テラーノベル
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屋敷を出て、少し歩いたところで、純は足を止めた。涙はもう乾いていた。
逃げた自分が、少し情けなくて、
それ以上に、戻れない気がして。
「……」
背後で、足音がした。
走ってくる音じゃない。
急いでいるけど、息を整えながら歩いてくる音。
「……八重?」
名前を呼ばれて、
心臓が一拍遅れて跳ねた。
ゆっくり振り返る。
そこにいた権兵衛は、さっきとは別人だった。
困惑も、警戒もない。
ただ、顔色が悪い。
「……今……思い出した」
それだけ言って、権兵衛は立ち止まった
「……八重に『誰だ』って言った瞬間……
頭の中が……真っ白になった」
純は、何も言わない。
「……ありえないんだ」
権兵衛は、低い声で続けた。
「俺が……
八重桜純を忘れるなんて」
しばらく沈黙が落ちる。
「……だから……変なんだ」
権兵衛は、はっきり言った。
純の指先が、きゅっと握られる。
「……八重、なんか隠してる だろ?」
責める口調じゃなかった。
詰問でもない。
確かめる声だった。
純は、視線を落としたまま、小さく息を吸った。
「……言ったら……
たぶん……困らせるよ」
権兵衛は、少しだけ眉を寄せた。
「……もう、困ってる」
その一言で、純の中の最後の壁が崩れた。
「……僕、病気になっちゃったw 」
声は、思ったより静かだった。
「……人に……
忘れられていく病気なんだ」
権兵衛は、すぐには反応しなかった。
数秒、間を置いてから、口を開く。
「……だから……」
言葉を探す。
「……俺は…… 八重を……忘れた」
純は、小さく頷いた。
権兵衛は、目を伏せた。
「……それが…… 最初じゃないな」
問いではなかった。
「……最近…… みんな……少しずつ」
純の声は、淡々としていた。
権兵衛は、ゆっくり息を吐いた。
「……なんで…… 言わなかった」
純は、少し考えてから答えた。
「……言ったら…… “消える”のが…… 早くなりそうで」
沈黙
風が、二人の間を通り抜ける。
「……怖かった」
それだけ、付け足した。
権兵衛は、しばらく黙っていたが、
やがて短く言った。
「……そうか」
それ以上、何も言わなかった。
でも、背を向けて歩き出す純に、
ぽつりと声をかける。
「……次に…… 忘れたら……」
純が止まる。
「…その時はもう無理だよ」
振り返り権兵衛は言って
「……どう言うことだ? 」
もう苦しい 言ってしまいたい でも…
「僕さ…最低でも後三ヶ月だよ権兵衛が覚えていてくれるの」
権兵衛の目が見開かれた
「それって…?」
言い出したら止められない
「余命みたいなものだよ…w」
「…分かった…じゃあ残りを悔いなく生きよう。俺も光子郎も絶対助ける。」
ーだって
仲間だからな
純の胸が、少しだけ熱くなった
救いじゃない
約束でもない
でも――
確かに、気づいてくれた人がいた
続き⇨♡500
この作品を読んでくれている皆様へ
主の玲奈です!今日から12月25までにハピエンにするかバトエンにするかアンケートをとります。年末ぴったしにこの作品を完結させたいのでご協力お願いします!
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