## 第11話:黄金の飛翔(後編)
深い霧が立ち込める谷間は、MSの駆動音と着弾の衝撃音によって、静寂を完全に失っていた。
プロト・ウイングエックスは、暴走の後遺症で不安定な6枚の受光ウイングを背負ったまま、二機のリー・オー改を翻弄し続けていた。しかし、飛行ユニットが死んでいる現状では、地を這うような戦いを強いられる。
「……くっ、しつこい野郎らだ! ミラ、まだやれるか!?」
「……ええ。でも、あの子が……震えてる。本来の力を出せずに、もどかしがってる……」
死角から放たれた大型ヒート・アックスがウイングエックスの左肩を叩き割り、至近距離から放たれたマシンガンの弾丸が装甲を削り取る。ゼロの視界には赤い警告表示が重なり、機体バランスは限界に達していた。
だが、ゼロの闘志は衰えない。以前組み込んだ「ゼロシステム制御装置」が、情報の荒波を一つの線へと収束させる。
「見えたぜ……。そこだぁっ!!」
ゼロは機体を強引にスライドさせ、右腕のバスター・サテライト・ライフルを至近距離から叩き込んだ。零距離で放たれたビームがリー・オー改の胴体を貫き、大爆発を起こす。その隙を突き、もう一機のカメラアイをシールドで粉砕。相打ちを恐れた敵機は、たまらず霧の彼方へと撤退していった。
ボロボロになった機体を、霧に隠された格納庫へと再び運び入れる。
ガドルフは無惨な姿になったウイングエックスを一瞥し、鼻で笑った。
「フン、不器用な戦い方だ。だが、その制御装置……使いこなせていたようだな」
「……ジジイ、約束通り片付けてきたぜ。仕上げを頼む。このデカブツを『本物』にしてくれ」
ここからが本当の戦いだった。夜を徹しての修繕作業。
ガドルフが大型クレーンで背部のウイングユニットを固定し、ゼロが内部回路を繋ぎ、ミラが意識を同調させてシステムの微調整を行う。
今回の目的は二つ。**「ゼロシステムの完全復旧」**そして「飛行ユニットの再生」だ。
仕上げは、三人での共同作業だった。
装甲の隙間にオイルを差し、剥げた塗装を塗り直し、ミラの祈りにも似た意識の同調によって、かつて「呪い」だったシステムが、ゼロの意志に応える「翼」へと組み上がっていく。
朝陽が霧の谷に差し込む頃、ウイングエックスの背部ユニットが力強く脈動し、青白い光を帯びた。
「……終わったぞ。小僧」
ガドルフがコンソールを離れ、汗を拭う。
「ボロボロだったゼロシステムは完全に復旧させた。そして、イカれていた背後のウイングユニットも直しておいた。その6枚の羽は、今やただの受光板ではない。重力に抗い、自由を掴むための真の飛行ユニットだ。……これで、貴様らは自由に空を飛べる」
ゼロはコクピットに乗り込み、スロットルを静かに押し出した。
背部の6枚のウイングが扇状に展開し、噴射されるプラズマが霧を朝日の入と共に黄金色に染め上げる。
「ガドルフのじいさん。世話になった。……この翼で、あんたが諦めた未来の先まで行ってやるよ」
「ふん、勝手にしろ。だが、もし壊したら……地獄の果てまで修理代を取り立てに行ってやるからな」
ガドルフは背を向け、不器用な別れの言葉を投げた。
ゼロは笑い、隣で静かに微笑むミラを見た。
「行くぜ、ミラ。俺たちの本当の戦いは、これからだ!」
ゴオォォォォォン!!
ウイングエックスが6枚の翼を広げ、地響きを立てて飛翔する。
霧を切り裂き、黄金の朝陽に向かって。
飛べぬ呪縛を解かれた白き巨神は、遥かなる空の果てへと消えていった。
**次回予告**
大空を舞うウイングエックスの前に、新たな戦乱の火種が降り注ぐ。
砂漠に隠された謎の要塞。そこでゼロたちを待っていたのは、かつての敵と、さらなるガンダムの影だった。
次回、『熱砂の要塞』
**「空を飛べるのは、てめぇらだけじゃないんだよ!」**






