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翌日の昼休み、円城寺萌香は取り巻きの派遣社員二名と共に、休憩室でおしゃべりに花を咲かせていた。
「それで、浜田様のお宅へ謝罪に行った時、城咲課長とはどうだったんですかぁ?」
「二人っきりで外回りなんて……考えただけで卒倒しちゃう!」
二人に質問をされた萌香は、少し恥ずかしそうに微笑んで答えた。
「浜田様のお宅ではね……課長ったら、それはもう身を挺して萌香のことを擁護してくれたの!」
「キャーッ! それって、萌香さんのことが大事だからですよね?」
「うん。それにね、帰り道、本当は二人でランチをしたかったんだけど、次の約束があるからごめんって……すごく残念そうに言われちゃった」
「キャーッ! 課長の方からランチのお誘いですかぁ? それって、もう、課長にロックオンされてますよ~!」
その言葉に、萌香は笑顔で勝ち誇ったように言った。
「そうかしら?」
「絶対そうです!」
「とうとう課長の方から動き出したんですね~」
「ふふっ、それなら嬉しいけど♡ まあ、この私があえて忙しい営業部にいるのは、エリートを捕まえるためなんだし、これでようやく手応えを掴んだってところかしら?」
萌香の堂々たる言葉に、派遣社員の二人は顔を見合わせた。
「でも、萌香さんほどのお嬢様なら、不動産会社じゃなくても、もっと他に選択肢があったんじゃないですか?」
「そうですよ。例えば、お医者様の医局秘書になるとか、弁護士事務所で働くとか? 他にもいろいろありますよねー?」
その質問に、萌香は微笑んで答えた。
「もちろん、お医者様やいろいろな士業の方ともお見合いをしたわ。でも、ルックスも知性の両方を兼ね添えた人には、一人も出会えなかったわ。だから、作戦を変えて大企業で働いてみようって思ったの。でも、私の勘は見事に当たったわね。せっかく城咲課長のようなハイスペックな男性に出会えたんだもの、何が何でもものにしないと!」
「なるほど~」
「目的のためには努力を惜しまない萌香さんの姿勢、すごいです!」
「ふふっ! まあ、見てなさい! 城咲課長が落ちるのも時間の問題だから!」
萌香の不敵な笑みを見た二人は、思わず背筋がゾクッとした。
そのうちの一人が、恐る恐る口を開いた。
「そういえば、来週、新しい人が来るの知ってます?」
その言葉に、萌香の表情がピクリと反応した。
「それは女性?」
「はい。この前退職した及川さんの代わりです」
「ということは、営業職?」
「そうみたいです」
萌香の表情が、一気に不穏な色を帯びる。
それに気づいた派遣社員の女性は、慌てて言葉を続けた。
「あ、でも、萌香さんよりも美しい女性なんて、絶対に来ないですから!」
焦ったもう一人も調子を合わせる。
「そうですよ! 不動産の営業職なんですから、髪をひっ詰めて地味なスーツを着た、いかにも体育会系女子って感じの人に決まってますよぉ~」
「私もそう思うなぁ……」
二人はわざとらしくお愛想笑いをした。
その言葉に気を良くした萌香は、
「まあ、どんな女が来るか楽しみだわ!」
そう呟き、再び不敵な笑みを浮かべた。
その頃、水島花梨は、引っ越したばかりのマンションで荷解きをしていた。
元恋人からの最後の荷物が届いたばかりで、ひとつひとつ取り出して仕訳をしている。
卓也の思い出が少しでも残るものはすべて処分するつもりでいたので、花梨はゴミ袋にいらないものを次々と放り込んでいった。
「ほとんど捨てる物じゃない! だったら、向こうで処分してくれればいいのに……」
ぶつぶつ言いながら、花梨はいっぱいになったゴミ袋を玄関の前まで持っていった。
花梨が新しく借りたマンションは、駅に近い便利な場所にある。
新しい会社の最寄り駅から数駅という近さだ。
この辺りの家賃は高めだが、築年数が少し経った物件を選んだので、かなりお得な家賃で借りることができた。
間取りは1LDK。道路に面した五階の部屋なので、遮るものがなく眺めもいい。
この新しい部屋で、これから花梨は新たな第一歩を踏み出す。
卓也の浮気現場を目撃した瞬間、花梨はかなりの衝撃を受けた。男女が絡み合う生々しい光景に、思わず吐き気がした。
『同棲すると男女の関係性が変わる』という話はよく耳にしていたが、花梨と卓也もまさにその例だった。
同棲を始めた直後から、二人はセックスレスになった。
それでも、二人の間には家族のような安心感が生まれていたので、それが普通のことだろうと花梨は自分に言い聞かせていた。きっと、結婚もこんなものかもしれないと思いながら……。
しかし、卓也の浮気現場を目撃した瞬間そんな気持ちは一瞬で消え去り、代わりに卓也に対する激しい嫌悪感が湧き上がった。
だから、花梨が彼との別れを決断したのは自然な流れだった。
また、卓也の浮気相手が、花梨の二期後輩の酒井莉子(さかいりこ)だったことも許し難かった。
莉子は社内で『ビッチ』として有名な女だったからだ。彼女は過去に何度も男女のトラブルを起こしている。
莉子は花梨に執拗な嫌がらせを繰り返していた。花梨に関する根も葉もないうわさを広めたり、彼女の目に留まる場所で卓也と故意にいちゃつくなど、その嫌がらせは驚くほどの悪質さで、やがて花梨の仕事にも支障をきたすようになる。
その結果、花梨は転職を余儀なくされたのだった。
「はーっ、あのバカ女……むかつく!」
花梨は、つい無意識にそう呟いてしまった。
(でも、もう終わったことよ! そもそも、この世の中には信頼できる男なんてひとりもいないのよ。信じられるのは自分だけ! 裏切らないのも自分だけ! これからは、そう思って生きていかないと!)
花梨は、もう二度と『恋愛』なんて愚かなものには近づかないと、心に固く誓った。
コメント
58件
自分の事名前で呼ぶ子って,何にも考えず出来ず自分が一番って勘違いする子多いけど萌香さんもそうなのかしらね
炎上児、仕事が出来ないうえに妄想癖が痛すぎる😱💦 全く相手にもされていないのに…😁 花梨ちゃん、明日はいよいよご対面かな❓️
萌香って本当おめでたいひとですね。 真実がわかった時どう言い訳するのかな🥹 そのとんでもない萌香の前に花梨ちゃんがやってくる😊 ワクワクします😊 そういえば莉子という悪い女もでてきていますが、まあそんなに心配していません。 萌香も莉子も自滅して花梨ちゃんだけが幸せになる未来が見えてるんで😆