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「あ、あれ?」
俺はその女の人が音星かと一瞬思ったけど、顔を上げて見ると、どうも違う。顔も背格好も全然違っていた。背が高くて、切れ長の目と紫色の薄い口紅が印象的なお姉さんだった。
「あ、おはよ。霧木さん」
「おはようさん」
「ええ、おはようさん……私、この席でいいのよね。もう一つ空いてる席があるんだけど」
「ああ。霧木さんはそこでいいぞ。もう一人のお客さんは、巫女さんやってて、朝は凄く弱いんだよ。だから、いつも遅れてくるから。ところで、ぼうず。この人は霧木さんっていう。うちの新しいお客さんだ。なんでも、女の一人旅をしていて、バイクに乗って日本中を旅行しているんだってよ。どうだい。カッコイイだろう?」
「お、おう」
霧木さんといわれたお姉さんは、気だるげにおじさんとおばさんに挨拶をしてから。谷柿さんと古葉さんと話している。二人は以前にでも出会っていると見えて、普通に話していた。
霧木さんは凄くカッコイイ人だった。
「あ、なあ。霧木さん。猫好きか?」
「え? ええ。好きだけど……なんで?」
「い、いや……ああ、猫好きかあ」
隣に座っている古葉さんが真っ赤な顔で、頭から湯気をだしているかのような口調で、霧木さんの顔をずっと見つめていた。
谷柿さんは、至っていつもと変わらない。
「ふむ。うちの会社には美人が多いが……こんな美人がいるなんてな。世界は広いな」
「おはようございます」
寝ぼけまなこの音星が廊下からキッチンに顔を出した。
「あ、新しいお客さんですね。私、音星と申します。少しの間よろしくお願いします」
「ふーん。あんた巫女さんなの? 霧木 陽子よ。よろしくね。それにしても、綺麗な人だねえ」
音星も早めに朝食を摂った。
俺は食べ終わると、急いでおじさんとおばさんと、朝食の後片付けをした。皿洗いをしていると、おじさんが俺のおでこをピンと人差し指で弾いてから、二カッと笑った。
「ぼうず。後は俺がやる。何やら急いでいるようだからな。さあ、巫女さんのところへ。行った。行った」
蛇口を捻って、後ろを向くと音星が廊下で身支度をすまして待ってくれていた。
「おじさん! ありがと!」
俺は大急ぎで、二階へ上がってクーラーバッグを持ち出すと、そのまま一階の廊下で待っている音星のところまで走った。
だが、途中で霧木さんにぶつかってしまった。
「おっと! もう、廊下は走らない。いいわね」
「はい。すいませんでした!」
何故か気だるげな印象の霧木さんが、一瞬だけ学校の先生のように思えた。
音星と一緒に玄関まで行くと、音星は肩に背負っている布袋から手鏡を取り出した。
「火端さん。急ぎましょう。もうすでに地獄ではかなりの時間が経っています」
「あ、ああ。でも、塩分とジュースやアイスとかは?」
「大丈夫ですよ。私がおばさんに頼んで買ってもらったんです」
「ありがとな!」
「弥生さんもですが、シロも心配です。急いで叫喚地獄へ行きますよ」
音星は手鏡を俺の方へ向けた。