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コメント
3件
純くーん!!😭可愛そうだよぉ😭権兵衛さん忘れちゃだめだって!!
切なさすぎる…😭 権兵衛くんに どなたですか って言われた時の純くんが…😭 もうヤバいこれ…😭 次回どうなっちゃうんだよぉ…😭
その日も、屋敷はいつもと変わらなかった。
廊下に差し込む光の角度も、
床を踏むときのわずかな軋みも、
空気の匂いさえ、昨日と同じだった。
――違うのは、僕だけ。
玄関を抜け、帳簿の整理をしている権兵衛の背中が見えたとき、
純は少しだけ安心した
(……まだ、大丈夫かもしれない)
自分でも驚くほど、期待していた。
『おはよう、権兵衛』
声は、ちゃんと出た。
いつも通りの高さで、いつも通りの調子で。
なのに。
権兵衛は振り向かなかった。
聞こえなかったのだろうか。
そう思って、もう一歩近づく。
「権兵衛?」
それでも、反応はない。
帳簿を抱えたまま、権兵衛は純の横を通り過ぎた。
その距離は、肩が触れそうなほど近い。
それなのに、視線が一度も合わない。
胸の奥が、ひやりと冷えた。
(……あ、これ……)
嫌な予感が、遅れてやってくる。
純は足を止め、背中越しにもう一度呼んだ。
「……権兵衛、」
その瞬間だった
権兵衛がぴたりと足を止め、
ゆっくりと振り返った。
純はその顔を見て、はっきりと理解してしまった。
――知らない人を見る目だ
驚きでも、戸惑いでもない。
“情報が何もない相手”を見る、まっさらな視線。
『……どなたですか?』
たったそれだけの言葉なのに、
純の世界が、音を立てて崩れた。
耳鳴りがする。
息が、一瞬、吸えなくなる。
『……え……?』
間抜けな声が喉から落ちた。
笑おうとした。
冗談みたいに受け流そうとした。
でも、口角が動かない。
権兵衛は一歩、丁寧に距離を取った。
『失礼ですが、こちらは関係者以外立ち入り禁止でして。
ご用件をお伺いしても……?』
その丁寧さが、いちばんきつかった。
怒りも、警戒もない
ただ、純が“無関係な人間”になっただけ。
胸の奥が、ぎゅっと潰れる
そして――
不意に、視界が滲んだ。
(……あ)
理由もなく、
止める暇もなく、
涙が、ぽろっと落ちた。
あまりにも突然で、純自身が一番驚いた。
『……っ』
慌てて瞬きをする。
手で目元を拭う。
こんなところで泣くつもりなんてもちろんなかった。
見られるつもりも、なかった。
権兵衛がわずかに眉を寄せる。
『……大丈夫ですか?』
その言葉が、完全にとどめだった。
(ああ……)
(心配される理由すら、もう“他人”なんだ)
純は視線を逸らし、無理やり声を出した。
『……すみません……人、間違えました』
喉が詰まりそうになるのを必死で押さえ込む。
『失礼、します……』
それだけ言って、踵を返した
背中に、権兵衛の視線を感じる。
でも、それは“純”を見る視線じゃない。
泣いている、見知らぬ誰かを見る目だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
屋敷の門を抜けた瞬間、堪えていたものが一気に崩れた。
涙が溢れる
息が乱れる
『……っ、は……』
走った
誰にも見られたくなくて、
これ以上、何かを壊されたくなくて。
屋敷から遠ざかるたび、
胸の奥が空っぽになっていく。
(権兵衛に、忘れられた)
事実を言葉にすると、
それだけで足がもつれそうになる。
立ち止まって、壁に手をつく
手のひらが、少しだけ壁をすり抜けた気がした。
『……あは……』
笑ったつもりが、嗚咽に変わった。
『……そっか……』
声が、風に消える。
純はそのまま、顔を伏せて歩き続けた
もう、戻る場所が一つ、確実に消えたことを知りながら
続き⇨♡いくらでも