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奏は怜の背中に腕を回したまま、動こうとしない。
「奏……?」
怜が呼びかけると、彼女は広い背中を回す腕にギュッと力を込める。
彼から思いもよらない嬉しい言葉を聞き、瞳の奥がジワジワと熱くなっていくのを感じていると、ホロリと涙が静かに頬を伝っていた。
(どうして私は……大好きな人の言葉を素直に受け止められないんだろう……。怜さんは私に……俺の言う事は全て本気だって……言ってくれたのに……)
こんなに男の人から想われてすごく幸せなのに、素直になれず、彼を試してしまうような事を言って、自己嫌悪に陥ってしまう。
自分の恋愛経験が皆無の状態が情けなくなって、奏の黒い瞳から雫が溢れて止まらない。
彼女の啜り泣いているような声が、怜の耳を掠めていき、彼は奏の顔を覗き込んだ。
「奏の中にはきっと……心の底に、今度は俺に裏切られるのでは……っていう疑念が……ほんの少しでもあるんだと思う。だから『ホントはただヤリたいだけなんじゃないの?』って……俺を試すように聞いたんだろ?」
怜は指先で涙を拭い、穏やかな口調で問いかけると、虚を突かれたように端正な顔へ眼差しを向けた。
「試すような事を言ったり、捻くれた事を言うのは……自分に自信がない事の裏返しだと思う。俺も…………そんな時期があったから」
(どうして怜さんは、私が考えてる事を、うまく言葉にできるんだろう……)
奏は、自分の心境を代弁するかのように言葉をかけてくれる怜に、覚束ない様子で頷いた。
怜が両手を突いて奏を取り囲むと、彼女の潤んだ瞳を貫く。
「奏。もっと自信を持っていいんだ。俺にとって、奏は誰よりも何よりも大切で…………愛しい存在なんだから」
「怜さ……ん…………」
怜は彼女の細い身体を強く抱きしめながら、小さな頭を優しく撫で続けた。
「何だか私……怜さんの前で泣いてばっかりで……すごく恥ずかしい……」
「いいんだ。今まで誰にも言えなかった事を心に抱え続けて、ずっと涙を堪えてきたんだ。泣きたい時には……思い切り泣いた方がいい」
言いながら、彼がいたずらっぽくニヤリと笑う。
「けど、泣くのは俺の前だけにしてくれよ? 奏を慰めて、その綺麗な髪を撫でながら抱きしめるのは、俺だけの役目だからな?」
奏は、筋肉質の彼の胸に顔を埋めると、首を横に振って鼻先を軽く擦る。
「奏は可愛いな。俺の愛しい女は…………誰よりも可愛い……」
怜は、奏の顎を親指でクイっと上げながら唇を重ねる。
互いに抱きしめ合いながら微睡んでいるうちに、いつしか二人は眠りに堕ちていた。