テラーノベル
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車内には穏やかな空気が流れていたが、どこか張り詰めた緊張も残っていた。
やがて車は亜佑美の自宅へ到着する。
「着きましたよ」
そう声を掛けても亜佑美はすぐには動かず、シートベルトを外そうとしては手を止め、窓の外を見つめるその横顔には迷いが浮かんでいる。
「亜佑美さん?」
名前を呼ばれた亜佑美はハッと我に返った。
「……っ! あ、ご、ごめん。送ってくれてありがとう。それじゃあ、また……」
慌ててシートベルトを外してバッグを手に取って車を降りようとした、その時だった。
「あの」
呼び止められた亜佑美が振り返る。
「もし亜佑美さんが良ければ……暫く俺の部屋で暮らしませんか?」
突然の申し出に亜佑美は目を丸くした。
「え……?」
朝陽は少し照れたように視線を逸らしながらも真剣な声で続けていく。
「送迎は出来ますけど、自宅に帰れば亜佑美さんは一人になりますよね。それに俺の家とここは少し離れているので何かあってもすぐ駆けつけるのは難しいですし何より、心配なんです。傍にいてくれた方が安心出来ますし、何かあれば俺が守れますから」
その真っ直ぐな言葉に亜佑美は、
「……ありがとう」
震える声でそう呟いた。
「本当はね……家に帰るの、ちょっと怖かったの。いつからつけられていたのかも分からないし、私が気づいてなかっただけで家まで知られてるかもしれないでしょう? そう思ったら……怖くて」
不安を吐き出す亜佑美を見つめた朝陽は力強く頷いた。
「それなら尚更家に来てください。荷物を運ぶのも手伝いますから……部屋に上がってもいいですか?」
その言葉に亜佑美は安心したように微笑んだ。
「うん……お願い」
こうして亜佑美は暫くの間、朝陽の部屋で暮らすことを決め、当面の生活に必要な荷物を纏め始めるのだった。
必要な荷物をまとめ終えた亜佑美は朝陽と共に自宅を後にした。
その後向かった先は朝陽のマンション。
休日には何度も訪れている部屋だし、今朝もここから出勤した訳だけど、玄関をくぐった途端、亜佑美の胸は少しだけ高鳴った。
休日は一緒に過ごしても日曜日の夜になればそれぞれの家へ帰るし、平日は離れ離れ。
それが二人の日常だったけれど、今は違う。
昨日に続き今日から暫く朝陽と一緒に過ごせる。
(こんな状況で不謹慎かもしれないけど……同棲してるみたいで、ちょっと嬉しいな)
そんなことを思ってしまった亜佑美は朝陽に気づかれないように頬を緩めていた。
「夕飯、どうしましょうか? あまり材料はないですけど簡単なもので良ければ作りますよ」
朝陽がそう提案すると亜佑美はあることを思い、それを口にした。
「あ、それなら一緒に作らない?」
「え?」
「その……一緒に料理するのって、ずっと憧れてたんだ」
思いがけない言葉に朝陽の瞳がぱっと輝く。
「はい! 是非!」
嬉しそうに頷く朝陽を見て、亜佑美も自然と笑みを深めた。
二人で冷蔵庫とパントリーを覗き込むと、卵、玉ねぎ、ベーコン、じゃがいも、きのこ、チーズ、牛乳、それに冷凍してあった鶏もも肉が見つかった。
「これなら、オムライスとコンソメスープが作れそうですね」
「いいね」
「それじゃあ、俺はチキンライスを作りますね」
「じゃあ私はスープ担当かな」
肩を並べてキッチンに立った二人は楽しげに会話を交わしながら調理を開始した。
これまで交際して来た彼氏は料理をするようなタイプでは無くて、亜佑美はこうして彼氏と共にキッチンに立って料理をすることに憧れを抱いていた。
(こういうの、良いな)
大好きな人と一緒に調理をする今この瞬間は亜佑美にとって何より幸せな時間で、自然と笑顔が増えていった。
亜佑美の表情に少しずつ笑顔が戻ってきたのを見て、朝陽は胸をなで下ろした。
(アパートに着いた時は思い詰めた顔をしていたから……少し元気になってくれて良かった)
そう思う一方で心の中の警戒は少しも解けてはいなかった。
亜佑美が誰かにつけられていたと聞いた瞬間から、彼女を一人には出来ないと決めていた。
そして今日は昼間にも視線を感じたという。
偶然とは思えず、まだ安心出来る状況ではない。
自宅を知られているかどうかまでは分からないし、亜佑美が今このマンションにいることを相手が把握している可能性も否定出来なかった。
(早く相手を突き止めないと危険だよな……)
けれど、姿の分からない相手を捕まえるのは簡単なことではなく、どう対処すべきか答えはでない。
そんな中、料理が出来上がると二人で食卓を整えて向かい合って席に着く。
「いただきます」
そう言葉を交わして食事が始まった。
暫くして朝陽が箸を置き、おもむろに口を開く。
「……亜佑美さん、昼間に感じたっていう視線のことなんですけど」
「……うん?」
「それって、お店を出た時だけだったんですか?」
朝陽の問い掛けに亜佑美は記憶を辿るように少し考えると小さく頷いた。
「うん。会社を出た時も、お店の中にいる時も特に何も感じなかったかな……。会社に戻る途中で急に視線を感じたの」
「そうですか……」
それを聞いた朝陽は難しい表情で考え込むと、亜佑美はぽつりと呟いた。
コメント
1件
おお、ついに朝陽が亜佑美を自分の部屋に誘ったね!「傍にいてくれた方が安心する」ってストレートに言えるの、かっこよすぎるわ🔥 しかも二人で料理するシーン、亜佑美の「同棲みたいでちょっと嬉しい」って心情が不穏な空気の中で逆に胸に沁みた…。ただ朝陽の内心の警戒は解けてないし、この後の展開が気になりすぎる!続き待ってる📖✨
ひより
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#大人ロマンス
瑠璃マリコ
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