁く彼に翻弄され、悔しくなってしまって、彼が勘にさわると思う事を言ったのだ。


自分が軽はずみに放った言葉が、却って怜を不安にさせてしまった事に、奏は申し訳ない気持ちになってしまった。




「ごめんなさい。私が余計な事を言って、怜さんを不快な気持ちにさせてしまって……」


「いや、いいんだ。側から見たら、そう疑われても仕方のない事をしてきたんだから。でも……」


涼しげな奥二重の瞳が奏に向けられると、怜は真剣な面差しを映し出した。


「俺は奏が好きだから肌に触れたし、奏を抱いた。決して俺の性欲だけを解消するために、奏と一緒にいるわけじゃない。奏は過去にあんな事があったから……俺に対しても身体だけが目的なのかって思ってしまうのは……当然の事だよな……」


話す勢いが徐々に減少していくように、言葉を紡いでいく彼。


「怜さんだって…………過去に……あんなにたくさん……傷付いたのに……」


奏は、昨晩の葉山兄弟が対峙していた時の事を思い出し、瞳が潤んでいくのを感じた。


結婚まで考えていた元カノ、園田真理子を兄に寝取られ、怜も辛く苦しい思いをしてきたのだ。


それでも彼は、自分の事よりも奏の気持ちに寄り添い、想ってくれている事に、熱を纏った雫が色白の頬を伝っていく。


「こんなに……恋人思いで…………素敵な男の人……なのに…………」


奏の言葉に、怜が彼女の身体を強く抱きしめ、艶髪に唇を落とした。




「アイツと別れたからこそ…………俺は……奏と出会えたんだろ?」


その言葉に、ハッとして見上げると、穏やかに笑みを湛えている怜の眼差しが奏を包み込んでいる。


「あのままアイツと結婚してたら、奏に出会う事もなかったし、こうして一緒にいる事もなかった。寧ろ、結婚する前にアイツの本性が分かって良かったと思ってる」


大きくて無骨な手が、奏の頬にかかり、優しく撫でた。


「今の俺は……奏と出会えて…………本当に良かったって思ってる……」


「怜さん……」


「それに、奏を想う時…………幸せで満たされて……心も身体も…………全て癒されるんだ」


頬を撫でていた怜の手が、奏の髪を滑るように撫で、額にそっと唇を押し当てる。


「俺にこんな事を思わせてくれるのは…………奏が初めてなんだ」


低くて掠れたような怜の声音に、奏は堪らず彼の背中に腕を回した。

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