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エピローグ
第八話 青に染まる月
ボロボロの布の隙間から差し込む夕日が顔に差し掛かる。
その眩しさに、ダイチはゆっくりと目を開けた。
いつの間にか互いに肩を預け合ったまま眠っていたらしい。
隣ではまだジントが静かな寝息を立てている。
穏やかな寝顔。
ーーあん時みたいやな……。
ふと思い出す。
同じように過ごした時間。
まだ、重い運命を背負っていたジント。
伝えられなかった想い。
でも今は、もう違う。
ダイチはふっと小さく息を吐いた。
視線を落とす。
ジントの薬指に光る小さな指輪。
その光景に、ダイチは思わず目を細めた。
本当に嵌まっとる。
なんだか夢のようで何度も確かめたくなる。
胸の奥がくすぐったい。
嬉しい。
照れ臭い。
恥ずかしい。
色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。
「……ジント」
小さく呼ぶ。
返事はない。
ダイチは少しだけ笑った。
「寝とるし」
指輪へそっと触れる。
本当は起きてる時に渡したかった。
でもたぶん無理だった。
今だって顔が熱い。
ジントに見られていたら、絶対何も言えへんかったな……。
そう考えていると。
「……ん……」
小さな声。
ダイチの身体がびくりと固まる。
長い睫毛が震えた。
ゆっくりと瞼が開く。
もたれていた頭を起こし、乳白色の瞳がぼんやりとダイチを映した。
「……ダイチ……?」
寝起きの掠れた声。
それだけで心臓が跳ねる。
「お、おう……!?」
思わず変な返事になる。
ジントはまだ眠そうな顔で瞬きを繰り返していた。
しかし。
「……ん?」
何か違和感を感じ、それからふと視線を落とす。
右手。
薬指。
指輪。
一瞬、時間が止まった。
「……え……?」
小さな声。
恐る恐る手をかざし、指輪を見る。
顔を上げる。
また指輪を見る。
そして、ゆっくりダイチを振り返った。
青い瞳と目が合う。
ダイチは耐え切れず視線を逸らした。
耳が真っ赤だった。
「……ずっと……渡したかってん……」
声が小さい。
「前のジントに似合いそうやな思って買ったんやけど……」
頭を掻く。
落ち着かない。
全然落ち着かない。
「今の方が……似合っとる」
ジントは何も言わない。
ただ指輪を見つめていた。
月色の石。
自分の瞳と同じ色。
自分のために選んでくれたもの。
旅の途中も、きっとずっと持っていてくれたもの。
胸が熱くなる。
言葉にならない想いが込み上げる。
ぽろり。
涙が落ちた。
「あっ……!」
ダイチが慌てる。
「ご、ごめん!」
「違う……」
ジントは首を振った。
慌てて涙を拭う。
けれど次々溢れてしまう。
「嬉しい……」
震える声。
「すごく……嬉しい……」
ダイチは目を見開く。
そして、ほっとしたように息を吐いた。
「そっか……」
泣きそうな顔で笑う。
「良かった……」
その顔を見た瞬間。
ジントの胸はさらに苦しくなった。
ーー好きだ、本当に。
どうしようもないくらい。
ダイチのことが好きだ。
胸の奥から溢れる感情に、自分でも困ってしまう。
「ありがとう……」
その言葉で、精一杯だった。
その時、ふと視界の端で魔石灯の光が揺れた。
さっきより少し弱い。
二人は自然とそちらを見る。
静かな灯り。
子供の頃から秘密基地を照らしてきた光。
やがてそれはゆっくり小さくなり、まるで眠るように、ふっと消えた。
もう二度と灯ることのない光。
魔法の光。
けれど同時に、布の隙間から差し込む夕日が、秘密基地の中を赤く染める。
暖かい光。
昔と同じ光。
ジントは思わず微笑んだ。
「……そろそろ出よっか」
「うん」
二人は秘密基地を出る。
そしてそのまま夕焼けに染まった森を抜け、いつもの高台へ向かった。
見慣れたラディスの街。
赤い屋根。
白い教会。
立ち昇る煙。
変わらない景色。
変わった世界。
そして、隣にいるダイチ。
風が吹く。
自然と手が触れる。
