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その頃、紫野はメモに記されていた部屋の前まで行き、扉をノックした。
すると、中から返事が聞こえた。
「どうぞ」
いつもの国雄の声より少しトーンが高めだったが、深く考えることもなく紫野はドアを開けて部屋に入った。
そして、中にいた人物を見て驚く。
「真司様! どうしてここに?」
戸惑っている紫野を面白そうに見つめながら、真司は言った。
「久しぶりだな、紫野! ずいぶんと綺麗になって、もうすっかり大人の女だ……」
真司の鋭い視線がじわりと紫野の全身をなぞったので、彼女の身体に鳥肌が立った。
「私を騙したのね」
紫野は真司にそう告げると、くるりと踵を返しドアの方へ向かった。
しかし、すかさず真司がドアの前に立ち塞がり、鍵を閉めた。
そして、紫野を壁際へ追い詰める。
「どいてください! 部屋に戻ります!」
「まあまあ、そう怒らないで。久しぶりに会ったんだ、ゆっくり話でもしようじゃないか」
「話すことなんてありません」
紫野は、昔から真司が苦手だった。
東京から大瀬崎の家へ真司が遊びに来ると、彼はいつも紫野のことを獲物を見るような目つきで見つめた。
幼い頃からその異様な視線にさらされていたため、紫野は自然と真司のことを警戒するようになっていた。
「俺が嫁にしてやるって言ったのに、なんで高倉の家なんかに嫁いだんだ? ん?」
真司は、酒臭い息を吹きかけながらニヤニヤと笑う。その臭いに思わず顔をしかめた紫野は、こう返事をした。
「伯父様と伯母様にそうするよう言われたからです」
「いくら言われたからって、あんな年寄りの太った男にお前の純真無垢な身体を差し出すことはないだろう?」
真司はそう言うと、指先で紫野の顎を軽くつかんだ。
「おまけに、今度は村上家の長男と婚約しただと? ふざけるな!」
真司は吐き捨てるように言うと、親指で紫野の唇をそっとなぞる。
「や、やめてくださいっ」
「この可愛い唇は、あの男たちに吸われたのか? お前の処女は、一体どっちの男に捧げたんだ? おい、紫野! ちゃんと答えろよ!」
真司は怒りを露わにし、紫野の両腕を強く掴むと、さらに顔を近付けてきた。
紫野は必死に逃げようとするが、身体を壁に押し付けられ、身動きが取れない。
「や、やめてっ! 離してっ!」
「嫌だね! 本来なら、お前を最初に抱くのは俺だったんだ。それなのに、お前は他の男に抱かれたんだろう? 正直に言え! 言ってみろよ、紫野!」
「いやっ、やめてくださいっ!」
「お前が言わないなら、直接確かめてみるしかないな」
その言葉に、紫野は底知れぬ恐怖を覚え、必死に抵抗した。
「やめてっ! だ、だれか、助けてっ!」
「ここは一番奥の部屋だから、叫んだって誰も来やしないさ。いいから来いっ! 今からお前が処女かどうか確かめてやる!」
血走った真司の瞳には、今言ったことが本気だということが表れている。
紫野は危険を察知しなんとか逃れようとするが、体格のいい真司の身体を振り払えるはずもなく、引きずられるようにしてベッドへ連れていかれ、押し倒されてしまった。
「いやっ! やめてっ!」
真司はすぐに紫野の身体を上から押さえつけると、その柔らかな首筋に舌を這わせた。
そのおぞましい感触に、紫野は結婚初夜の悪夢を思い出してしまう。
「いやっ! た、助けて! 助けて、お父さん! お母さん!」
「おとなしくしていれば、悪いようにはしないから、静かにしろっ!」
「いやぁぁーーーっ、助けて! 助けて国雄さん!」
その時、扉が勢いよくバーンと開いた。
ベッドの上にいた二人は、驚いて振り返る。
そこには、怒りを露わにした国雄が、その隣には、進とホテルの従業員が立っていた。
国雄は険しい表情で真司を睨みつけながら、低い声で従業員に告げた。
「警察を呼んでください」
「承知しました!」
