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空音
37
シュメール
604
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2,810
・.。. .。.:・
バキッ
「キャァ!」
ある日、桜子が飛び上がって便器をみると、温水便座にヒビが入っていた、座面のプラスチックが白く裂けて、細い亀裂が蜘蛛の巣のように広がっている、いよいよ自分の体重の重さに便器までもか耐えられなくなっている
最近ちょっと遠出すると足が痛い・・・恐る恐る体重計に乗ってみると体重は80キロを超えていた、また血圧を管理している内科の先生に体重を減らせとネチネチ言われるだろう
―担当の内科医変えようかな・・・あの人のキツイ口調合わないんだよなぁ~―
祖母の代からある古いトイレは狭く、改装のときに温水便座だけは新しくしたはずなのに、それすらもう寿命なのかと思うと、桜子はなんとも言えない気持ちで立ちすくんだ
ずーん・・・「夜中に食べるのやめなきゃ・・・」
ふとリビングを見ると母が誰かと携帯で電話していた
ヒソヒソ・・・「そうそう・・・あそこのあの人アレだから・・・」
声をひそめているつもりなのだろうが、廊下にまで筒抜けだった、狭いご近所付き合いでは善人面している母は家の中に入ったら、ああしていつも誰かと電話で人の悪口を言っている、二面性のある母親を見てきたせいか、自分にもその気質はあるなと感じていた・・・
兄を小説教室に寄こしたのも母の差し金だろう、毎日顔を合わせているのに言いたいことがあれば言えばいいのに、まったく自分のいない時に何を言われているのか、たまったもんじゃない、ベッドに座って丸まった母の背中が、心なしかいつもより曲がって見える
「桜子~~!どこ行くの?」
「映画見てくる~!」
「夕ご飯は作ってくれるんでしょうね!」
怒り気味に言う母、受話器を耳から離す間もなく、もう小言を飛ばしてくる呼吸の早さに桜子は苦笑いをこらえた
「ちゃんと帰って来て作るわよ!」
でないと美味しいものにありつけないじゃない・・・桜子は心の中で思った、家族で一番料理が上手いのは桜子だった、しかし歳をとって萎んできた両親の食欲は減退する一方で、その反面に桜子の食欲のままに作る夕食は量が多く、両親が残し気味になるので、その残り物も桜子が食べることになる、なかなかダイエットも出来ないのが現実である・・・そう考えながら化粧をし、外へ出た
穏やかな日が続いていた・・・相変わらず桜子は小説教室の講師をしながら、報われないWEB小説を書いていた、秋にはどこかコンテストに応募しようかなと考えながら一人で映画を観た帰り道、今日の夕食は煮魚にしようと食料を買った、夜に食べる自分用のお菓子も大量に買い込む、レジ籠がずっしりと重くなるほどに、ポテトチップスやチョコレートの箱が積み重なっていく、ふと、ヒビ割れた便器のことが頭に過ったが、どうせ今日も眠れず夜中に食べ物を漁ってゴソゴソし出すのが目に見えているので、買う事にした
「そうそう、この間SNSで見たケーキ屋さん、電車に乗って足を延ばしてみようか・・・」
友達もいない・・・恋人もいない・・・楽しみといえば「食べる」こと以外ない、出歩く先は病院と食べ物屋ばかり・・・何か「食べる事」以外に本当は楽しみを見つけた方がいいのだろうけど・・・毎日そんな事をばかり考える、そして「M」の看板を見つける
「あっ!マクドナルドのハンバーガーも買って帰ろう!」
コメント
2件
体壊すよ〜🥺 この思考回路を断ち切るきっかけはないかな😓
うわあ…第16話、ずっしりと心に響きました。便座のヒビから始まる桜子さんの現実が、体重計の数字や母の二面性、食への依存として積み重なっていく感じ、すごくリアルだった。夜中にお菓子を買い込むシーン、あの「どうせ食べちゃう」諦めの感覚、なんともやるせないですね。ミステリータグがどう絡むのか気になります。この閉塞感がどこに向かうのか、次が待ち遠しいです!