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熱い抱擁はどのくらい続いただろうか? 岳大は満足したのか漸く唇を離すと優羽を優しく抱き締めた。
岳大の腕にすっぽりと包まれた優羽は心臓のドキドキが止まらない。
恥ずかしくて顔を上げる勇気もなく岳大の胸に顔を埋めていた。
しかしやはり岳大の事が気になり上目遣いにそっと盗み見る。その時岳大と視線がぶつかった。
岳大は優しく微笑むと優羽の頬を人差し指でツンと突いた。突かれた優羽は思わず頬をプクッと膨らませる。
それを見て岳大が声を出して笑ったので優羽もつられて笑った。
岳大は最後にもう一度ギュッと抱き締めてから優羽を解放した。
そして腕時計を優羽に見せて言った。
「そろそろお迎えの時間?」
優羽はハッと我に返る。
「遅れちゃう!」
慌ててバッグを取りに行くとふらつきながらリビングの出口へ向かう。
カウンターの横を通り過ぎる時に、
「お邪魔しました」
と声をかけると岳大がコーヒーを差し出して言った。
「一口だけでも」
今日買ったカップに岳大がコーヒーを注いでくれていた。
優羽は折角だからと立ったままほんの二口ほど飲む。そして、
「ご馳走様」
と言うと慌てて玄関へ向かった。
岳大は玄関で見送ってくれた。
「運転気をつけて」
「はい、じゃあまた」
優羽の車を見送りながら岳大は何か考え込んでいる様子だった。
しかし優羽の車が見えなくなるとドアを閉めリビングへ戻って行った。
一方優羽は保育園へ向かう車の中で様々な思いが頭を過る。
突然岳大にキスをされ驚いたが嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。
ただ岳大は思っていた以上に大人だった。岳大のキスは女性を身体の芯からとろけさせるほどの威力がある。
優羽よりも13歳も年上だから当然と言えば当然だが岳大が女性の扱いに慣れているという事は優羽にもわかった
彼は今までどんな女性と付き合い何人の女性と恋に落ちたのだろう? 岳大の見えない過去に対しもやもやする気持ちを抱えていた。
それよりも気になるのは岳大はなぜ優羽にキスをしたのかという事だ。
美和が言ったように優羽に好意を持っているのだろうか? それとも全く違う理由で?
岳大からは今まで愛の囁きもないし告白といったものもない。ただ成り行きでああなっただけなのだろうか?
優羽は運転しながら悶々としていた。
西村に捨てられてから優羽は男性が怖くなっていた。男性に対し臆病になっていた。
どんなに愛していてもある日突然捨てられる。そんな体験をすれば誰だってそうなるだろう。
だから相手が何を考えているのかわからないし自分に都合のいいように受け取るのも怖い。
そして男性と再び深い関係になるのが怖かった。
それに優羽はシングルマザーだ。未婚の男性にとってはかなりリスクがある相手だ。岳大に自分は相応しくない。
様々な思いが頭の中でごちゃ混ぜになっていたが優羽は運転に集中しようと頭を軽く振った。
その時優羽の携帯が鳴った。メッセージが届いたようだ。
気になった優羽は道の脇に車を停めると携帯を取り出す。見ると岳大からメッセージが来ていた。
優羽はすぐにメッセージを見た。
【肝心な事を言うのを忘れていました。僕は君を愛しています】
優羽の瞳からみるみる涙が溢れ出す。たった一行のメッセージが優羽が抱えていた全ての不安を一瞬にして取り除いてくれた。
優羽は両手で顔を覆うと肩を震わせ号泣した。
空には止んでいたはずの雪がはらはらと舞い始める。
優羽は車の中でしばらく号泣した後涙を拭い岳大に返事を送った。
【直接言って欲しかったです】
素直になれなかった優羽はつい岳大を困らせるような返事を送る。しかしそれは優羽が初めて岳大に見せた甘えだった。
メッセージはすぐに既読になり返事が返って来る。
【すみません、恥ずかしくて面と向かって言えませんでした】
優羽はハンカチで目を拭いながらフフッと笑った。
面と向かっての告白は、普段寡黙な岳大にとってかなりハードルが高かったに違いない。
優羽は優しい笑みを浮かべたまま返事を送った。
【じゃあ今度直接言って下さい】
【意地悪だなぁ、大人の男を手玉に取ってそんなに面白いですか?(笑)】
【大人の男性だからこそです。けじめですから(笑)」
【わかりました。今度は努力します】
【頑張って下さい(笑)】
そんなやり取りをした後、優羽は最後にもう一度メッセージを送った。
【私も愛しています】
少し前、岳大はコーヒーを飲みながらふと気付いた。優羽にキスをした際気持ちを伝えていなかった事に。
気付いた時はもう時既に遅しで優羽の車は保育園へ向かっていた。
いきなりキスをされて男からの言葉も何もなかったらどんな女性でも不安になるだろう。なぜちゃんと言わなかったのか。
岳大はそんな自分の愚かさを悔いていた。
そしてすぐにポケットから携帯を取り出すと優羽にメッセージを送った。
少し経ってから来た返事は拗ねているような文面だった。岳大は優羽が怒っていない事を知りホッとする。
それからしばらく冗談交じりのやり取りをする。
そして優羽から送られてきた最後のメッセージがこうだった。
【私も愛しています】
そのメッセージを見て岳大の頬が一瞬緩んだ後、急に引き締まった表情へと変わる。
優羽からのメッセージを見て岳大はこれからの事を真剣に考え始めた。
窓の外に降りしきる雪を見ながら岳大はこれからの未来に思いを馳せた。
これから漸く二人の、いや流星も含めた三人での第一歩が始まるのだ。
コメント
5件
覚悟を決めた岳大さん🥹✨3人で幸せに🍀🍀🍀
くぅ〜〜〜(*꒦ິ꒳꒦ີ)੭ੇʓʓʓ… 「〜ます」岳大さんのこの口調がとにかく好き💖 3人で幸せな未来へ進んでいけますね✨✨✨
何だか岳大さん優波ちゃんの前では,少年のよう🥹🥹🥹