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リンド村を出た私たちは、 領主の住む街オーミヤを目指していた。
この世界にも四季があるのだろうか。
道端に、赤く咲く花があった。
「……これ、椿に似てるな」
椿──私の世界で見かけた花。
今の世界には無いけど、雰囲気が似ていた。
「ツバキ……今ごろどうしてるかな」
ふと思い出した、親友の顔。
「まあ、あの子は絶対元気でしょ。
何しても誤解されてトラブルに巻き込まれる体質だけど、
受け入れて流されつつも上手くやるし」
一呼吸おいて、私はクスッと笑った。
「……カエデは……今ごろ泣いてるね。パン食べながら」
ありありと想像できて、私はまた笑った。
みんな、どこかで生きてる。
それだけで、少しだけ心が軽くなる気がした。
さぁ進もう。
こっちはこっちで、世界征服の時間だ。
陽射しがやや強く、少し暑くなってきた。
とても良い天気だ。
──こんな日は光合成が捗る。
*
「今日は気持ち良い日だねー☆」
エスト様が笑顔で言った。
「エスト様、歩くのに疲れたら辰夫に乗って良いからね?」
「む?うむ」
辰夫がコクリと頷く。
「うん。ありがと。でも今はちょっと歩きたいよ」
エスト様が優しく微笑む。
そして──気になるのは辰美だ。
何故かずっと私の着物の袖口をつまんでいる。
「ねぇ……辰美?……これ、なに?」
私は辰美がつまんでいる部分を指差しながら言った。
「な、なんでもないです!ご!ごめんなさい!」
辰美は慌てて手を離した。
「変なの……」
私は首をかしげた。
「……」
辰美は耳たぶまで真っ赤にし、しばらくうつむいていた。
*
しばらく初夏を満喫しつつ歩いていたが、その時。
乱視を克服した私の目が周囲の殺気を捉えた!
「ん……?
ポンコツ小娘ッ!トカゲ共ッ!囲まれてる!
乱視が治ったから分かる!殺気が見える!」
「どさくさでディスってくるのやめて!?
乱視が治ると殺気が見えるの!?乱視ってなに!?」
この非常時にも正確にツッコミができるエスト様。
成長したね。嬉しいよ。
「トカゲ共!?」
辰夫が私を二度見する。
「あぁもう!ありがとうございます!」
辰美の様子がやはりおかしい。
「……うーん……仕方ない。
やるか……はぁ……めんどいなぁもう……」
私はため息をつくと、声を張り上げて言った。
「こちらを取り囲んでいるのは分かってる!何の用だ?」
すると、一人の男が近づいて来て言った。
「ほうほう。まさか我らに気付くとは」
その糸目の男は歩みを進めながら話を続ける。
「私たちは王国騎士軍精鋭部隊です。
私は部隊長のジルと申します。
とあるお方より依頼を受けまして、あなた方を始末しに来ました」
「はい!領主の依頼。次!」
「うん!領主の依頼だね」
「ふむ。領主の依頼か」
「それ、領主の依頼ね」
私たちは即答した。
「ふふ……」
糸目の男は私たちの前で足を止めると腰の剣を抜いた。
そしてこの男の余裕な態度に私のイライラ度はマックスに達した。
糸目だし。
「我々の対策は万全です。完全に取り囲んでいます。
こちらとしても無駄な消耗は避けたいので、
大人しく投降してくれるなら命まではとりませんよ」
なるほど。随分とお優しい。
これが騎士道というやつなのかな?糸目だから怪しいけど。
──さて。仕方ないやりますか。
「ほ、本当ですか?
良かった……お助けください!
糸目の騎士様!……大人しくします!
ですから……どうか命だけは……!
私はただ、こいつらに脅されて連れ回されてる、
哀れでとても美しい鬼なのです……」
私は糸目に駆け寄った。
「うん?あぁ。……お姉ちゃんのうらぎりものー」
「む……なるほど?……分かったから好きにしろ」
「あぁ……そうか。やっぱりこうなるのか。はいはい」
小娘達も私にしたがう。全員棒読み。
ジルは私たちの反応に満足げな表情を浮かべた。
「ふむ。物分かりの良い人たちで良かったです。
では、捕まってください。おい!対象は投降した!縄を持ってこい!」
部隊長の糸目のジルは大声で叫んだ。
同時に周囲の殺気が緩んだように感じた。
「あの……糸目の騎士様……?」
「なんでしょう?」
糸目のジルが返事をしたその瞬間!
ムダ様のお言葉が脳内リフレイン。
『笑えるよな。こんなに信頼されて、裏切れるんだから。
だが、それでも──俺は俺を裏切らないッ!!』
「……肩でも揉みましょう……カッ!?」
私は男の右足を掴み、回転。
気がつくと、息をするように得意技のドラゴン・スクリューをかけていた。
グリン!!!!!ズガッ!!!
「ぬおッ!?」
糸目は地面に頭から突き刺さったまま動かなくなった。
「カッカッカッーーーーーッ!ぶぁーーかーめーぇー!!!
騎士道ー?ご立派でーすねー!カーーーーーッカッカッカッ!!!」
「お姉ちゃん、女の子なんだから笑い方は直そうね☆」
「はっはっは!やけに素直だったからな」
「卑怯なサクラさんカッコよすぎ!」
「あとは気持ちの切れた周囲の雑魚掃除よ!
