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ふと疑問に思ったことがあった。
此の世界では、黒服とはどのような意味を持つのだろうかという単純な疑問。教会に行くにあたり、黒服に身を包むことになったのだが、果たしてこれは意味があるのかどうかと言う点だ。
私達の世界では、黒服に身を包む事なんてファッションか、喪服の二択だったから、これまた気になることだった。本当に、どーでも良くて流してしまえばいいんだけど。
「ねえ、ブライト」
「はい、何でしょうか。エトワール様」
「この黒服に着替えた意味ってあるのかな……あ、ほら、ヘウンデウン教の教会に行くって言うことで着替えたけど、黒に意味があるのかなあとおもって」
私がそうブライトに尋ねれば、ブライトは考え込むような素振りを見せた後、そうですね。と息を吐いた。
「基本的には死者の葬送の時に着るものですが、黒は自分の主張を通したいときに着る服でもあるんです。何と言いますか、黒という色は好まれていません。ラスター帝国に限らずその周辺の国は、何色にも染まらない頑固たる意思を持つこの色を嫌うのです」
「綺麗な色だと思うけど……」
ブライトの説明を聞いてもイマイチ納得が出来なかった。まあ、そうなんだという風に流してしまうことも出来たが、黒のイメージは此の世界では、あちらの世界と少し異なるんだなあと思った。確かに、何色にも染まらない色ではあるし、強い色ではある。それを、此の世界では自分の意思を通すための色として扱われているのだ。喪服に使われているのはあちらと変わりはないが、だとしても黒の意味があるのだろうか。
「でも、なんで今回黒服に着替えたの?」
「混沌の色でもあるんですよ。色んな黒が寄せ集まって黒が出来る……そんな風に捉えられているんです。一人一人の願望が混ざって、さらに黒くなる。自分の意思を欲望を叶えるための、誰にも邪魔させないという意思の色。だから、黒なんです。ほら、その点、神殿にいる神官さん達は白い服を着ているでしょう? あれは、そう女神と混沌、信仰の対象をわけているんです」
と、ブライトは丁寧に教えてくれた。
言われれば、神官さん達は白い服を着ていた気がする。
ブライトはその後、白は博愛の色だといった。此の世界の色の認識がイマイチ分からなかったが、そういうものなんだと飲み込んで、私達は、教会の開けたところまでいく。
先ほど響いていたパイプオルガンが現われ、その大きさと迫力に息をのんだ。パイプオルガンの周りの装飾も美しく、元々は女神を信仰していたのだと分かるような、天使のような装飾などが刻まれている。
「入信者ですか?」
と、どこからともなく黒服を纏った神父らしき人が現われた。
私は驚いて、思わずグランツの後ろに隠れてしまう。
「大丈夫ですか、エトワール様」
「う、うん、大丈夫。びっくりしただけ」
グランツは神父に聞えないようにこそりとそう言った。私の名前を大きく言わないのは、私が名前の知れている聖女だから。そういうのを配慮してくれたんだと思う。変装をして、魔法で髪色と瞳の色を変えてきたが、バレる人にはバレるこの魔法を、見抜かれないことを祈るばかりだった。
以前、一発でラヴァインに見抜かれたことがあり、それ以降研究を重ねて精度の高いものをブライトと創り上げたが、誤魔化すためのものである為、精度を上げたところで何処かアラがでてしまう。
だが、ラヴァインほどの人間でなければバレないのなら心配はないかも知れないが。
(というか、この神父どこから出てきたの?)
