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…………
「そりゃ、冷たいジュースやアイスばかり買ってちゃダメさねえ」
「え? どうしてですか?」
「そんなに大汗を掻くところなんだし、塩分が必要になって来るもんなんだよ。いいかい? 今度、地獄へ行く時には塩持ってきなさい。塩」
「はあ……」
「こんなこともあろうかと。巫女さんの梅干し入りおにぎりには、塩をたくさん使ってあったんだよ」
「え! はあ。そうだったんですか。ありがとうございます。そういえば、あのおにぎり塩辛かったわ」
……うん?
ここはどこだ?
近くで音星とおばさんの話し声が聞こえる。
あ、そうか……。
俺は玄関先で倒れたんだったな。
うー、頭が今でもクラクラするぜ。
きっと、熱中症だな……。
熱中症!!
そうか!
今の話し声のおばさんの言う通りだ!
地獄でも塩分が必要なんだ!
俺は目を開けて、上半身だけ起き上がると、そこは丁度民宿のキッチン側にある客間だった。程よい広さの和室だった。柱時計が真ん中にある。壁には色々な形の提灯が並んでいた。
立ち上がって、客間の長椅子に座る音星の方へ歩いた。その向いにおばさんがいる。俺のおでこにおいてあった濡れタオルが下へ落ちた。
「あ、火端くん! まだ寝てないと。今、お医者さん呼んだから。もう少し寝ていなさいな」
「あ、火端さん。お顔色がまだ優れていないようです」
「ああ……それじゃ、まだちょっと横になろうかな。……あれ? シロは?」
客間にもここから見えるキッチンにも、シロがいなかった。
「シロ! シロ! ……あれれ? いないの? ひょっとしてまだ地獄にいるとか?」
「そうなんですよ。シロは叫喚地獄を出る時にはちゃんと手鏡には写っていたんです……ですけど、現世には戻ってきていないみたいですね」
音星は顔を下に向けて、少し考えてから。
「きっと、シロのことです。大方。弥生さんを追ってどこかへ行ったのでしょう。心配してしまいますが、シロなら大丈夫ですよ」
「そうか……弥生。どこいっちゃったんだろう? あんだけ探したのになあ……。やっと、見つけたのになあ……」
俺は明日、弥生をまた探そうと心に決めた。
だけど、お医者さんの話では、もう少し寝ていた方がいいということだった。そう言われると、まだ具合が悪かったので、渋々横になった。
やっと起き上がって普通に走れるようになる頃には、音星の話では、あれから二晩も経っていたようだ。
さすがに、マズいぞ。
時差がある地獄でも時が進んでしまったはずだ。
そんな朝。
俺は早めに地獄へ行こうと、キッチンで急いで朝食を摂っていると、いつの間にか食卓に椅子が一つ増えていることに気がついた。そこへ女の人が座った。