テラーノベル
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最初は、笑って流せると思っていた。
「アンチなんて気にすんなって、人気者の証拠だろ」
元貴が軽く肩を叩いてくる。
「そうそう、いちいち見てたらキリないって」
若井もいつも通りの調子で笑う。
涼ちゃんも、その時は頷いていた。
「うん、楽しんでいこうな」
本当に、そう思っていたはずだった。
——でも。
夜、ひとりでスマホを開いた時だけは、違った。
画面に並ぶ文字が、やけに刺さる。
“なんであいついるの?”
“キーボードいらないでしょ”
“なんかいつも女装してるよね”
指が止まる。
スクロールすればするほど、増えていく否定の言葉。
閉じればいいのに、見てしまう。
「……なんで、僕だけなんだろ」
ぽつりと漏れた声は、自分でも驚くくらい小さかった。
元貴も、若井も、同じステージに立ってるのに。
同じことをしてるはずなのに。
どうして矛先が自分にだけ向くんだろう。
何か、間違ってるのか。
自分がいることで、邪魔になってるのか。
そんな考えが、頭の中でぐるぐると回る。
次の日のリハーサル。
「涼ちゃん、そこちょっとズレてる」
元貴の声に、はっとする。
「あ、ごめん」
いつもならすぐ直せるはずなのに、手元がうまく動かない。
若井がちらっとこっちを見る。
「大丈夫?なんか今日ぼーっとしてない?」
「いや、平気」
そう言って笑う。
ちゃんと、いつも通りに。
——できてるはずなのに。
休憩に入ると、自然と人の少ない場所に足が向く。
壁にもたれて、深く息を吐く。
ポケットの中のスマホが、やけに重く感じた。
見なければいい。
分かってる。
でも、
“なんで僕だけ?”
その答えを、どこかで探してしまっている。
「……涼ちゃん」
不意に呼ばれて顔を上げると、元貴が立っていた。
いつもの軽い雰囲気じゃない。
少しだけ、真剣な目。
「無理してる顔してる」
「してないって」
すぐに返すけど、言葉が薄い。
少しの沈黙。
そのあと元貴は、ため息混じりに言った。
「全部見てんだろ」
図星だった。
言い返せないまま、視線を逸らす。
その様子を見て、元貴は少しだけ眉をひそめる。
「さ、正直に言えよ」
少し遅れて、若井も来る。
逃げ場がなくなって、涼ちゃんは小さく笑った。
「……なんかさ」
声が、うまく出ない。
「僕だけ、って思っちゃって」
その一言で、空気が静かになる。
「同じことしてるのにさ。なんで僕だけこんな言われるのかなって」
ぎゅっと手を握る。
「……いらないのかなって、思っちゃうんだよ」
言ってしまったあと、少しだけ後悔する。
こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。
でも。
元貴はすぐに否定しなかった。
若井も、軽く流さなかった。
その代わり、
「じゃあさ」
若井がゆっくり口を開く。
「俺らがなんで涼ちゃんとやってると思う?」
「……え」
予想外の言葉に、顔を上げる。
元貴が続ける。
「必要ないやつと一緒にやるほど、俺ら暇じゃないよ」
少しだけ意地悪な言い方なのに、不思議と優しい。
「アンチが何言っててもさ」
若井が肩をすくめる。
「俺らが選んでるのは、涼ちゃんだから」
言葉が、胸に落ちる。
すぐには信じきれない。
でも、少しだけ、息がしやすくなる。
元貴が軽く笑う。
「てかさ、アンチって“目立つやつ”にしか来ないんだよ」
「人気者の証拠ってやつ?」
若井が茶化すと、
「そうそう」
元貴は頷いてから、少しだけ真面目な顔になる。
「でも無理に強がんなくていいから」
その一言に、視界が少し滲む。
「しんどいときは、言えよ」
涼ちゃんは、少しだけ間を置いてから
「……うん」
と頷いた。
まだ全部は消えない。
苦しさも、疑問も。
それでも、
ひとりじゃないって思えたことだけは、
確かだった。
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