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ノアを召喚するまでのレーナの休日の過ごし方は、ローラやリリス、村の娘達と一緒にお菓子を作ったり、ピクニックに出かけたりと楽しく遊んでいたのだが、ノアという恋人ができてからはそれがめっきり減ってしまったので、レーナと遊びたくなったローラとリリスは朝からレインの家の呼び鈴を鳴らした。
「レーナ、久しぶりに遊びましょうよ!」
「今日は女子会ね!」
レーナは二階の窓から顔を出し「ローラ、リリス、おはよう」と声をかけた。二人はすぐさま笑顔で「おはよう」と返す。
「今日は私達三人だけなの?」
レーナの問いに二人はうんうんと頷いた。二人はカゴを持っているので、ピクニックをするのだろうと察したレーナは、昨日たくさん作ったクッキーがまだ残っていたので、それを持っていくことにした。
「ノア、みんなと遊んできてもいい?」
「男はいないでしょうね? 後から合流もしない?」
「女の子だけだよ。合流するとなっても村の女の子だけだから、大丈夫」
「それならいいわ。たまには女性同士遊んでいらっしゃいな」
「うん、ありがとう、ノア!」
ノアの頬に軽くちゅっとキスをしたレーナはにっこりと微笑んで、急いで身支度をした。
そして、今度は唇にキスをして「行ってきます!」と笑顔でノアに挨拶をした。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
居候してから約二ヶ月、初めて行ってきますのキスをされたノアは、レーナのベッドに横になり、余韻に浸りながら自身の唇に触れた。
「はあ、本当に小悪魔だわ……」
ノアの熱いため息は、残念ながらレーナに届かなかった。
レーナは一階に降りるとローラ達同様カゴの中にクッキーや軽食を詰めて、レインにいつものメンバーで遊びに行くことを伝えると、彼女も「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
「二人ともお待たせ。今日はピクニックでいいんだよね?」
「そうよ、村の外れにある草原でピクニックするの」
村の外れにある草原は、いつもレーナとノアが薬草摘みに出かける草原のことである。
ビニールシートを敷いてピクニックするのは、村に住む者の定番の遊びの一つだった。
「分かった。昨日たくさんクッキーを焼いたから、それを持ってきたよ。あと、軽く食べられるサンドイッチもね」
「ありがとう! レーナの作るクッキーはサクサクで美味しいから楽しみにしてるわ」
ローラは朗らかな笑みを浮かべ、にこにこしながら伝えてくれたのがレーナは嬉しかった。
レーナは料理だけでなくお菓子作りも得意なので、こういったピクニックやティータイムなどでは、自作のお菓子を持っていくと大変喜ばれるのだ。
「ふふ、楽しみにしてて。今回のクッキーは紅茶を入れたから、香りもよくておいしいよ」
「私、レーナの作るお菓子の中で、紅茶クッキーが一番好きなの!」
そういうのは一番年下のリリスだった。リリスは甘いものが大好きで、レーナがお菓子を作って持っていけば彼女が一番喜んでくれるのだ。
そして、たくさん平らげてくれるので、レーナも作り甲斐があるというものだ。
いつものように三人でおしゃべりをしながら村外れにある草原に辿り着いた。
ローラが用意してくれたファミリー用のビニールシートに広げ、四隅に石を乗せて風で飛んでいかないようにする。
準備が整ったところで各々シートの上に腰を下ろし、それぞれカゴから中身を広げていく。
レーナはベーコンレタスサンドイッチとクッキーを取り出し、ローラはお手製のバナナケーキを、リリスはガッツリ食べられる肉が入ったサンドイッチを取り出した。
「二人が持ってきてくれたケーキとサンドイッチおいしそう!」
レーナは朝食を食べる時間がなかったので、ささっと簡単に作れるベーコンレタスサンドイッチを用意したのだ。もちろん、三人分だ。
ローラの作るケーキは甘さが絶妙でおいしいので、村の娘達からの評判も高い。
リリスは甘いものだけではなく、食べることそのものが好きなので、こういったピクニックになると、ガッツリ食べられる肉の入ったサンドイッチを作ってきてくれるのだ。
すでにお腹ぺこぺこのレーナは「いただきます!」と言って、まずは自分の作ったベーコンレタスサンドイッチを一口食べた。
新鮮なレタスとトマトがシャキシャキとしていてみずみずしくおいしい。カリカリに焼いたベーコンと相性が抜群だ。
ローラもリリスもまずは自分の用意したものをそれぞれ食べて、口々に「おいしい〜!」と食事を堪能する。
