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リビングルームのもう一つのテーブルにクロスが敷かれ、カトラリーと運ばれてきたお料理がきっちりと並べられた。


私の隣にシェナ、正面にリズが席に着くと、支配人たちは「ごゆっくりとお楽しみください」と、一礼して去っていった。


その色とりどりに美しいお料理を、リズは器用に切り分けたりフォークに乗せたりして、丁寧に食べていく。

満足そうに微笑んでは、ワイングラスに注がれた赤いお酒を口元に運ぶ。

仕草はこの上なく上品で、そしてとても美味しそうに。


けれど、その濡れたくちびるに、世の男性たちは色々と期待したに違いない。

女の私が見ても、そう感じるくらいに魅力的だ。



見よう見まねで私とシェナも食べると、その芳醇な香りとなめらかな舌触りが、美味と一緒に舌を虜にした。

ひとくち、目を見開いて、シェナと一緒に驚いて。

ふたくち、今度は二人で何度も頷いて。


「ふふっ。ほんとに美味しいわねぇ。サラとシェナと一緒だから、余計に美味しく感じるぅ」

リズはほんとに上機嫌で、楽しそうだ。

そんな風に言ってもらえて、私たちも嬉しいし。


――相談ごとは、食べてからにしよう。

それは遠慮とかではなくて、今はこの食事を楽しみたいと思ったから。


そんな風に思っていると、リズの方から切り出してくれた。

一度は夢魔の魔法を断っているから、なおさら不思議だったようだった。



「え? 魔王様のために? いいけど……う~ん。たぶん、効かないわよ」

サラの方が強ければ別だけど。という言葉で、前にリズからかけられて、そういえばそうだったなと思い出した。


「そんな……」

でも、私が弱っている時は、あっさりと夢の中に落とされたから。

「そりゃあ、あれだけ弱ってたらねぇ。でも、魔王様にそんな隙があるとは思えない」


たしかに、少しでも魔法発動の気配があれば、魔王さまは即座に感知している。

剣を教わっていた時はもちろん、普段何気ない時でも。

この間も、移動するのに近くで飛ぼうとしたら、中和して消された上に、魔王さまの方に引き寄せられた。

単に抱きしめたかっただけと仰っていたけど、私の魔法を反射的に打ち消したのを誤魔化しているのは、明らかだった。



「理由を教えて? 何の夢を見させたいの?」

「うなされてたから……。それに、ぜんぜん寝てないかもしれなくて」


あの時以降は、うなされているのを見てはいない。

私よりも先に起きているから。

本当に、だから寝ているのかどうか、怪しい。


「魔王様が? ……なら、たくさんお話しなさい。魔法を使うんじゃなくて、あなたがちゃんとお側に居て、魔王様の背負っているものを少しでも軽くしてあげなさい」

「背負っているもの?」


「そりゃあ、『魔王』様なんだし。いろいろあるでしょうよ」

難しいことは……私には分からない。

「そんなの、私には……」



「何言ってるのよ。女が側でニコニコ微笑んでいれば、男はそれだけで癒されるんだから。いつでも微笑んであげなさい」

それが一番の魔法よ。と言わんばかりに、リズは手に持ったフォークを指揮棒のように、ふわふわと律を取った。


「いつでも?」

「そうよ。夜のお相手をするのも、もちろん癒しになっているはずだけど。女の笑顔はそれと同じか、それ以上に効き目があるんだから」

そういうものかな?

というのが、顔に出たらしい。


「もう。信じてないわねぇ」


そう言うなり、リズは突然、冷たく凍るような視線で、見下すように顎を少し上げた。

ぞくりと背すじが冷たくなって、まだ口の中を幸せにしていたはずの残り香が、一気に砂でも残っているかのように、味がしなくなった。



「な、なに……? 何か……悪いこと言っちゃった?」

そう言うのが精一杯で、本当に何かしでかしていたら、どうしようかとパニックだ。

リズのこんなに冷たい表情は、見たことがない。


「ぷっ! ぷふふふふふ! ほらぁ、言ったとおりでしょぉ?」

突然の破顔と、その笑顔にホッとしたものの……状況がよく分からない。


「もぉ、ニブイ子ねぇ。さっき言ったままのことをしたのよぅ。女が怒ると、男はストレスで死んじゃうくらい落ち込むの。でも、意味が分からなくても笑顔を見たら、ホッとする生き物なのよ」

「……わたし、いま男の人のきもち、すっごいわかった」


「アハハハ。かぁわいぃ」

さっきまでと同じか、からかって楽しかったのか、より一層ご機嫌に見える。



「もぉ。リズってば一言言ってからしてよ。ほんとに、美味しいごはんの味がしなくなったもの」

「ごめんごめぇん。でもぉ、女の笑顔のチカラ、よく分かったじゃない?」


「はぁ。ほんとびっくりした。ね、シェナ。って、シェナ?」

隣を見ると、ナイフとフォークを握りしめて小刻みに震えたまま、固まっている。


「か、かわいそうに。よしよし、もう大丈夫だからね。ね?」

「イザリス様は、おそろしい方です……」

シェナの頭を撫でてあげて、ぎゅっと抱きしめてようやく、ホッとした顔をしてくれた。





その後は、リズの武勇伝を聞きながら、テーブルに並べられたお料理のほとんどを食べてしまった。

もちろん、デザートまで。


リズはフルーツそのものが好きなようで、飾り切りで可愛い花のように盛り付けられたのをパクパクと口に入れていく。

シェナも気に入ったのか、同じように。


こうして見ると、リズもあどけなく映る。

「リズはほんとに、魔性の女ね……」

上品で妖艶で、冷たい目もホッとする笑顔も見せる。天真爛漫で、自由自在だ。



「なぁに言ってるのよぅ。あなたもこのくらい、出来るようになんないとぉ」

少し顔が赤い。

「もしかして、酔って来た?」


「うぅ~ん。このお酒ぇ、美味しくってぇ」

いつの間にか、ひと瓶飲み干している。

「えぇ~……そんなに飲んじゃって、もぅ」

私には強くて、水かフルーツジュースしか飲まなかったのに。



「だぁってぇ。あなたたちなら、襲ったりしないでしょうぅ」

そうか、食事に毒……ではなくても、睡眠薬を入れられたりとか、酔い潰してやろうなんて人も居るのだろう。

だから、あんなに幸せそうに食べていたんだ。

安心出来る場所で、安心出来る相手と一緒だから。


……いや魔族だし、毒耐性もあるから大丈夫そうではあるけれど。

一服盛られたと分かったら、興ざめして美味しくはないか。



「リズも、魔王城に住めばいいじゃない」

ここ程のお料理は、他では食べられないだろうけど。


「んぅぅ。考えとくぅ」

込み入った話を、先にしてくれてよかった。


後はもうベッドに運んで、眠ってもらおう。

「シェナ。今夜はリズとここに泊まって。私は明日の朝、また戻ってくるから」



――話が盛り上がってしまって、魔王さまの所に帰るの、遅くなっちゃった。

聖女級の治癒力でも、魔族だとバレるのはよくないようです ~その聖女、魔族で魔王の嫁につき~

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コメント

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第二章 十六を読んでくださりありがとうございます。 こんな風に相談できる相手がいると良いですね。食事も美味しそうだなぁ

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