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「新聞! 新聞だよ!!」


新聞売りのベルッティが帝都に現れたのは、それから三日後のことだった。


新聞は両面印刷で、表面が通常の記事、裏面がベルッティの記事だ。


「ベルッティだ!」

「こっちにも一枚くれ!」


「あの記事は本当なのか!?」

「あんた、大変なんだってな。何かあったら俺に言えよ」


帝都の住民達はこぞって新聞を買った。

中には陰口を叩く者もいたが、悲劇の少女として認知されたベルッティに正面から罵声を浴びせることなどできるはずもない。


そんなことをすれば、ベルッティを囲む善良な人々に袋叩きにされるからだ。


「ちゃんと飯食わせてもらってんのか?」

「アーカードさんとこの奴隷なんでしょ? 大丈夫? いじめられてない?」


ここまで多くの人々に心配され、大切にされたことなどなかったのだろう。


ベルッティは時折しどろもどろになりながら、感謝の言葉を返す。


「あ、ありがとう……ござい…ます」


女らしい服装を嫌うベルッティが頬を染めると、恋の矢が男達の胸を射貫いた。


アイドルの誕生だ。


可哀想な過去を持つ、悲劇の少女を守ってあげたいと思うのは自然なことだ。

その裏側にある下心も含めて、すべて金に換えてやる。


握手会やグッズ販売などという、手間のかかることをするつもりはない。

だからオレは直接金を出させることにした。


「ベルッティ募金にご協力をお願いします!」

「お願いします!!」


街角に奴隷を立たせ、募金を募らせる。


集まった資金は虐待奴隷を救済する為に使う。


二度とベルッティのような悲劇が起きないようにと言えば、ベルッティに熱を入れた男どもや慈悲深い金持ちがどんどん金を出してくれる。


商品を販売するわけではないから、元手はゼロだし。手元の暇な奴隷をそこらへんに立たせておくだけでいい。こんなに楽な商売はない。


身を持ち崩すほどの金を募金しようとしたバカが現れた際には、ベルッティに「そんな、あなたの気持ちだけで十分です」「おれを思ってくれて、ありがとう」と言うよう伝えてある。


アイドルという新たな概念に触れた青年が感激の嗚咽を漏らす。

どうだ、神々しいだろう。


ちゃんと生活が苦にならない程度に金を持ってこいよ。




オレがこんな慈善事業のようなことをしているのには理由がある。


元々、奴隷商人は非常にアコギな商売で、平気で嘘を吐き、客を騙す者が多かった。


闇市の奴隷商会の連中には一定の公平性を持つよう指導しているが、オレの商会に属さず、奴隷を売っているやつらも存在する。


奴隷商人のすべてがアーカード派というわけではないのだ。

野良の商人もいれば、勝手にブルルク商会なる派閥を作っているやつらもいる。


その中には保有する奴隷達の統率を高める為に、拷問呪文で奴隷を殺すバカもいるのだ。


そいつらこそが今回の獲物だ。




帝都の路上で、オレは声を張り上げる。


「悲しいことだが! ベルッティのように虐待される奴隷は後を絶たない!」


「だが、時は来た! 皆様のお力添え、ベルッティ募金がここに集まった!! この金を、今こそ使わせてもらう!!」


人垣がざわつく。

自分たちが投じた金がどのように使われるのか、気になるのだ。


オレの傍らに立つベルッティが口を開く。


「おれのような扱いを受けている奴隷をみかけたら! アーカード奴隷商会、ロンメル神殿、巡回中の奴隷兵、どちらでも結構です! どうか教えてください! おれのいる印刷所でもいいです!!」


児童売春に使われた少女の言葉が、帝都に響く。

オレが何をしても、ここまでの効果は出せないだろう。


「有力な情報には、報奨金が出ます!!」


街角がざわめく。

これは事実上の賞金首だ。


オレがよその奴隷商人から奴隷をかっぱらえば罪に問われる。


だが、この流れなら。

オレが哀れな奴隷を保護しても誰も疑問に思わないだろう。


民衆に情報を集めさせて、バカを発見し、聖堂騎士団を突撃させるだけで、大量の奴隷がオレの懐に転がり込んでくる。


摘発され奴隷を失ったブルルク商会は壊滅するだろう。

奴隷一体失うだけで300万から400万セレスの損失だから、大量摘発されれば数千万では済まない。


心強いことに、聖堂騎士団は誤認逮捕の天才集団だ。

アーカード奴隷商会以外の奴隷商人を片っ端から摘発してくれる。


オレは哀れな奴隷どもに飯を食わせ、技能を与え、売りさばいて金を稼いでもいいし。第二印刷所を建造して新聞の刊行ペースを速めてもいい。


つまり、とてつもなく金になる。


「か、金がもらえるのか」

「バカ、金の為じゃねえ! ベルッティの悲劇をこれ以上増やさない為だ!」


「急げ、こりゃあ早い者勝ちだぞ!!」


ベルッティが新聞を売り出してから、帝都の治安は急激に回復している。

うまくいけば、ベルッティは死なずに済むかもしれん。


というか、生きていてくれないと困る。

長く生きていてくれた方が、長く稼げる。


頼むから長生きして欲しい。


控えていたルーニーが駆け寄ってくる。


「やったじゃないか! ベルッティ! これで、みんな幸せになる!!」


心の底から嬉しそうだった。

金を稼ぐだけでなく、ベルッティの命も助かったのだ。


その上、帝都のどこかで苦しんでいる奴隷たちも救える。


「まさか、こんなことになるなんて」


ベルッティは茫然としていた。

オレもここまで上手くいくとは思っていなかった。


だが、ここは格好いいことを言っておくべきだろう。


「言っただろう、限界を超えさせてやると」


オレが笑うと、ベルッティも笑う。


これ以上無いほどに金を稼ぎ、満たされたベルッティの顔は。

意外にも普通の少女のようだった。







それから三ヶ月後。

ベルッティは暗殺者の矢に射られて死んだ。


雇い主はブルルク商会だった。


奴隷商人~今更謝ってももう遅い。お前が虐待していたロリ奴隷はオレが全員買い取った。

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