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アイツだけがモテるなんて許せない

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アイツだけがモテるなんて許せない

47 - 【番外編④ 琉成×圭吾】二人の関係・⑥(有田圭吾・談)

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2024年08月05日

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俺達が四人で借りているマンションの一室前に辿り着き、鍵を開けて中に入った。

此処は大学が学生支援の一環で所有している物件らしく、元々は家族向けに作られた間取りの部屋を格安で借りられている。職員家族や俺達みたいにルームシェアをする為に入居している者などが大半で、周辺は結構賑やかだ。

料理や掃除だとかは全て自分達でやらねばならないが、寮とは違ってほとんど制約が無く、自由に生活出来るメリットはかなりデカイ。なのに『男性寮みたいな部屋だ』と琉成が言ったのは、完全に合コン目的な奴等を避ける為だろう。

血気盛んな学生が住む事を前提としているおかげなのか、トラブル防止の為に全室防音を徹底しているらしく、飛んだり跳ねたりしたって何処からも苦情はこないそうだ。学科次第ではピアノやドラムセットを持ち込んでいる部屋まであるそうだが、『あの部屋が煩いんだな』と感じた事は一度も無かった。

「そう言えば、清一達は今日は帰って来ないそうだよ」

「揃って泊まりか。珍しいな」

「少し遅いけど、入学祝いだって言ってたな。四人でも行きたけど、一回目はどうしても二人で行きたいんだってさ」

「何だよそれ」

ははっ!と笑いながら居間に入る。すると四人掛けのテーブルの上には何故かずらりとご馳走が並んでいて、それらにはラップがかかっていた。

「……俺達も、入学祝いか?」

「あははは!違うよ、此処でのお祝いのご馳走だったら四人で前にもう食べたじゃん」

「そうだよな……」


(じゃあ何だ?)


さっぱり思い浮かばずに首を傾げると、琉成が手を洗ってから椅子に座り、テーブルに置いてあったシャンパングラスの中に飲み物を注ぎ始めた。

「圭吾も手を洗っておいでよ。ご飯は温め直しておくからさ」

「まさか……酒か?」

「違うよ。コレはシャンパングラスに注いだだけで、中身はただのシャンメリーだ。食材の買い物中に見付けて、今時期でも売ってんのかーと思って買ったんだ。子供の頃とかに飲んで以来だから、懐かしさもあってさ」

「俺は年末以来だな。結構好きなんだ、ソレ」

「マジか。でも好きなんだったら、用意した甲斐があったな」

手を洗い、定位置に座った。 家だと琉成は常に俺の前を陣取っていて、いっつも『ソレが食べたい』と俺の食べかけを奪っていく。その代わり琉成の分をくれる様になったのはいいのだが、『はい、あーん』と言って寄越してきた物を奴の手から食べねばならん事だけは、何だか餌付けでもされているみたいだし、時間もかかるので勘弁して欲しいものだ。

「んで?これは何の祝いだ。ケーキに唐揚げ、ガーリックトースト、ローストビーフやらと、夜食で食べる量じゃないよな」

「誕生日のお祝いだよ」

「……違うぞ?」

何を言ってんだコイツは、と思い即座に否定する。


「うん知ってる。圭吾の誕生日じゃなくて、今日は俺の誕生日」


驚き過ぎて、咄嗟に声が出なかった。なんと言っていいのか思い浮かばず、冷や汗が背中を伝う。

「……マジかよ」

「ほらほら、お祝いしよう!」と言って、ローストビーフを俺の口元に琉成が近づけてきた。

「え……や、何か……すまん、その……知らん、かった」

気不味くて声が小さくなる。長い付き合いなのに、これでは親友失格だ。

「大丈夫だよ、知らないって知ってるからね。ほらほら食べて。味見したけど美味しかったよ。初めて作ったけど、自信作なんだ」

「えっと……じゃあ、いただきます」

口を開けて、ローストビーフを口に入れさせる。ハーブの味がほどよくきいていて確かに美味しい。普段食べ慣れている物よりも少し薄味に感じたが、俺は空腹でさえなくなれば満足出来るタイプなので別に問題は無かった。

「美味しい?」

「ん?あぁ、美味いな」

「よかった。料理好きな圭吾にそう言ってもらえると嬉しいよ」

「料理が好きなんじゃない、死活問題だから作るだけだ」

「そうだったね、うん」と言いながら次々に俺の口元へ琉成が料理を運んでくる。 どれも美味いので嬉しいが、コレはお前のお祝いじゃないのか?

