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「うそー!髭モジャ様は、髭モジャ様じゃなかったのですか!」


「タマ!私も、驚いたわ!てっきり、髭モジャ、だと思っていたもの!」


タマと、守恵子《もりえこ》が、驚いている様子を見かねたように、年老いた猫が、ミャーと、鳴きながら、前へ、歩み出て来た。


「えええーーー!!守恵子様!大変です!髭モジャって、名付けたのは、上野様だって!!」


タマは、大興奮して、守恵子へ、駆け寄った。


「何だって!」


つられて、守満《もりみつ》も、驚いている。


「あ!そうだ、紗奈《さな》が、名付けたというか、この髭モジャ!と、髭モジャ殿に噛みついた事が、発端……だったかもしれない。結局、皆、それから髭モジャって、呼び始めたから……」


常春《つねはる》は、そういえばと、記憶を手繰り、昔を思い出そうとする。


そんな、常春に、にゃーと、老猫が、返事をした。


「へえー、なんだか、驚きだなぁ。まあ、確かに、髭モジャ、って事はないだろう。名があって、当然だ」


「それにしても、成章《なりあきら》ですよ!まるで、公達では、ないですか!」


「ははは、守恵子、髭モジャも、検非違使に属していた以上、位持ちだから、立派な、公達だよ」


守近が、肩を揺らしながら、守恵子を諭すように、言う。


「それを捨てて、橘と。当屋敷で、下男を勤めているのですから、ほんに、頭が、下がります」


ただの誤解から、騒ぎを起こしてしまっただけで、解任された。その程度の事ならば、復職もあり得るのにと、徳子《なりこ》が続けた。


「きゃー!髭モジャは、橘の為に!」


「わーん!タマも、憧れます!」


守恵子の膝に、興奮気味のタマが飛び乗り、カリカリ、前足を掻いている。


「なあ、常春、私達は、こんな事をしている、場合なのか?」


「はあ、それもですが、守満様、この猫は……」


「タマが、呼んだのだよ」


「タマが?!と、いうか、な、何故、犬が、喋っているのに、皆様、平然とされておられるのです!」


「そう!とにかく、色々あったのだ!うん、あちらは、あちらに、任せて、常春、我々だけでも、しっかりしなければ」


「はい、こちらも、色々ありまして……」


あらまあ!


と、徳子と守恵子の声がする。


もちろん、二人は、猫に向かって、語りかけていた。


「母上、それは、相談に乗ってあげなければ」


「ええ、構いませんよ、守恵子や」


にゃー!と、猫が、一斉に鳴いた。


「……何やら、また、おかしな事を……常春、この間に、そちらで起こった事を話してくれないか?」


「はい、実は、行き詰まっておりまして……」


常春は、今まで起こった事、そして、今、起こっていることを、守満へ報告し始めた。


一方、何故か、猫は、増え続け、そして、規律正しく、列を作って座っていた。側では、親分猫が、仕切り、そして、老猫が、何やら、頷いている。


「えっと、じゃあ、次、いきます」


タマに続いて、親分猫が、にゃーと鳴くと、猫が、一匹前にでて来た。


「うんうん、わかりました。お方様、守恵子様、この猫は、腰が痛いそうです」


「あら、可愛そうに」


「病気かしら?橘の作る煎じ薬が、良く効くのだけど、猫には、どうなのでしょう?」


「あー、あのー、この猫は、ご主人様に、ぶつけられるのだそうです」


にゃーと、猫は、どこか、辛そうに鳴いた。


「ばくち?で、上手くいかないと、蹴ったり、色々と。で、この前、うっかり、逃げそびれて、腰の部分を床にぶつけてしまったそうです」


ひっ、と、徳子が、叫び、守恵子の表情は、キッと、したものに、変わった。


「それは、由々しき事ですね。そもそも、博打は、ご法度のはずですよ。それなのに、自分の猫に、あたるなんて、許せません!」


「さすが、守恵子様だぁ!」


タマが、喜び、もう大丈夫ですよ!と、猫に言っている。


「もう、家へ戻るのは、よしなさい。とりあえず、此方へ非難しておいで。後のことは、それからです。では、次!」


と──。


にゃーと、親分猫と、老猫が、鳴いて、守恵子を遮った。


「あっ!守恵子様!親分達が、お方様の事を、心配しています。お休みになった方が、いいと、言っています。相談事は、疲れるそうですよ」


「成る程、それも一理ある。さすがは、年の功だなぁ。徳子姫、守恵子の座所で、横におなりなさい。かれこれ、じっと、座られておられるでしょ?」


守近は、徳子の背をさすってやる。


「母上は、お前達を身籠った時、いつも、腰が痛いと言われてね。それが、背の方にまで、移ってくるのだよ」


「も、申し訳ございません!守恵子の、配慮不足でした!母上、どうぞ、横になられてください!父上!お願いいたします!」


うん、と、守近は、頷く。


守近に寄り添い、大丈夫ですよ、と、徳子は、笑みを浮かべるが、確かに、どこか、疲れが見てとれた。


「じゃあ、親分とご長老、失礼するよ」


守近は、にっこり笑うと、徳子を奥へ連れて行った。


とたんに、にや~んと、何か甘ったるい鳴き声が響き渡る。


「ん?えっと、親分が、守近様は、さすがだ、あと、お姉さん猫達が、たまんないわぁ、と、言ってます」


守近、都で一二を争うモテ男と、呼ばれていたのは、伊達ではなかったようで──。


さらに、猫にまで、今の通り名、都一の色男、の、威力を発していたとは、恐るべし。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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