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扉を開けて中に入れば、側近で周りを固めた屋敷の主人がいる。
「な、ななな、何なんだ貴様は! ここが俺様の屋敷だと知っての事か⁉︎」
「貴様など知らん。ただここは俺の最初になった。それだけの事だ」
扉から、壁を伝い窓までも黒く染まっていく。
「な、何だこれはっ。ええい! 殺せ! さっさとそいつを殺せぇっ!」
側近の男たちが武器を手にして迫り来る。
けれどそいつらがその人に触れることはない。側近たちは顔面に大きな溝をつくって凹み、仰向けに倒れた。
「それは憤怒と支配のウィップ。今のお前に絶対的な力を与えてくれる」
コートの男の後ろから鞭を持った僕が奴の前に姿を見せる。さっきは誰の視界にも入らない所から相手の顔面を打ち抜いたのだ。この力がとてつもないものだと分かる。
「ありがとう。僕はこいつらを許せない」
打たれた男たちは痙攣して起き上がりそうにはない。まだ動いていなかった側近も同様に打ち抜いて、今度は即死してしまった。
その鞭の動きを見切れるものはコートの男以外にいない。
僕でさえ、そうしたいと願った通りになっている事しか分からない。
けど今はそれだけで充分だ。
残りの2人の側近も息絶える。
「あ、あい……ひぃ……エ、エミール…私の可愛いエミール。たす、助けてくれ、わたわたしは…ひぎいっ⁉︎」
奴の──
右腕が肘からちぎれた。
左腕は前腕の真ん中が雑巾のように絞られた。
右脚は太腿に大きな溝がつくられた。
左脚はズタズタに張り裂ける。
全部僕の仕業だ。
「おにいさん。名前はなんて言うの?」
「呼びたければキスミとでも呼べ」
僕の心には燃えたぎる想いがある。
「そう、キスミさん。僕は生きるよ。こいつらを根絶やしにするまで……」
したたかに打ちつけた鞭は奴の背中を引き裂く。
「あがぁっ⁉︎ おおごおほっほおぼぼぼおお」
「好きにしろ。お前が生きるなら俺はお前の助けになろう」
主人はドロドロの赤い液体を口から溢す。
「お前に大いなる癒しを……」
反面、キスミさんの魔術により僕は癒される。それまでの身体の傷を全てなかったかのようなまっさらに。
「これでうんこをする時にも問題はないだろう」
「ふふっ。もう少し言い方ないのかな?」
僕はひさびさに笑えた気がする。身体が時を戻したかのように癒されたのがわかる。その分、心がどれほどに荒み墜ちているのかも思い知らされる。
「そこの男にも継続回復の魔術を施した。その状態からでも5分もあれば全快し続けるだろう」
「そう──ありがとう」
「ぐはぁっ。や、やめ、やめてくれぇぃ……やめっひぎぃっ⁉︎」
キスミさんはベッドに横になる。
「気が向いたら殺してやれ」
それきりキスミさんは向こうを向いて寝てしまった。
僕はそれには答えない。どこまでいけば晴れるか分からない厚い曇り空にはまだまだ光は差しそうにないから。
「夜はまだ長い……楽しもうよ。貴族様」
ひどく嗜虐的な笑みを浮かべた可愛い男の子は、夜が明けるまでその力を振い続けた。
「──だから僕は貴族を根絶やしにするんだ。そうしないと誇りを取り戻せそうにないから」
朝日が昇り始めた頃、回復魔術の薄れた頃、この屋敷の主人だったモノは部屋の壁紙と絨毯の模様となっていた。