辰美は小娘と空へ!小娘は空から魔法!辰夫は適当に暴れてこい!」
「あい」
「応」
「はい!」
戦闘が始まった。
私はドラゴン・スクリューを駆使し、敵を次々と倒していく。
足を掴み、素早く回転させ、敵を地面に叩きつける。
その動きは流れるように滑らかで、まるで舞を踊るかのようだ。
「お姉ちゃん?これからもさ?その技だけで生きていくの?」
「効率悪そうですな……」
「回転するサクラさん素敵……」
そんなこんなで私が30人ほど地面に突き刺したところで勝利した。
*
「うーん……エスト様。
こいつらどうする?ダンジョンを村にするプロジェクトの労働力にする?」
「そうだね!お迎え呼ぶよ!
【百鬼夜行】──サタン!」
エスト様はサタンを召喚した。
シュバッ!!!!!
瞬間!サタンが現れた!
サタンは昼ドラを観ている主婦のように寝転んで煎餅を咥えていた。
「んなーッ!?こ……ここは!?」
慌てたサタンがキョロキョロしながら言った。
「ほぅ。真昼間からサボりか?」
私は刀を抜きながら言う。
「いや、あはは……魔王様……サクラ様……
この突然召喚するやつ、こちらの事情も考慮してもらわないと困ります」
サタンはゆっくりと起き上がりながらクレームをつけた。
「えー……めんどいし」
「サタン!お前が意見するな!」
「も!申し訳ありませんでした」
私の怒号でサタンは黙った。
ざわざわ……
「え?魔王……?……サタン……?」
「魔王が復活していたのか……?」
「ど、どっちが魔王なんだ……?」
ざわざわ……
正座している精鋭部隊がエスト様の正体を知ると怯えだした。
「とりあえずサタン!この人たちを連れてってお仕事を与えて」
「畏まりました。魔王様。【眷属召喚】!」
空間に黒い裂け目が出現すると、その裂け目から無数の悪魔が現れた。
「ひ!ヒィッ!」
「いやだ!助けてくれー!」
精鋭部隊は絶望した。
「ふふ……私たちの命を狙って来たんだ。
当然殺される覚悟もあったんだよな?
まぁ殺さないだけありがたく思うことね」
そう言いながら、私は刀を部隊長の糸目に突きつけた。
しかし、予想外の展開が待っていた。
糸目は私の言葉には耳を貸さず、じっと私を見つめながら言った。
「……美しい……そして強い……
どうやら私は貴女に惚れてしまったようです。
どうか私を貴女の側に置いてくれませんでしょうか?」
その突然の告白に、私は完全に動揺してしまった。
「え?なッ……?……はい?
ちょ……やめてょ……そういうの……ゃめなょ……」
私は慌ててうつむいた。
転生前から色恋沙汰とは無縁だった私にとって、
このような状況は全く想定外だった。
そんな中、辰美が突然叫んだ。
「だ!ダメだ!サクラさんは私の……えっと……
と、とにかくダメだッ!でも今のサクラさん可愛い!それはナイス!」
辰美の心が壊れていた。
辰美のこの言葉に、状況はさらに混沌としてきた。
そんな中、エスト様が冷静な提案をした。
「お姉ちゃん!罠のような気もするけど、
糸目さんは一緒に連れてった方が街に入りやすくなると思わない?」
「なるほど。一理ありますな」
辰夫も相槌をうった。
「エスト様!?どうしたの?
小娘のクセに頭めっちゃ良い!小娘のクセにッ!ポンコツなのに!
それと辰夫ッ!てめーは黙れッ!」
私はエスト様の成長に震えた。
エスト様と辰夫も震えて地面を見ていた。
辰美は歓喜に震えていた。
「うーん。とりあえず縛ったままで連れて行きますか。
……辰夫!この糸目をしっかり見張りなさい。
言っとくけど、糸目は絶対何かあるからね。
目が開いたらめっちゃ強いとか、目が開いたら裏切るとか。
目が開いたら第二の人格が現れるとか」
「承知。我もこの男には何かを感じます」
私がフラグを立てていると、辰夫がフラグに登った。
「ありがとうございます。
私はサクラ様の忠実な僕として生きて行きましょう。
証明して見せますよ」
糸目は言った。
だが、まだ目が開いてないので真偽は分からない。
「いいですか、糸目さん。
サクラさんの配下になるということは、並大抵のことではありません」
辰美が腕組みをして語り出した。
「まずは『殴られる角度』を覚えなさい。
サクラさんの拳は、愛(暴力)に満ちています。
美しく吹っ飛ぶことが、配下としての第一歩です」
「ほう……勉強になります」
ジルも腕組み。
「私は初対面で地面に埋まりました」
ドヤ顔辰美。
「私も先ほど埋まりましたよ」
ジルが答える。
「ぐぬぬ……」
悔しそうな辰美。
「……何の話をしてんのあいつら?」
私は聞こえないふり。
「はぁ……私もサクラさんに縛られたいなー」
辰美がボソッと言った。
辰美はもう色々ダメな気がする。
…
さてさて、そんなわけで領主に挨拶する楽しみが増えた。
(つづく)
◇◇◇
──【今週のムダ様語録】──
『……笑えるよな。こんなに信頼されて、裏切れるんだから。
だが、それでも──俺は俺を裏切らないッ!!』
解説:
裏切りとは自己肯定のひとつの形である。
自分を信じ続け、人を裏切る。それがムダ様流の誠実。