「……ねぇ知ってた?」

「ん?」

「圭吾ってさ、俺の誕生日だけじゃなくって、血液型も、どこの小学校に行っていたかも、実家の場所も、趣味や特技、何処で今までバイトしていたとかも知らないんだよ」

「…… 」

絶句し、言葉が出ない。 そう言われてみれば……確かにそうだ。

受験期になるまで暗記科目が得意だなんて知らなかった。 ずっと前からロボット工学に興味があった事や、目立たないとはいえ手に火傷の跡がある事にも気が付かず、その火傷を負った理由も、この先の夢だって知ったのは不覚にも今日だった。

だけど男同士で訊くか?『誕生日は?』『血液型は何?』だなんて。

バイト先や趣味や特技にすら言及していなかった事は反省しか出来ないが、ただ一緒に居るだけで楽しかったからそんな事どうでも良かったんだよ。

「バイト……は?」

すんげぇ今更だが、それでも恐る恐る訊いてみる。すると琉成は嬉しそうに笑い、「別に気にしなくっていいのに」とだけ言い、また「はい。あーんは?」と次の料理を差し出してきた。

「気になるじゃん」

「今まで気にならなかったのにかい?」

痛いとこを突かれ、また声が喉で詰まった。

「ごめん、流石に意地悪だったね。でも本当に気にしてないんだ。俺が圭吾の事さえ知っていれば、ソレで満足だったからねー」

ふふっと笑い、また食べ物を俺に対して差し出してくる。既にもう半分以上皿から消えてしまったが、今日はソレを寄越せと言う気は無さそうだ。

「清一の事はさ、最初『充のストーカーかな?』って思ってたんだよ。普段は仲良く一緒に居るくせに、隙あらば充の盗撮ばっかしてニヤニヤしてたから。アイツが料理を覚えた時も『充の体を構成する全てが俺の料理だとか、ゾクゾクするだろ?』とか言うし、勉強だ筋トレだとかもをするにしても充優先で、自分の事は全部二の次だ。『そんなんで楽しいのか?』って思ってたけど、試しに俺もやってみたら楽しいのなんのってもう」

「……は?」と俺が間抜けな声をあげたら、今度は口の中にケーキが入ってきた。


「俺を知らないクセに、俺の方は何でも知ってるとか、コレってもう快感でしかないよねぇ」


その言葉を聞いた瞬間、初めて琉成に襲われた日の感覚を思い出した。肌がざわつき、背筋が凍り、全身がこの状況を危険だと訴えている。


(逃げないと——)


ケーキなんかのんびりと食ってる場合じゃない。そうは思うのに、体が固まって動かない。段々と肉食獣を前にした子ウサギみたいな気分になってくる。

「今は何処に居て、何をしていて、どんな物を買って……情報化社会万歳って感じだ」

俺が何か言おうとしても、口の中にまたケーキが入ってきて「ふぐっ」としか言葉に出来ない。一体コイツは何をしてるってんだ!

「そろそろ下剤も効いてくる頃だと思うんだけど、トイレは大丈夫?」

「——はぁぁぁ⁉︎」

咄嗟に後へ体を引き、琉成から椅子ごと離れた。

「げ、下剤⁉︎」

「圭吾は腸内も常に空っぽに近いとは思うんだけど、念の為にね。お互い惨事はイヤだろう?」

持っていたフォークをテーブルに置き、頬杖をついて琉成が笑った。

「……んくっ」

少し腹に痛みを感じ、片手で押さえながら琉成を睨みつける。よく見ると奴もちょっと頰がこけていて、普段と少し様子が違った。

「……怒ってんのか?」

「何を?」

「誕生日とか……そういうの」

「まさか!さっきも言ったじゃん。その件は本当に全然気にしていなんだって。今までだって、圭吾は俺にすんごく良くしてくれたし、美味しいモノ沢山飲ませてくれたしね」

顔を見る限りでは嘘には思えない。俺とは全然違う思考回路の持ち主だし、多分本心なのだろうが……理解不能過ぎて怖っ!『喰いたい』と言われ、トイレに連れ込まれた時並にコイツの考えが全く読み解けない。

「ワルイ。トイレ行くわ……」

「うん。いってらー。お風呂も沸かしてあるから一緒に入ろうね」

「はぁ⁉︎」

「誕生日だし」

「……わ、わかった」

ここ数ヶ月間の不安定な関係は別として、その前までは長い事親友関係を営んでいたせいか、目の前の危機感よりも申し訳ない気持ちが先に立ってしまい、不覚にも合意してしまった…… 。

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