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料理が運ばれるまでの間、三人の雑談は谷岡の結婚する話で盛り上がる。
「所長! いつの間に彼女ができて、結婚するとは……!」
美花が薄茶の瞳を、パチパチと瞬きをさせている。
「実は、さっきのウェイトレスの彼女、恵菜は、私の高校時代の親友なの。ですよね? 所長」
「あ……いや…………まぁ……な……ハハハハッ……」
「うわぁ……なみプーの人脈っていうの? 何かすごくない!? っていうか、所長。どうやって彼女さんと知り合ったんですか?」
「いやぁそれがさ…………」
二人の馴れ初めは、昨年のクリスマス、谷岡が向陽商会本社での合同会議の帰りに、立川駅前で、恵菜とぶつかった事だったらしい。
恵菜に一目惚れした谷岡は、その二日後、奈美と、このカフェにランチをしに行った時に再会し、奈美と恵菜が高校時代の親友だった事も分かって、谷岡は、本橋夫妻の協力もあって恋が実ったという。
上司は、ずっと顔を赤らめたまま、照れ笑いが止まらない。
こんな谷岡の表情を、美花は見るのが初めてで、女にだらしがないと噂をされているのが、嘘のように感じる。
(所長、こういう恋愛ネタって隠しそうに見えたけど……意外と話すんだなぁ……。しかも、昨年のクリスマスに、所長にもドラマがあったんだ……)
谷岡の雰囲気が、何となく変わった理由が分かった美花は、恋人の恵菜が、店内で忙しく動き回っている様子を、チラ見する。
(しかも彼女さん、すっごい美人だし……)
ここ数ヶ月、美花の周辺では、おめでたい話題ばかりが続いている。
(みんな……いい恋愛しているんだなぁ。それに比べて……私は……恋愛ができない。いや…………恋愛してはダメ……なんだ……)
彼女の心に燻っている諦めの思いに、小さな火が灯される。
いたたまれなくなった美花は、上司と親友からさりげなく顔を逸らし、窓に映る無機質な倉庫街を見やった。
「お待たせしました。ロコモコのランチセットと和風パスタのランチセットです」
料理を運んできた恵菜の声で、美花がハッとした。
(何だか今日の私、心が『ヒヤリハット』状態だよぉ……)
「美花? どうしたの? 食欲ない?」
ずっと黙り込んだままの美花に、奈美が気遣って声を掛けてきた。
「う……ううん、何でもないよぉ。今日はいい天気だなぁって……外を見ながら思ってただけ」
その後のランチタイムは、何とか笑顔を作りながら食事をする美花だった。
保谷東