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朝の光がカーテン越しに差し込む。日本は、ベッドの中で目を覚ましたが、すぐには起き上がれなかった。胸の奥がざわついて、手足がうまく動かない。
(……大丈夫、今日は普通の日)
そう自分に言い聞かせてから、ゆっくりと身体を起こす。制服のシャツに手を伸ばしたとき、部屋のドアがノックもなしに開いた。
「おい、日本。朝だ。遅れるぞ」低く響く声。一一父親であり、陸上の象徴。
「…..はい、すぐに行きます」
短く答えて視線を落とす。陸の声を聞くだけで、背筋が伸びる。怖くはない。むしろ安心する。でも、どこか息が詰まる。
食卓にはすでに海と空がいた。海は新聞を読みながら、コーヒーを啜っている。白い制服の襟元が整っていて、隙がない。「おはよう、日本」
海が言うと、日本は少しだけ微笑みを返した。
「…..おはよう、兄さん」
空は隣の席でトーストをもぐもぐしていた。ぐしゃぐしゃの髪、半開きの口。だけど、その視線だけは鋭く、日本をじっと見つめていた。
「昨日、寝るの遅かった?」「…..ううん、普通だよ」
嘘だった。昨日は眠れなかった。海に憂められたことが頭から離れず、空の言葉がやけに優しくて、陸の手が肩に触れたとき、心臓が跳ねた。
三人とも好きだ。どこか壊れるほどに。でも、それを知られたらきっと、もうこの家にはいられない。
(だから、普通でいなきゃ)
学校のチャイムが鳴る直前、日本は一人教室のドアを開けた。
誰とも目を合わせず、自分の席に座る。クラスメートのざわめきのなか、日本の存在は、まるで空気のように薄かった。
でもそれでいい。家では三人がいる。家に帰れば、誰かが隣にいてくれる。そう思わなきゃ、今日を生きられない。
(家に帰れば、会える)
そう思うだけで、心がほんの少しだけ軽くなった。