そして、お互いの持ってきたものを交換し、食べ合いっこしながら感想を述べた。
朝食が済んだ三人娘はハンカチで口元を拭う。おしぼりで手を拭いてきれいにすれば、定番の恋バナタイムの時間である。
いつもならリリスが自分のことを話しだすのだが、今回はあのレーナに恋人ができたということもあり、レーナにスポットが当てられた。
「ねえ、レーナ。ノアさんとはどこまでいったの?」
わくわくした様子のリリスから聞かれて、レーナはふむと考える。
そういえばノアとは村の外れにある薬草が生い茂っている野原と、ローラの店までハンカチを買いに行ったくらいしかデートらしいデートはしていなかったなと思い出し、ありのままを伝えた。
「野原まで薬草摘んだことと、ローラのお店まで行ってお互いハンカチをプレゼントしたくらいかな? ローラとリリスは、デートへ行く時どこに行くの?」
ズレた発言をするレーナに、ローラとリリスは「はあ、これだからレーナは」と深くため息をついた。
「レーナはこれだもの、ノアさんがかわいそう」
憐れむような目を向けるリリスに、レーナはけちょんけちょんに言われる意味が分からず唇を尖らせる。
「むう、どういう意味よー」
意味の分かっていないレーナに優しく教えたのは、三人の中で一番年上のローラだった。
「『どこまでいったの?』は、どこまで関係性が進んだのか聞いているのよ。ねえ、キスはした?それ以上のことは?」
聞かれている意味をようやく理解したレーナは赤面する。どこまでいったの? はどこまでデートに行ったの? という意味ではなく、どこまで関係性が進んだの? という意味だと分からなかったのだ。
耳年増のくせに、自分のことになると途端に鈍くなるレーナは、あたふたしながら「えっとね」と身振り手振りした。
「なによ、とぼけておきながら、することしてるんじゃない!」
「そ、そういうローラこそ、オリオンとはどうなのよ!」
オリオンとはローラのいとこで、いずれ二人が寝具店を継ぐのだそうだ。今は婚約中ということもあり、勉強の傍らオリオンも店番をしていることがある。
「オリオンと? 私達結婚するんですもの、最後までしたわよ」
恥ずかしそうにしながらも、ローラはあっけらかんと告白した。
「きゃー! あの真面目なオリオンと!? ローラってばやるじゃない!」
リリスはきゃあきゃあと言いながら、ローラの恋愛事情を知ってはしゃいでいた。
リリスの言う通りオリオンは寡黙な青年で、真面目でコツコツと勉強するタイプの、いわば硬派といわれる男性だ。
レーナも小さい頃からオリオンとの付き合いはあるが、あの恋愛のれの字もないオリオンと最後までするなんて、とレーナもリリス同様驚いた。
「ねえねえ! 初めては痛いって聞くけど、どうだった?」
遠慮することなく、リリスは恋愛経験値が先輩となったローラに尋ねた。
「そうね、やっぱり最初は痛かったわ。でも、大好きなオリオンと一つになれたことの方が嬉しくて、つい泣いちゃった。オリオンには痛くて泣いたのかと勘違いされたけどね」
「そうなのね、やっぱり痛いのね……。私も恋人が欲しいけど、お店のこともあるし、恋人選びは慎重にしなきゃいけないのよね。その点ローラとレーナは安心ね! 二人とも彼がいるんですもの」
レーナはとりあえず今できることだけを考えて、これから先のことは未来の自分に任せようと思っていたところで、リリスに痛いところを突かれて胸が痛くなる。
「レーナ? 大丈夫?」
俯くレーナを心配したローラは背中をさすりながら、優しく声をかけてくれた。
いつか魔界に行かなければならないのとか、お店のことはどうなるか分からないとか、ノアがセックスを最後までしてくれないとか、本当は色々と打ち明けたかった。
でも、これはレーナの罰であり、反省しなければならないことだ。後先考えずに行動するのはレーナの悪いクセで、後になって後悔するということを何度してきたことか。
しかし、一つだけなら二人に相談できるので、それだけ話を聞いてもらおうと「あのね」と小さく口を開いた。
「ノア、優しいからだと思うんんだけどね……。その、え、えっちを最後までしてくれなくて……。私、どうすればいいのかな?」
ノアはレーナの秘部に指を差し込みはするが、決して自分のペニスを挿入することはなかった。
疑似セックスの素股をした時に、先端がナカを掠めてもう少しで入りそうだったのに、それでもノアは挿れなかったのだ。
何か理由があるのなら知りたい。内容が内容なだけに本人に直接聞けないので、女子会ならと親友の二人に打ち明けたのだ。
二人は意外だったのか、何度か瞬いてレーナをじっと見つめる。
「レーナ、それ、本当なの?」
オリオンと最後まで愛し合ったことなるローラは、気をつかうように言ってきた。
