コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「嫌だね」
「パパ、いい加減にしてよ!」
遥香が怒るのも無理のない事だった。
それに大事な話が何なのかは想像出来た。
だからといって、愛する1人娘の遥香を、そう易々と手放す訳にはいかなかった。
まだまだ遥香には早すぎると思った。
遥香がもう少し大人になり、本当に遥香を幸せにしてくれる男性が現れたその時は認めるとしよう。
葵の忘れ形見である遥香が幸せになれなければ葵に合わせる顔がない。
「パパ…ありがとう。でもね、私だって自分を幸せにしてくれる男性くらい自分で見つけられるよ。それに私が幸せにしてあげたい…一生守っていってあげたい…そう本気で思える男性と一緒になりたいって考えてるの。だから心配しないで」
「また、心の中を勝手に…っていうか半人前が生意気言ってんじゃないよ」
「そうだよ。確かに私は半人前だよ。だから半人前の私と半人前の彼が手と手を取り合う事で、1人前になるよ」
遥香のもっともな意見に、一瞬返す言葉が見当たらなかった。
こんな生意気な事を言うようになっていたとは…
「半人前が何人集まったって1人前にはならないんだよ。半人前同士じゃ失敗して苦労するに決まってる。そんなの父親として黙って見てる訳にはいかないんだ」
「ちょ‥ちょっと2人とも落ち着いて」
僕と遥香の険悪な雰囲気を察した美咲さんが止めに入ってきた。
「落ち着いていられる訳ないだろ!」
「紺野くんだって、葵ちゃんと結婚した時、1人前の立派な男性だった?」
「・・・・・」
「違ったでしょ?」
「覚悟はあった。そこらへんの若者とは全然違う。肝が座っていた」
「遥香の彼だってそうかもしれないじゃない…。会って自分の目で確めてからでもいいんじゃないの?」
「パパ…お願いっ!」
「私からもお願いします」
2人の必死のお願いで仕方なく会う事にした。
約束の時間は午前11時。
美咲さんは忙しそうに、食事の準備をしていた。
僕は“食事なんて出す必要ない”と美咲さんに言ったが、僕の言葉に耳を傾ける事なく着々と準備を進めていた。
遥香は午前8時前には家を出て行った。
家に連れて来る前に何処かで待ち合わせをして、僕に認めてもらうための作戦でも練っているのだろう。
どんな手を使ってくるか知らないが、そんな簡単に事が上手く運ぶと思っているなら大間違いだ。
人生の厳しさを教えてやる。
午前10時を過ぎると美咲さんは、和室のテーブルの上に料理を並べ始めていた。