テラーノベル
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一同は草木が生い茂る細い一本道を、足元を確かめながらゆっくりと歩いていた。
木々は空を覆い隠し、昼間だというのに森の中は薄暗い。
鳥の鳴き声さえ聞こえず、聞こえるのは落ち葉を踏む足音だけだった。
その静寂を破るように、茜が不安そうな声を漏らす。
「く、熊とか猪とか出てきたりしないかな?」
少し間を置き、さらに弱々しく続けた。
「だ、大丈夫かな?」
さくらは額に手を当て、大きくため息をつく。
「もー!茜!」
困ったように笑いながら肩をすくめた。
「考えないようにしてたのに」
「あ、ごめん」
茜は申し訳なさそうに頭をかく。
しかし次の瞬間、また口を開いた。
「でも最悪の場合──」
言い終わるより早く、森に甲高い悲鳴が響いた。
「いやぁぁ、蜘蛛!蜘蛛!
蜘蛛の糸が顔に!やだも〜ぅ」
龍河は思わず顔をしかめる。
「おいぃぃぃ!デカい音出すな
って言ったばっかだろーが!」
さらに呆れたように続ける。
「言ったそばから騒ぐなよ」
「あ、ごめんなさい・・・」
茜は肩をすぼめ、しゅんと俯いた。
「ったく・・頼むぜホント・・・」
龍河は苦笑しながら、茜の顔に絡みついた蜘蛛の巣を軽く払ってやる。
「は〜い、取れたぞ」
「あはは・・ありがとうございます」
茜は恥ずかしそうに笑う。
その様子を見ていた信愛が、突然悲鳴を上げた。
「きゃあああ!」
驚いた茜が飛び上がる。
「なに?なに?なに?どうしたの!?」
龍河もすぐに振り返る。
「何があった!?」
信愛は震える指を森の奥へ向けた。
「あ、あれ・・・」
龍河は信愛の指差す方向へ目を向ける。
だが、木々が揺れているだけで、龍河の目には何も映らない。
「な、何もねーけど?」
信愛は目を見開いたまま、小さく呟く。
「み、見えないんですか?」
一瞬、表情が曇る。
「って事は・・・霊?」
その言葉に、後ろを歩いていた朝陽が息を呑んだ。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
「霊が居るんですか!?」
信愛はゆっくりと頷く。
「凄い数の霊が居る・・2、30人くらい」
その視線の先には、 おびただしい数の人影が静かに並び立っていた。
老若男女、誰一人として言葉を発さず、半透明の姿のまま、ただ一行をじっと見つめている。
龍河は思わず聞き返した。
「はぁ!?2、30人!?」
さくらの顔から血の気が引く。
「な、なんでそんな凄い数の霊が居るの!?」
焔垂は霊が居る方角を見つめながら険しい表情で呟いた。
「もしかして・・・新開村の村民?」
龍河は静かに頷く。
「確かにそう考えるなら2、30人
って数は納得できる数だな・・・」
さくらは息を呑む。
「なら、やっぱり新開村は馬場さんの予想通り──」
龍河は重く頷いた。
「ああ・・焼かれたと考えて間違いなさそうだな」
その言葉を聞きながらも、信愛は霊たちから目を離せなかった。
(でも・・・なんだろう)
彼らの表情は、想像していたものとは違っていた。
(凄く悲しい顔してる)
憎悪に歪んだ顔ではない。
怒りに燃える目でもない。
村を焼かれ、命を落とした者たちであるはずなのに、その瞳に宿っていたのは深い悲しみだった。
(しかも、村を焼かれて亡くなった人の
霊なら怨念だって、桁違いに凄い筈)
普通なら、その強烈な怨念だけで周囲に、膨大な量の霊気を放ち、信愛の霊気が霊圧を拒否してもおかしくない。
(それなのに私が目視できてる)
その事実が、信愛の胸に大きな疑問を生む。
(それはつまり、私の霊気が
霊圧を拒否してないって事になる)
霊たちは確かにそこにいる。
しかし、自分を拒絶する気配はまるで感じられない。
(どういう事?)
一つの考えが脳裏をよぎる。
(もしかして・・・恨みがないって事?)
その時だった。
「白縫さん?」
龍河の声が耳に届く。
「どうかしたか?」
信愛はハッと我に返り、慌てて首を振る。
「あ、いや・・・なんでもありません」
そして無理に笑みを浮かべる。
「だ、大丈夫です・・・」
信愛は、胸の奥に引っ掛かった違和感を拭えないまま、もう一度霊たちが立っていた場所へ視線を戻した。
「あっ」
思わず小さく声が漏れる。
さっきまで確かに2、30人もの霊が並んでいたはずの場所には、もう誰の姿もなかった。
風に揺れる木々と、静まり返った森だけが広がっている。
さくらが首を傾げる。
「どうかした?」
信愛は困惑した表情のまま答えた。
「霊が・・消えた」
自分でも信じられないというように呟く。
「なんだったんだろ・・あの霊・・・」
胸の奥の疑問は、さらに大きくなる。
何かを伝えたかったのだろうか。
それとも、ただ自分たちを見送っていただけなのか。
考えても答えは出なかった。
龍河は皆を見回し、気持ちを切り替えるように口を開く。
「とりあえず先を急ごう」
そして信愛へ視線を向ける。
「君のお母さんはすぐそこだ」
信愛は力強く頷いた。
「はい!」
再び歩き始めた一行。
その時、先頭を歩いていた茜が足を止める。
「あ!馬場さん!」
慌てたように森の奥を指差した。
「奥の方に家っぽい建物見えますよ!」
龍河は目を細める。
「なに!?」
茜はさらに身を乗り出すように叫ぶ。
「ほら!あれ!」
全員が視線を向ける。
木々の隙間、そのさらに奥。
深い緑に埋もれるようにして、一軒の木造建築が静かに佇んでいた。
長い年月を耐えてきたような古びた民家。
人の気配は感じられないが、確かにそこに存在している。
龍河は目を凝らし、小さく頷いた。
「確かに家っぽいな」
その表情にわずかな緊張が走る。
「よし、行ってみよう」
誰も返事をしなかった。
ただ互いに顔を見合わせると、小さく息を呑みながら、古びた民家へ向かってゆっくりと歩き始めた。
コメント
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×××さん、286話読了です! 龍河が蜘蛛の巣を払ってあげる優しさにほっこりした直後の、信愛の「霊が2、30人」で一気に空気が変わりましたね…。しかも村を焼かれたはずの霊たちが、憎しみじゃなく「悲しい顔」をしていたのがすごく気になります。怨念がなくて、信愛に姿が見えているのも含めて、何か大きな謎を感じる回でした。古びた民家、この先どうなるのかドキドキです!