従業員は急いでフロントへ向かい、警察を呼びに行った。
「はっ? 警察? 警察なんか呼んでどうするつもりだ?」
「婦女暴行罪で訴える」
「はっ? そんなことできるわけがないだろう! 勘違いしてもらっちゃ困るが、彼女とは同意の上だ。俺が呼び出したら、自分からのこのこここへ来たんだからな」
それを聞いた紫野は、すぐに叫んだ。
「違いますっ! 私は国雄様からの呼び出しだと思って来ただけです!」
「紫野はそう言っているが、どうなんだ?」
真司は何も言い返せずに黙り込んだ。その時、国雄の隣にいた進が静かに言った。
「三崎さん、あなた、紫野さんのご両親が事故に遭った日の一週間前、この近くにある自動車整備工場に足を運んでいましたよね?」
その言葉に、真司の顔はみるみる青ざめた。
「なっ、何のことを言ってるんだ?」
はぐらかそうとする真司をよそに、紫野が驚きながら進に尋ねた。
「進さん、それはどういう意味ですか?」
紫野の問いに対し、進は真剣な表情で答えた。
「紫野さんのご両親の事故、あれは普通の事故ではない可能性があります」
説明を聞いた紫野の顔に、戸惑いの表情が浮かんだ。
「普通の事故じゃない……って、それはどういう意味ですか?」
そこで、今度は国雄が口を開いた。
「紫野。君のご両親の事故は、誰かが故意に引き起こした可能性があるということなんだ」
「…………」
紫野は頭が混乱し、言葉を失った。
「とにかく、三崎さん。あなたには一度警察に行ってもらう必要がありそうですね。もちろん、蘭子さんも一緒に」
「おっ、俺は関係ないっ! あれは蘭子が計画したことで、俺には関係がないんだ!」
「関係があるかないかはどうでもいいんですよ。とにかく、警察へ行ってすべてを正直に話してください。それが、紫野の亡くなったご両親への償いになりますから」
「だ、だから俺は何もしていないって言ってるだろう!それに、俺が警察に連れて行かれるなんて親父が知ったら大変なことになるぞ! 今までもそうだったんだ! 俺は捕まってもすぐに出られる…… 親父がいつも助けてくれたからな! だから今回もきっと……」
その時、廊下から大きな足音が聞こえてきた。その足音は、国雄たちがいる部屋の前で止まると、「ここですか?」という低い声と共に、数名の警察官が入ってきた。
「村上国雄様は?」
「私です」
「お父上からは詳細を伺っております。ちょうど私たちもその事件を調査していたところで、数々の情報提供をいただき感謝です」
「いえ……。しっかり捜査をお願いいたします」
「お任せください」
警察官たちは国雄に丁重に頭を下げた後、真司に向かってこう言い放った。
「お前が三崎だな。三崎真司、殺人容疑で逮捕する!」
「ちょっ、待てっ……俺は何もしてないぞ!」
「つべこべ言わず、言いたいことは署で話してもらおうか。おい、連れて行け!」
ベッドに座っていた真司は、屈強な警察官二人に両腕を掴まれ、部屋から引きずり出された。
後に残った警察官は、国雄に向かって告げた。
「村上様と被害者のお嬢様にもぜひお話を伺いたいのですが、今夜は遅いので、また改めて明日の朝ご連絡させていただきます」
「分かりました。夜分遅くにご苦労様でした」
「それでは失礼いたします」
警察官は姿勢を正し国雄に敬礼した後、部屋を後にした。
進も彼らを見送ろうと、一緒に部屋を出て行った。
コメント
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国雄様、進さん、瑠璃マリ先生 ありがとうございます😭一気に畳み込みましたね!流石です👍 さぁて、お次は、あの乱子の番です!
間に合ったぁぁぁあ
国雄さんが助けに来てくれたぁぁぁ( ߹꒳߹ )💦 紫野ちゃんの純血が汚されなくてほんとに良かった💕 真司&乱子はしっかり警察に取り調べしてもらい罪を償ってもらいましょ🤬🤬 元々は紫野ちゃんのお父さんの会社だったワケだから会社も取り戻したいよね💪