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「せんせ……」
瑠衣の掠れた声が侑の鼓膜を静かに揺らすと、痩せこけた彼女を見下ろす。
「お風呂…………入りたい……」
「なら……一緒に入るか」
不器用に微笑みながら彼女が頷くと、侑は小さな身体を支えながらバスルームへ向かう。
脱衣所で服を脱ぎ、侑はチラリと彼女の裸体を見やると、細い、というよりもガリガリという表現が合うほどに痛々しい。
「今日は俺が洗ってやる」
侑はシャワーの蛇口を捻ると瑠衣に浴びさせ、ボディソープで丁寧に彼女の肢体を清めていく。
髪も彼が洗い、瑠衣は気持ちがいいのか、うっとりとした面差しを映し出していた。
彼女にバスタブに浸かるように促し、侑も身体と髪を洗い、瑠衣の後ろに座ると、そっと抱きしめた。
ふと見つけた、瑠衣の左手首に残る痛々しい痣。
「これは……」
「拉致されている時……逃げられないように…………縄で縛られて、パイプ製のベッドフレームに括られてた。…………犬みたいに」
「っ……」
筋張った指先が赤く変色した痣をなぞった後、瑠衣を向かい合わせにさせて抱きしめる。
(こんなに痩せて……しかも手には縄で縛られた跡がクッキリと残っている……しかし……)
侑は瑠衣を抱きしめながら、今一度考えてみる。
瑠衣と交合させる闇バイトの広告がSNS上に、しかも彼女の画像が十枚ほど掲載されてあり、そのうちの一枚は、彼女も撮られた覚えがあるという。
(…………まさか!)
侑の表情がみるみる険しくなっていき、眉間に深く皺が刻まれる。
彼の心の奥底から湧き上がる罪悪感。
侑の胸中には、寄る辺のない気持ちが渦巻いていくのを感じた。
(俺が軽々しく瑠衣に言わなければ…………こんな事には……)
今更、後悔しても仕方がない、という事は侑も分かっている。
だが、彼が不用意に瑠衣へ『九條、いいか?』と聞かなければ、今回の拉致監禁と陵辱は起こらなかったかもしれない。
濡れた髪を撫でながら、侑は彼女のこめかみに唇を落とし、更に強く抱きしめた。
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