テラーノベル
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亜矢子がいなくなった後、美月はどうしていいかわからずに立ち尽くしていた。
そこで海斗が言う。
「はい、言いたいことを言って聞きたいことを聞いて我慢しない!」
海斗はまるで学校の先生のように言う。
その言葉を聞いた美月はハッとして、
「私、やっぱり電車で帰り……」
美月が言い終わらないうちに海斗が言った。
「何に気を遣ってるんだか…家が近いんだから一緒に帰ろう」
海斗は何が何でも一緒に帰りたいようだ。
「え、でも、ファンの人達に見られでもしたら……」
美月はボソッと呟く。
「大丈夫だよ、車は地下に停めてあるから。それにこれをつければばれない」
海斗はジャケットの胸ポケットからサングラスを取り出すとすぐにかけた。
(サングラスをかけたら余計に目立つような気がする)
美月はそう思ったが口には出さなかった。
「ほら、行くよ」
海斗はそう言って前を歩き出した。
美月は仕方なくついて行く。
海斗と美月が地下駐車場に向かって歩いていると、後ろから声が聞こえた。
「海斗!」
振り返るとマネージャーの高村が走ってきた。
高村は二人に近づくと美月に軽く会釈をしてから、
「車、裏口に回しておいたから」
そう言って海斗にキーを渡した。
「サンキュー! 助かった」
「気をつけて帰れよ!」
高村はそう言って海斗の肩をポンと叩くと、美月に笑顔で会釈し戻って行った。
「こっちだよ」
海斗は裏口へ続く廊下を進み始める。
美月もそれについて行った。
関係者専用の裏口を出ると、そこにはピカピカの黒のランクルが停まっていた。
車のグレードは最上級のランクだろう。
車に詳しくない美月が見ても高級車だという事がわかる。
海斗は助手席のドアを開けると、
「お嬢様どうぞ!」
とからかうように言った。
周りには出入りの業者の人間が数名いたので、美月は文句も言わずに大人しく乗った。
海斗も運転席へ乗り込むとすぐにエンジンをかけた。
美月がタクシー以外の車に乗ったのは久しぶりだ。
美月は免許を持っているし運転も好きな方だ。
以前は車が必要な時は父の車を借りていた。
父の車は普通のセダンで、父が病院通いをする際もその車で美月が送り迎えをしていた。
しかし父の死以降車は手放したので、美月はここ最近車に乗っていなかった。
一方、元夫は車好きで派手なスポーツカータイプを好んでいた。
しかしまだ車が新しいうちに次から次へと乗り換える為、家計は火の車だった。
だから美月はスポーツカータイプがなんとなく苦手だ。
美月はもし自分が乗を買うとしたら、こういう4WDタイプの車がいいと思っていた。
なぜなら天体写真を撮りに行く時に望遠鏡などの機材を沢山積み込めるからだ。
それに山などの悪路でも問題なく乗れて、かつ車中泊も可能だ。
だからこの車に乗る事が出来て正直嬉しかった。
海斗は運転しながら美月に聞いた。
「明日の仕事は朝から?」
車の事を考えてぼーっとしていた美月は急にハッとする。
「明日は遅番なので午後からです」
「じゃあ夕飯食べて帰るか」
海斗はそう言うと車を右折させた。
「えっ?」
と美月が戸惑っていると、
「はい! 言いたいことはすぐに言う!」
海斗はからかうように言った。
海斗のそんな様子を見て、美月は諦めたように答える。
「いいえ、なんでもありません」
思わず海斗が声をあげて笑った。
それに釣られて美月も笑い始めた。
その頃亜矢子は夫の車がつ場所へ向かっていた。
浩の車を見つけた亜矢子はすぐに駆け寄る。
「浩、迎えに来てくれてありがとうー」
亜矢子は笑顔で夫に言った後、後ろのチャイルドシートに座っている息子の亮に向かって言った。
「亮ちゃんただいまー、いい子にしてた?」
「ママッ、ママッ! おかえり」
亮は手足をバタバタさせて上機嫌で答える。
すると浩が早速聞いた。
「美月ちゃんと沢田さんどうだった?」
亜矢子は今日の海斗のイベントの事を夫にメッセージで伝えていた。
「うん、今度は大丈夫な気がする。沢田さん超いい人だった」
亜矢子は少し涙ぐんで答えた。
妻が泣いているのを見た浩は、亜矢子の頭をポンポンと撫でながら優しく言った。
「そうかー。それは良かったな」
そして今度は息子の亮に向かって言った。
「亮、これから三人でレストランに行くぞー!」
父親の浩がニコニコして言ったので、亮はキャッキャと喜んでいる。
そんな優しい夫に、亜矢子はご褒美のように言った。
「今度ご主人と一緒に是非コンサートへ来て下さいって言われたよ」
すると浩はびっくりした顔で叫んだ。
「うおぉーーー!」
浩はガッツポーズをして大喜びしている。
三人が乗った車の社内では、いつまでも楽しそうな笑い声が響いていた。
コメント
3件
浩さん嬉しいですよね〜!亜矢子さんとのやりとりに幸せそうなのが現れてます。美月ちゃんはまだ海斗さんに一線ひいて、遠慮してますね?海斗さんの気持ち、はやく伝わりますように🥰
海斗さんは美月ちゃんを迎える覚悟が出来ていて、それを亜矢子ちゃんも感じ取ったと思う!後は美月ちゃんの気持ちだけ。あと一歩進めることが出来たら…
海斗さんの美月ちゃんへの気遣いが優しくてとても嬉しい🥹✨どうか上手に美月ちゃんをリードしてくださいね、海斗さん😘 そして浩さん亜矢子ちゃんも亮君と3人で楽しいご飯タイム🍽️みんなハッピーですごく嬉しい😊🌸