テラーノベル
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ザシュッ!!
矢が首を貫く。
鮮血が舞う。
時間が止まる。
誰も動けない。
「……隊長?」
一番隊員が呟く。
信じられないものを見る顔。
ガルドは立っていた。
まだ。
立っていた。
首元を押さえる。
一歩。
二歩。
それでも前へ進む。
首から血を流しながら。
指の隙間から血が溢れる。
止まらない。
「ったくよ……」
苦笑する。
「最後まで」
咳き込む。
血が零れる。
「面倒見の悪い団長だぜ……」
カイルの目が見開かれる。
「ガルド!!」
「隊長!!」
誰かが叫ぶ。
ガルドは振り返らない。
ただ前を見る。
巨大な魔王だけを見る。
そして。
大剣を地面へ突き刺した。
ドン!!
「止まるなァァァァァ!!」
全員の動きが止まる。
ガルドが叫ぶ。
血を吐きながら。
「白銀騎士団だろうがァ!!」
その声が最後に振り絞って出た最後の言葉だった。
ガルドは笑う。
いつものように。
豪快に。
(約束忘れんなよ)
(酒だ)
膝が崩れる。
「隊長ォォォォォ!!」
一番隊が叫ぶ。
セラの顔から血の気が引く。
ドランが走る。
リシアも駆け出す。
だが。
間に合わない。
ドサッ。
ガルドの身体が地面へ倒れた。
大剣が横へ転がる。
石畳を擦る音だけが響いた。
静寂。
誰も言葉を失う。
だが。
カイルだけは止まらなかった。
歩く。
ただ前へ。
魔王へ向かって。
一歩。
また一歩。
涙が一筋だけ頬を伝う。
それでも止まらない。
魔王はゆっくりと立ち上がる。
片膝を離す。
十五メートルの巨体が空を覆う。
だが。
カイルは見上げない。
走った。
地面を蹴る。
宙へ飛ぶ。
狙いは魔王の腹部。
その瞬間。
脳裏に過去が蘇る。
「俺が隊長?」
若き日のガルドが不満そうに言った。
「隊員のまま暴れてる方が性に合ってるんだがな」
まだ団長になったばかりのカイル。
その前には一本の大剣。
血に染まった古い大剣。
前任隊長の形見だった。
「これに見覚えはあるな」
ガルドが目を見開く。
「……クソジジイの」
震える声。
「隊長は最後、何て言った」
カイルは沈黙した。
言葉が出ない。
ガルドはそれだけで察した。
「分かった」
苦笑する。
「全部分かった」
そして酒瓶を掴む。
「貸せ」
一気に飲み干す。
「グァッ……!」
喉を焼く烈酒。
だがガルドは笑う。
「カイルだったな」
大剣を握る。
「そう簡単には俺は扱えねぇぞ」
その目が鋭くなる。
「覚悟はあるんだろうな」
カイルは真っ直ぐ見返した。
「私が半端な覚悟で団長をやっているように見えるか?」
数秒。
沈黙。
そして。
ガルドは笑った。
「ほぉう」
大剣を肩へ担ぐ。
「どっちが先に死ぬか見ものだな」
現実へ戻る。
カイルは咆哮した。
「あああああああああああッ!!」
その瞬間。
異変が起こる。
右の額。
角が生える。
白銀の角。
瞳が変形する。
円だった瞳孔が。
十字へ変わる。
秘められていた力。
全てが解放される。
カイルは剣を振り上げた。
「神の咆激斬(ゴットフリートキリン)!!」
斬撃が走る。
確かな感触。
届いた。
初めて。
魔王へ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
押し切る。
全力で。
魂ごと。
みんな!!」
リシアが叫ぶ。
「団長へ続け!!」
騎士達は動けなかった。
身体が限界だった。
魔力も。
体力も。
残っていない。
だが。
その時だった。
背中を押された気がした。
聞こえた気がした。
もう居ないはずの男の声が。
(胸を張れ)
⸻
優しい声。
⸻
(白銀騎士団が今、一番輝いてるぞ)
⸻
ガルド。
⸻
「……っ!」
一人が前へ出る。
二人。
三人。
やがて全員。
武器を握る。
リシアが剣を掲げる。
「最後のチャンスだ!!」
声が枯れる。
「この国を!!」
「この世界を守るぞ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
総攻撃。
全魔力。
全武力。
全生命。
残る全てをぶつける。
腕が折れようと。
脚が砕けようと。
関係ない。
全員が突っ込む。
そして。
最後。
カイルが魔王の懐へ潜り込む。
剣を握る手は震えていた。
限界だった。
これが最後。
最後の一撃。
「神の咆激斬!!」
剣が振り抜かれる。
バシュッ!!
初めて。
魔王から何かが飛び散った。
血ではない。
黒い泥。
闇の塊。
そして。
巨体が割れる。
真っ二つに。
ドゴォォォォォォン!!
前方へ。
後方へ。
魔王の身体が崩れ落ちた。
瓦礫の向こう。
ロビンが空を見上げる。
「あぁ……」
苦笑する。
「我が主……」
微笑む。
「やっと……」
言葉は最後まで続かなかった。
ズドォォォン!!
巨大な肉塊が落下する。
ロビンの姿が消えた。
静寂。
騎士達が次々と倒れていく。
立てない。
もう。
一歩も。
カイルも膝をつく。
角が消える。
瞳が戻る。
ただの人間へ。
ゆっくりと空を見上げた。
夜空だった。
静かな。
綺麗な夜空。
そして。
小さく笑う。
「ガルド……」
声が掠れる。
「ちょうど」
目を閉じる。
「一緒に酒が飲めるな……」
その夜。
グラディウスは静寂に包まれた。
誰も知らない。
この戦いが。
後に王国史に残る
「グラディウス魔王討伐戦」
と呼ばれることを。
コメント
1件
うわ……読み終わってしばらく動けなかった。ガルドの最期、あの「酒だ」って約束がもう……。回想シーンで若い頃のやり取りが入るから、余計に胸に来るよね。カイルが角を生やして覚醒する展開も、伏線っぽくて「そう来たか!」ってなった。でも何より、倒れた騎士たちを背中で押したガルドの声——あれが一番ぐっときた。構成としても、回想→覚醒→総力戦の流れが完璧で、読んでて息が止まったよ。リユさん、本当にすごい話をありがとう……!
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