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第14話:無属性の少年
朝の登校路。
制服姿の生徒たちが笑い合いながら歩く中、**ユウ(13)**は一歩うしろをゆっくり歩いていた。
中学1年生。小柄で細身、黒髪は軽く跳ね、制服の袖口は少し長い。
目元はやや伏し目がちで、声は小さく、人前ではほとんど喋らない。
けれど、周囲と一番違うのは――
指に、どのリングもはめていないことだった。
中学に入学すると、全員が学校から属性診断リングを渡される。
それは、短期間で魔力の流れと気質を分析し、
個々に合った属性リングを提案してくれる標準ツール。
だが、ユウには何の属性も表示されなかった。
> 「魔力反応レベル:極小」
「属性傾向:未確定」
「適性リング:なし(追加検査推奨)」
その診断結果は、彼の周囲に小さな波紋を生んだ。
「え、属性なし?バグじゃね?」
「なんか……地味すぎて透明なだけじゃね?」
無属性、それは魔法社会では「空白」に近い存在。
便利も演出もなく、ただ、“使えない”という印象を与えてしまう。
その日も授業で「属性別課題」が出た。
火属性:エネルギー分解
水属性:栄養調整
風属性:伝達魔法
土属性:構造計測
ユウはそのどれにも加われず、**「補助プリントで自習」**の紙を渡された。
指のない手が、寂しく紙の端を折っていく。
放課後、教室でひとり残っていると、背後から声がした。
「ユウくんって、絵が好きなんでしょ?」
振り返ると、アヤメ(13)が立っていた。
長い前髪、三つ編みの黒髪、緑がかった瞳。
指には光属性のリングがあり、淡く光を放っていた。
「美術室で見たよ。ユウくんが描いてた風の絵、すごかった」
ユウは戸惑いながら、小さく頷いた。
「でも、ぼく……魔法、ないから」
アヤメは微笑んで、自分のリングを外し、ユウの机の上に置いた。
「これ、ただの光だけど……“見えるようにする魔法”なの。
ユウくんの描くもの、きっと誰かに届くよ」
次の日。ユウは、初めて自分でリングを選ぶために、校内の相談スペースへ行った。
担当の先生は驚いた顔をしたが、笑って迎えた。
「属性がないなら、“表現型”という道もあるよ」
数日後、ユウの右手には無属性のカスタムリングがあった。
薄い金属に、絵筆を模した模様。
魔法は出ない。でも、描いたものに微かに温度や音の残像を宿す。
彼が描いた「風のある丘」の絵は、文化祭の展示で人だかりを生んだ。
その横には、小さな札が添えられていた。
> 「魔法は出ないけれど、
魔法を“感じさせる”ことは、できるんです。」
魔法リングは、光るだけが価値じゃない。
そこに込めた想いが、人の中で“動く”ことも、魔法のひとつ。