「ノアさんと初対面でキスしたって言ってたじゃない! それなのに、どうしてなのかしら」
「なにそれ! 私聞いてないわ!」
「あ、言っちゃった」
下着を買いに行った時、リリスには会ったその場でキスをしたことを話したのだった。すっかり忘れていたレーナは赤面し、うっかり話してしまったリリスにローラは肩をがっしりと掴み「教えて!」と言っていた。
「ローラ、リリスが苦しそうだから離してあげて。それと、リリスが言ったことは本当だよ。会ったその日にキスされたの」
召喚してものの数分でファーストキスを奪われました、とはさすがに言えないので、「一目惚れされて〜」とどうにか誤魔化しておいた。
「あれだけレーナを溺愛してるんだから、大切にしておきたいとか、そういう理由なんじゃないかしら?」
ローラがうーんと唸りながらも出した答えに、レーナもそれはあるかもしれないなと思った。
「それか、ノアさん、実は勃たない……とか」
とんでもないことを言うリリスに、レーナとローラは咽せてしまった。もう少しオブラートに包むことはできなかったのか。
「そ、それはないと思うよ。その、大変ご立派だったし」
今度はリリスが咽せる番だった。ローラは先ほどのリリスの発言からずっと咽せているが。
「そういえば、ノアさんって旅人だったのよね? ノアさんの母国では、結婚前にそういうことするのを禁じられていたのかも」
リリスのいうことは、普通の人間ならそれが一番考えられる理由なのかもしれない。
しかし、ノアは悪魔であり、淫魔なのだ。えっちなことをしてナンボの淫魔が最後までしないというのは、母国のルール云々の問題ではない気がする。
レーナはそうだったならいいなと思ったが、おそらくそれが理由ではないだろう。ノアは悪魔のくせに嘘は嫌いだし、レーナには包み隠さず話をしてくれる。
だから、リリスのいう母国説ではなくて、ローラのいう大切にしたい説を信じたい。
「でも、レーナはノアさんと結婚するのよね? レインさんのお店だって、二人で継ぐのでしょう?」
既に未来が決まっているローラは「私と一緒なんでしょう?」と、レーナを不安にさせないように努めて明るく言った。
一流魔女レインの店を任されるということは、孫であるレーナとの結婚を認めたと周りには捉えられるのだと理解したレーナは、本当のことが言えないがために齟齬が生まれてしまっていることが苦しくなる。
ノアと結婚するのは変えられない未来なので「そう、ノアとは結婚するの」とだけ返した。
あとはいいように解釈されて、「レーナとノアさんの子どもなら、どの子か魔女が生まれて後を継ぐのでしょうね」とローラが言う。それに対してリリスは「絶対可愛いに決まってるわ! 二人とも美男美女ですもの!」と鼻高々に言った。
「レーナとノアさんの子なら、天使みたいな子が生まれそうね」
ローラはリリス同様にあれこれ妄想した。生まれるのは天使じゃなくて悪魔なの、とは絶対に言えないレーナは「あはは、そんなに言われると照れちゃうよ」としか言えなかった。
「ローラとオリオンも美男美女だから、きっととんでもなく可愛い子が生まれるわね! 私が予言してあげるわ!」
リリスは一人楽しそうにレーナとローラの明るい未来像を語り始めた。恋バナが大好きなリリスは一度こうなると歯止めが効かなくなるので、大人しく話を聞くのが一番無難なのである。
「そうだね」
「それはありがとう」
レーナとローラは年上らしく、末っ子の言うことを相槌を打ちながら聞いてあげたのだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、おやつの少し前の時間になってお開きとなった。
「ただいまー」と帰ってきたレーナにすかさず「お帰りなさい」と言って何度もキスをしてくるノアに、レーナはぎゅうと抱きついた。
「あらあら、愛しのレーナちゃんはアタシが恋しかったのかしら?」
頭上でふふと笑う声が聞こえ、ノアはそっと抱きしめ返した。ノアは悪魔だけど温かい。レーナと同じく血の通った生き物なのだ。
しかし、種族が違えばルールも異なってくる。それが寂しくもあり、埋まらない心の溝のようなものを感じてレーナは泣きたくなった。
でも、ここで泣いてしまったら、優しいノアはきっと心配して涙をその唇で掬い取ることだろう。
好きと言えたらどれだけ楽か。レインの店を継ぎたいと言ったら、ノアに捨てられてしまうのではないか。
ぐるぐると思考は回り、天井まで回って見えた。なんだかノアの顔もぐにゃりとして見える。
「ちょっと、レーナ、大丈夫なの?」
「あれ、ノア、なんだかぐにゃぐにゃしてるよ……?」
そう言って、レーナは気を失いノアに覆い被さるようにして倒れたのだった。