テラーノベル
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坂口安吾@テラ故障27年まで休
#地雷さん注意
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潜書した本の中は晴天とはほど遠い暗闇が支配する世界だった
足元は底の見えない泥濘のようで一歩踏み出す度に現実感が削り取られていく
「君といた時は見えた、今は見えなくなった…か」
北原白秋が暗闇の奥を見つめて独り言のようにつぶやいた
彼らが探しているのは侵蝕者に奪われ透明になってしまった物語の核心───いわばこの本の魂である彗星だ
「白さん、ぼんやりしてたら足元掬われますよ!」
威勢の良い声と共に室生犀星が発砲し、背後から迫る侵蝕者を撃ち抜いた
その隣では萩原朔太郎が震える手で銃を握り直し、周囲を警戒している
「怖いね犀。ここは自分達が知ってる言葉が一つも落ちていないみたいだ」
「まるでお別れしたあとの空っぽの部屋にいるみたいで…」
朔太郎の言葉に白秋はふっと目を細めた
かつて共に詩を語り、笑い、そして死別していった日々
転生という奇跡を経てもなお失ったものの輪郭は透明のままだ
どれだけ目を凝らしてもかつての「君」が隣にいた時の景色は完全には戻らない
「寂しいのかい、朔太郎くん」
「…寂しくなんかありません。ちゃんと寂しくなれたから」
朔太郎は自分に言い聞かせるように繰り返した
寂しさを感じられるのはそこに確かな出会いがあった証拠だ
「よし、行こうか」
「星を思い浮かべたならすぐ銀河の中だよ」
白秋が銃を空へと向け、引き金を引いた
放たれた弾が闇を裂き、頭上に偽りの美しい満天の星空を映し出す
「理想で作った道を現実が塗り替えていく…なら僕達はその上から何度でも新しい詩を書き加えてやればいい」
師の言葉に犀星と朔太郎の瞳に力が宿る
透明な彗星は見えない
けれどそれを探して歩き続ける自分達の足音だけはこの暗闇の中で確かに響いている
北原一門は互いの背中を感じながらさらに深い闇の奥へと踵を鳴らした