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一方、俊と雪子は下りのエスカレーターへ乗っていた。


「麻美さん凄く素敵な人だったわ。別れた夫婦が今でも仲が良いってなんか羨ましいです」

「ハハッ、まあ俺達はいがみあって離婚したわけじゃないからね」


離婚後も元妻と良い関係を築き、その元妻が再婚するのを心から祝福できる俊の事を雪子は尊敬していた。

どうやったらそんなに広く優しい心でいられるのだろうか? 雪子は自分はまだまだだわと少し反省をした。

そして自分ももっと懐の大きな人間になりたいと思う。


あれほど避けていたデパートの本店に今雪子はいた。

隣りには常に寄り添い温かい手で包み込んでくれる俊がいるから、雪子は想像していたよりもずっとリラックスしている自分に気づいた。


エスカレーターを1階で降りると二人はフロアを歩き始めた。すると進行方向のハンドバッグ売り場に見覚えのある顔を見つける。

その人物は俊之の不倫相手の河合みなみだった。


雪子はその瞬間俊の手を強く握りしめた。


「右前方に元夫の不倫相手がいます」


雪子はそっと俊に告げた。俊はすぐにその方向へ視線をやる。

そこにはぽっちゃりとした雪子よりも少し年上と思われる女性店員の姿があった。

そこで俊は雪子を励ますように言った。


「大丈夫だよ、俺がついている」


俊の言葉に雪子はしっかりと頷いた。しかしその手は少し震えていた。


二人が近づくとみなみがこちらを見た。そして雪子の顔を見ると驚いた顔をしている。


みなみはすぐに雪子の隣にいる俊をチェックする。しかしそこにはうっとりするような超ハイスペックの俊がいたので、みなみの顔は一気に悔しそうな表情へ変化した。


次の瞬間二人はみなみに最接近した。その時雪子とみなみの視線がぶつかる。

しかし雪子はみなみに向かってフッっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。雪子の人生において最初で最後の精一杯の演技だった。


そこで俊は繋いでいた手を離すと雪子の肩に手を添え抱き寄せた。

そしてちょうどみなみの真正面に来た時雪子の耳元へ唇を近づけてから言った。


「愛しているよ」


ちょうどみなみに聞こえるようなボリュームで俊は甘く囁いた。

その際みなみの顔をチラッと盗み見た俊は、顔を真っ赤にして怒りに震えるみなみの表情を捉えた。


歩きながら俊が急に耳元で愛の言葉を囁いたので雪子は顔を真っ赤にしている。

そんな雪子が愛おしくなり、俊はつい雪子の髪にチュッとキスをした。そして更に強く肩を抱き寄せる。


仲睦まじい二人の背中に刺すような強い視線を感じる。

しかし雪子は先ほどまでの戦闘態勢はどこへやら、恥ずかしくて頬を赤らめたまま俊にエスコートされながらその場を後にした。


雪子は駐車場へ向かいながら20年ぶりに会ったみなみの様子を思い返していた。


若い頃はスレンダーだったみなみに昔の面影はなくかなりふっくらとしていた。

俊之と不倫していた頃は女の色香をまき散らす魔性の女というイメージだったが今は見る影もない。

女性の外見には今その女性が素敵な恋をしているかどうかが全て表れてしまう。今のみなみからはどう見ても幸せそうな様子は伝わってこない。


みなみが他人の家庭を壊してまで手に入れたものはなんだったのか?


『他人の不幸の上に幸せは成り立たない』


他人を追い落とし優越感に浸って得た幸せはもろくて儚い。

そして不幸にしたはずの相手が幸せそうにしているのは一番の屈辱だろう。


だから雪子は幸せになろうと決めた。


相手を恨むよりも自分が思い切り幸せになる。これが奪った側の人間に対する一番の復讐になるのだから。


その時俊が言った。


「雪子の方が全然可愛くて綺麗だ。あの女性は君のライバルにもならないよ」


雪子は嬉しくて俊を見上げて微笑んだ。

優しく互いを見つめ合う二人はどこからどうみても幸せそうな大人のカップルだった。



駐車場まで戻った二人は車に乗った瞬間同時に笑い声を上げた。


「やったな」

「うん、凄くすっきりしました。ありがとう」

「雪子凛々しかったぞ」

「フフッ、俊さんが一緒にいてくれたからです。本当にありが…….」


雪子が言い終わらないうちに雪子の唇を俊が塞いだ。

辺りに人の気配がなかったので、二人はしばらくの間抱き合いながら熱い抱擁を交わした。


51歳のシンデレラ

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