パイプオルガンは誰かがひているわけでもなく、勝手になっているようで、先ほどより近くにあるためかその音は大きく聞えていた。そのせいで、雑音が拾えなかったのかも知れない。だとしても、気配すら感じなかったのだ。
もしかしたら、危険かも知れないと、私は警戒を強めた。ギュッとグランツの服を握ってしまい、彼のこのためだけに着せて貰った高そうな黒服に皺が寄る。
「あっ、ごめん」
「気にしないでください。エトワール様。どうせ、これは使い物にならなくなるでしょうから」
そう、グランツはいって神父の方に目を向けた。
使い物にならなくなるとはどういうことだろうかと、首を傾げていれば、ブライトは私達を庇うように前に出て持ち前の笑顔を神父に向けた。
「ええ、そうです。混沌を信仰しているというこの教会に。帝国はそういうのに厳しいので、目をかいくぐってきました」
と、つらつらと嘘を並べるブライトは何というかさすがだと思った。
昔は、ブライトのことは物事をはっきり言わない嘘と偽りで出来ているような男だと思っていたことがあったが、今ではそれがピタリとなくなっていた。そのため、こう、人を騙すことに躊躇ない笑顔を見ていると、何だかなあとなんとも言えない気持ちになる。
彼も良心が痛んでいるに違いないが、顔に出ないのはさすがとしか言いようがない。
「そうですか。そちらの方達も?」
「はっ、はい」
神父がグランツとその後ろに隠れている私達に声をかけてきたので、声が裏返りながらも私は返事をした。完全に挙動不審で、あっちからすれば怪しい人に見えたに違いない。というか、怪しまれていないか、本当に心臓が飛び出そうだった。
神父は目をまるくしつつも、とくに怪しんでいる様子はなく「そうでしたか」とにこりと笑顔を作った。神父は黒い服に、少し白髪の交じった黒髪をオールバックにした中年男性のように見えたが、若いようにも年老いても見えて不思議な感じがした。だが、少し目の下に隈があり、体調を心配している自分がいる。
(で、でも、ヘウンデウン教の混沌を信仰しているって言う教会の人だし、悪い人! 何だろうけど……)
見た目だけでは中々判断できなかった。そもそも、見た目で人を判断するものじゃないし、完全な偏見になってしまうだろう。あの笑顔を見ると、悪い人には見え無いと思ってしまうが、先ほどの気配を消して現われたところをみるとやはり気は許せない。
それに、先ほどから私達を監視するような視線も気になって仕方がない。
「そうですか、そうですか。遠路はるばるようこそお越し下さいました。といっても、この教会はそこまで広くないですが、いつか大衆にも混沌の良さを分かって貰えればと思います」
さあ、こちらに。と神父は私達を案内する。私はパイプオルガンを横目で見ながら、教会の奥へと進んでいく。暫くいくと礼拝堂が見え、白い石像が黒いペンキで汚されているのが目に飛び込んできた。
石像の顔は落とされており、倒れてこないか心配なほどボロボロだった。
「え、ええっと、あの石像は?」
そう、思わず聞いてしまい、私はいけない気がして口を咄嗟に塞いだ。バッと振返った神父は一瞬恐ろしい顔をしていたが、先ほどの笑顔にも戻り「女神の石像です」と答えてくれた。その答えを聞いて、本来なら知っていないと可笑しいはず、見たいなものなのだと、安易に口にしてしまったことを後悔している。だが、それだけで怪しまれるのだろうか。
まあ、いい。と私はこれ以上変なことを言わないようにと口を閉じる。
「混沌は形亡き者ですから、石像はないんです。元々女神を信仰していた教会ということもあってここにこうしてあるわけですが、今現在は混沌を信仰している教会。女神の石像などひつようないのですよ」
と、神父は言うと女神の石像を睨み付けていた。
そもそも、なんで混沌を信仰しているのかという話である。
聞きたいが、聞けない。そんな気持ちでいっぱいで、私はどうしたものかと思っていると、神父の方から口を開いた。
「女神は、何も与えてくれません。その点、混沌は全てを与えてくれる。弱者に平等といいながら口だけで平和にならない女神よりも、強者であればその機会が与えられる混沌の方が、よっぽど世のためになると思いますけどね」
あくまで私の意見ですけど。と、神父はいってため息をついた。
確かに、神よりも悪魔と契約したいという人が多いというか、そういう創作は沢山見てきた。代償はあれど、願いが叶う悪魔の方がよっぽどいい、みたいな。それが此の世界では女神より、混沌、というとらえ方なのだろう。神は願っても幸せにしてくれない。なら、欲望をさらけ出し、己のために行動すれば力を授けてくれる混沌の方が、と。
だが、そんなの自分勝手すぎると思った。自己中、身勝手極まりない。
「貴方方はどう思いますか?」
と、神父は私達を試すように質問を投げた。
ここで本当のことをいってしまったら、完全にバレてしまうだろうと私は拳を握るしかなかった。手のひらは汗で濡れている。
今日は、トワイライトがいるかとか、元々ブライトの調査でついてきているだけだった。いきたいといったのは自分だけれど。所謂潜入調査みたいなものだ。きっと私はむいていないんだろうなと思いつつ、どうすればいいかとブライトを見れば、ブライトは任せて下さいとでも言うように微笑んだ。
「欲望に忠実なことはいいと思います。現に僕も叶えたい願いがありますし、力が欲しいと思っているのは本当です」
そう言ったブライトの言葉は、嘘偽りない本音のようにも思えた。だが、悪い意味では泣く、単純に本気でそう思っているのだろう。彼の意図が、言葉の裏に隠された思いを知っているからこそ、知らない人には分からない彼の優しさや苦悩が見える気がした。
神父はその答えを聞いて、うんうん。と肯定するように頷いたが、次にその人身を開いたとき、どす黒い何かを感じ取った。
「……ああ、貴方方は本当に嘘つきだ」
そういうと神父は、ニヤリと口角をあげた。