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魔王さまの戦いぶりは、本当に惚れ惚れするものだった。
常に浮遊魔法を使いながら、場合によってはさらに、高速飛行と転移を同時に使う。
それだけでもかなりの魔力を使うし、集中すべきことが多すぎて普通は出来ない。
私なら、転移の後はどうしても自由落下してしまう時間が出来るから、それを計算して少し高めの位置に転移座標を決めるのに。
「お姉様……魔王様はなぜ、あれほどのお力をお持ちなのに、人間など生かしているのでしょう」
シェナの疑問は、人のように愚かな生き物を、ということだと思う。
今回だってそうではないですか。と、そう言いたいのはよく分かる。
それについて、魔王さまのお心は分からないけど……私は人間だった記憶の方が長いから、なんとなくだけど、滅ぼすのはどうなんだろうと考えてしまう。
「私なら……すぐに決めてしまうのはどうかな……って、思っちゃう」
一度滅ぼしてしまったら、もう二度とその種族は生まれない。
その決断を私が迫られたとしても、決断なんて出来ないと思う。
「なぜです? いつまで経っても戦争して奪うことしかしない種族なんて。私も死ぬ前は、この身もこの命も、何もかも奪われたのです。とても許せるものじゃありません」
その復讐を果たさせてあげたいと、そう思って黄泉から来てもらったのを思い出した。
「そう……よね。後で、魔王さまに聞いてみよっか」
その魔王さまは、複雑な魔力操作を行っているはずなのに、あの魔法障壁でガチガチに防御している戦艦を、転移してすぐの閃光魔法――黒い光の龍に見えた――を放って容易く貫通させてしまった。
わざわざ艦橋の脆い所を狙わなくても、機関部分を貫いて沈めることも出来そうなのに。
「後ろの護衛どもも、未だにお姉様を狙おうとしています。そいつらだけでも殺させてください。このふざけた嘘の模擬戦も、こいつらも、不愉快を通り越して怒りしかありません」
そう言われて後ろを振り返ると、国王の護衛たちのうち、たしかに数人は殺気を押し殺して私を狙っているように見える。
「……どうして私を殺そうとするの? 私、あなたたちに何かした? どちらかというと、あのミサイルから護ってあげようとして、結界張るの頑張ってたのに」
本当に疑問だった。
私は魔族かもしれないけど、この人達に……人間に、何か悪いことをしただろうか。
いや……悪い貴族を懲らしめはしたけど。
でもそれって、街の人たちのためになったはずなのに。
「どうしてだと? あの魔王の妻というだけで、人間の敵と同義だろう! そもそも、殿下を……目の前で殺されたのだぞ……」
あら、あの人って、部下から愛されてたりしたんだ。
「あの人が私を殺そうとしたんじゃない。ていうか、あのミサイルでもしも結界がもたなくて私が死んでたら……ここにいる国王もあなたたちも、皆死んでたんだよ? 殿下は死んだらダメなのに、国王とあなたたちは死んでも良かったの?」
それって、謀反みたいなやつなのでは?
「そ、そうだぞ貴様ら! この国王を暗殺でもするつもりか!」
なんか、もしかして跡継ぎ問題だけじゃなくて、現王と第一王子も仲が悪かったのかな。
「そ、それは……」
雲行きが怪しいし、数人は明らかに何か、私だけじゃなくて国王にも殺気を向けている。
「ねぇ。全員じゃないなら、その何人かを取り押さえた方がいいんじゃない? 戦うつもりだよ、そことそこの人と、そっちの――」
そこまで指差した時、あと三人だなと思っていたら、その六人が全員抜剣して、隣の護衛を斬り殺した。
その行動に面食らったのか、本来の護衛たちは出遅れて、残りも斬られてしまった。
対応して切り結んでいるのは二人だけ。
「お、お前ら! 何てことしてんだよ!」
仲間割れ……というか、そもそも仲間ではなかったのかもしれないけれど。
私はそんな光景を見てしまったことに、ものすごく嫌な気持ちになって、何かを諦めたくなってしまった。
きっと、種族を超えて仲良くしたいよねとか、そういう気持ちだと思う。
平和を願う気持ちが、急に疲れてへたり込んでしまったような、今この瞬間にも、本当に私自身がこの場にしゃがみ込んでしまいたいと、そう感じるほどの虚無感だった。
「お姉様、結界を解かないでくださいね。お気を確かに」
シェナは強い目で私を一瞥すると、視界からフッと消えた。
そして、反乱した護衛たちを、瞬く間に斬り倒して行く。
小刀くらいのナイフを両手に、敵の剣を受け流しては斬り、懐に入り込んで間合いを潰しては刺し、次々と倒した。
「この……化け物が!」
最後の一人は、首を斬られる前に、シェナに酷いことを言って絶命した。