テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ご本人様には関係ありません
🙂
#🍏
あの日から。
少しだけ、楽になったはずだった。
元貴と若井の言葉は、ちゃんと胸に残っている。
ひとりじゃないって、思えた。
それでも。
完全に消えるわけじゃなかった。
「……僕だけ」
気づけば、また同じことを考えている。
頭では分かってるのに。
何度も打ち消したはずなのに。
本番の日。
ライトがついて、歓声が上がる。
いつもなら、それだけでスイッチが入るのに。
今日は、どこか遠い。
音は聞こえている。
体も動いている。
なのに、
「……あれ」
自分がそこに“ちゃんといる感じ”がしない。
指は鍵盤を叩いているのに、
どこか他人みたいで。
笑わなきゃ、って思うのに、
表情がうまく作れない。
客席を見るのが、少し怖い。
——見られてる。
そんな感覚だけが、やけに強くて。
ライブは進んでいく。
ミスはしていない。
形としては、ちゃんとできている。
でも。
いつもと違うことくらい、
「……っ」
一瞬、手が止まりかける。
そのとき。
ちらっと視界に入ったのは、
ステージの中央にいる元貴。
目が合う。
ほんの一瞬。
でも、
軽く、頷いた。
“戻ってこい”って言われた気がした。
若井も、さりげなくこっちを見て、
少しだけ笑う。
大丈夫、って顔で。
その瞬間、
少しだけ、息が戻る。
「……僕は」
小さく、自分に言い聞かせる。
ここにいる理由。
選んでくれた人。
僕を見てくれてる人。
アンチじゃなくて、
ちゃんと、僕を好きでいてくれる人。
全部、思い出す。
「……ちゃんと、やらなきゃ」
指に、少しだけ力が戻る。
完璧じゃなくていい。
でも、
逃げるままじゃ、終わりたくない。
ゆっくりと、
“僕”を取り戻すみたいに、
音に、気持ちを乗せていく。
客席のざわめきが、
少しずつ、
いつもの空気に戻っていくのが分かった。
まだ怖い。
まだ揺れてる。
それでも、
ステージの上にいる“僕”は、
ちゃんと、ここにいた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!