そのまま指を絡める。
温かい。
その手に嵌まる薬指の指輪が、夕日の光を受けてきらりと光った。
ジントは思わずそれを見つめた。
嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいになる。
そして気付けば、ダイチを見ていた。
夕日を映す青い瞳。
綺麗な横顔。
少しだけ照れたような表情。
ダイチが視線に気付く。
「……なんや?」
優しい、だけど少し緊張した声。
ジントは小さく笑った。
「ねぇダイチ」
「ん?」
胸がうるさい。
けれど、今なら言える気がした。
「目、閉じて」
「……は?」
ダイチの顔が固まる。
「えっ?」
「え……っ!?」
「いや、閉じるけど……!?」
慌てる。
耳まで真っ赤になる。
その姿が可笑しくて、愛おしくて、ジントは吹き出した。
「なんでそんな慌てるの」
「そら慌てるやろ!」
真っ赤な顔で言い返す。
「ほら、いいから早く」
ジントがそう言うと、ダイチは緊張した顔で目を閉じた。
ジントは笑う。
そして少しだけ背伸びをした。
「大好き……」
耳元で囁く。
「ずっと、傍にいるから……」
それからほんの一瞬。
ダイチの頬へ触れる。
柔らかな感触。
ぱっと目を開くダイチ。
そこには悪戯が成功した子供みたいに笑うジント。
「ジ、ジント……!?」
信じられないという顔で頬に手を当てる。
顔がさらに赤くなる。
その顔を見た瞬間。
今度はジントまで恥ずかしくなった。
鼓動がが速い。
どうしよう。
でも、もう止まれない。
黙って見つめ合う。
潤んだ青い瞳が、真剣な色になる。
やがて自然と距離が縮まる。
夕日が空を赤く染める。
二人の顔が紅く染まる。
冷たい、でも穏やかな風が吹く。
絡めたままの手を強く握る。
ゆっくり目を閉じる。
ダイチの手が頬に触れる。
そしてそっと、唇が重なった。
不器用で、温かくて、優しいキス。
それは、今まで交わしたどんな言葉よりも、互いの想いを伝え合うものだった。
唇が離れる。
数秒、見つめ合う。
そして。
「……っ」
「……っはは!」
同時に吹き出した。
二人とも真っ赤だった。
並んでラディスの街を見下ろす。
繋いだ手は離さないまま。
頭上では、月が静かに顔を覗かせていた。
ジントの瞳が同じ色を映す。
再び涙が溢れる。
月がぼやける。
こんな日が自分に訪れるなんて、思ってもみなかった。
「ジント……」
ダイチが細い肩を抱き寄せた。
青い瞳に自分が映る。
ジントは震える手を伸ばし、ダイチの頬にそっと触れる。
「ダイチ……好きだ……」
濡れた瞳が、サファイアの青に染まる。
「俺もや……。好きや、ジント……」
流れ落ちる涙を優しく拭う。
そして二人はもう一度、そっと、唇を重ねた。
この回は、重い運命を背負いながらここまで生き抜いた二人へ。
そして、ここまで読んでくださった読者様へ、それから私自身への最大のご褒美回です(´;ω;`)
コメント
5件
素晴らしすぎる✨✨ ようやくようやく、いっぱい苦しんだ分幸せになれてよかった😭 最初はこうなるとは思ってたけど、やっぱり結ばれて良かった( ´ •̥ ̫ •̥ ` )
こんな幸せなご褒美貰っていいんですかってくらい幸せでしたꉂ🤭💕 様々な運命に立ち向かった2人には永遠に幸せでいて欲しいですね(*˘︶˘*)
みぅ🤍🥀です…。 完結、おめでとうございます…(´;ω;`) もう、最後まで一気に読んじゃいました。 秘密基地の魔石灯が消えるところ、ああここで本当に「重い運命」が終わったんだなって思ってじんわりしました。でも同時に、夕日が差し込んで、新しい日常が始まるんだって感じがして。指輪のシーン、ジントが気づいて泣くところ、もう涙が止まらなかったです…。 ダイチが「ずっと渡したかってん」って照れながら言うところ、めっちゃ好きです。あと最後のキス、不器用だけど温かくて、同時に笑い合える強さもあって。こんなに優しい結末を迎えられて、本当に良かったです。 comiさん、この42話、ずっとずっと心に残ります。ありがとうございました🌙