テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
領主の差し金で命を狙われた私たちは、 とにかく早く領主にお礼(物理)を言いたくなった。
そこでドラゴンフォームの辰夫と辰美に乗り、
旅路を空路へと変更した。
*
やがて地平の向こうに、
領主の居る街──オーミヤが姿を現した。
遠くからでも分かるほど賑わう交易路。
その両脇に立ち並ぶ幌馬車や露店。
そして都市全体を囲う灰色の石壁が、
熱気と喧騒を内に抱えたまま威圧的にそびえている。
オーミヤはタマイサ地方最大の内陸商業都市。
各地から物資と人が流れ込み、
金と噂と陰謀が日々交差する”王都の胃袋”である。
「あれが領主のいる街かー! うわー大きいねー
お店いっぱい! 動いてる馬! 荷物! 人! すごーい」
エスト様が風に靡く長い銀髪を小さな手で掻き上げながら、
目を輝かせて言った。
声が弾んでいる。
どうやらこの旅は正解だったようだ。
「エスト様。あれは馬車。商人が荷物を運んでるの。
へぇーこっちの世界にも、色々あるのねー!
まぁ私たちの馬車の方が空も飛べるし?
ブレスも吐けるので、高性能だけどね」
私は教えるように言った。
「そうだよね! しかも2台あるしね」
「そそ、壊れても替えはあるよね。ふふ」
無邪気な反応に、思わず口元が緩む。
「辰美……我等は馬車扱いと確信したぞ……」
「ん? サクラさんの馬車なら良くないです?」
辰美がしれっと。
「お前……」
辰夫はそれ以上確認しなかった。
確認したら心が折れると悟ったからだ。
「そ、それにしても、
商人と物資が入り乱れて動いているような街ですな」
辰夫がぼそっと補足する。
「あとでいろいろ回ってみたい!」
はしゃぐエスト様を見れて、私は嬉しかった。
と、同時に地球を思い出した。
「……にぎやかな街……
そういえば、前の世界にもあったな……」
胸がちょっと締め付けられる。
「……でも、地球よりもこっちの方が
ドキドキするんだけどね!」
「こっち?……前の世界?」
私がボソッと言うとジルが首を傾げ、眉間にしわを寄せた。
その糸目がさらに細くなる。
*
どうやら街に入るには検閲が必要となるようだ。
私たちは街の手前で馬車 (辰夫と辰美)から降り、
日陰になっている大きな樫の木の下で作戦会議を開く。
「これは私たちがそのまま入ると大騒ぎになるやつだね」
エスト様の声には少しばかりの興奮が混じっている。
「人質とって領主んとこ行く?
それか、魔王軍呼んで強行突破?」
「……ねぇお姉ちゃん?
犯罪者思考しか出てこないの?」
エスト様が心配そうに私を見る。
「えー……じゃあさ!
ドラゴンの辰夫と辰美にこの街を襲わせてさ!!
それを私たちが助けるってのは?」
「狂気ですよ……」
辰夫が俯く。
「狂気? 違う違う、
これはおばあちゃん直伝の”人生の知恵”だよ?」
「『助けるためには、まず困らせなきゃいけないの。
だから私は、おじいちゃんの靴を毎日、放課後に隠してたのよ。
……そしたらね、サクラ。あんたが産まれたの』ってね!」
私はドヤ顔で語った。
「……」
全員が遠い目をした。
「えと、良いですか皆様。
どの案も人々を怖がらせる事になり、
街全体を敵へと回す事になります。
私が交渉してみますので、普通に街に入りましょう」
糸目のジルが割って入ってきた。
「そこで、こちらのフードをかぶって正体を隠してもらえますか」
ジルはそう言うと、私たちにフードを渡した。
「ジルさん有能」
フードを受け取りまじまじと見つめるエスト様。
「ふむ。逆に怪しくない?」
私はフードを受け取り、手に取りながら疑問を投げかけた。
布地をこすりながら、その質感を確かめる。
エスト様がフードを被ると、
森の妖精のような愛らしさが増した。
対して、私がフードを被ると──
「……お姉ちゃん……
なんか『闇ギルドの始末屋』みたいだよ?」
「なんで!? 同じ布だよね!?」
「滲み出る手練れ感が隠せてない……
まぁ……モンスターという事で、
戦闘が始まるよりはマシかと」
辰夫が怯えた。
「とにかく交渉します。
必ず愛しのサクラ様のお役にたってみせますよ」
ジルはウィンクをしたようだが、
糸目だからよくわからなかった──
私、暴力の経験はあっても、
恋愛の経験はゼロだから……
「ぇ……ち、ちょっと……ゃめて……ょ……」
モジモジしながら言った。
「サクラさんが困ってるだろ! そういうのやめろ!
でも可愛いサクラさんをありがとう!」
辰美の情緒が仕事をしていない。
「大丈夫かな……」
「不安しかありませんな……」
エスト様と辰夫は溜め息をついた。
*
ジルを先頭に街の入り口の鉄門に着くと、
すぐに検閲の門兵がジルに気付いた。
鉄門は巨大で、幅は十メートル以上あり、
その表面には複雑な模様が刻まれている。
「これはジル様! ご苦労様であります!」
門兵は背筋を伸ばし、敬礼をした。
その声には明らかな尊敬の念が込められている。
「はい。ご苦労様です。
この方達は私の大切なお客様です」
「急用がありますので、すぐに街へ入りたいのです。
通してもらえますか」
ジルはフードを被った私達を見ながら言った。
その声は落ち着いているが、どこか威圧を感じられた。
「いくら、ジル様の客人となれど、
その素性を確認しないわけにはいかないのですが……」
門兵が困惑した顔で言った。
その目は私たちのフード姿を不審そうに見ている。
当然である。
「しかし……素性を確認しないと──」
「……彼らは──旅芸人です」
「旅芸人なら、芸をひとつ」
門兵が思いついたように言う。
「不要です」
ジルが即答。
「え?」
困惑する門兵。
「……不要です」
ジルが胃を押さえる。
気まずい空気が周囲に流れる。
「……では、芸を」
その瞬間、私の中の何かが開いた。
──その時、私はビートを刻み始めた。
♪ドゥン・ツッ、ドゥン・ツッ(足でトントン、指でポンポン♪)
「旅芸人? OK……任せな。
Yo Yo Yo!♪
我ら魔王軍 in da house ──Check it out!」
私は門兵の目の前でステップを踏んだ。
「オーミヤ潜入 領主も笑えねぇ!
フード深めて 逆に怪しめぇ!
ジルの交渉? 私ゃ待てねぇ!
街ごと征服──今夜は寝れねぇ! Yeah!」
「やめろォォォォ!!!!!」
ジルが私の口を塞ぎながら、
目だけで「殺す」と「好き」を同時に言った。
「お姉ちゃん!?
今“魔王軍”って言ったうえに、完全にバラしてるよ!?」
エスト様が真っ青になって叫んだ。
「やばい! あれサクラさんの
“ドヤ顔ラップモード”だ!」
状況を察した辰美が顔を引きつらせる。
「このままでは、
世界征服より先に牢屋行きですぞ……!」
辰夫が額に手を当て、深刻そうに呟いた。
「(もがもがッ!)
Yo……まだ二番あるのに……!!」
ジルに口を塞がれたままの私が、くぐもった声を上げる。
「あるかーーーッ!!!」
ジルの額に青筋が浮かび、胃を押さえる。
「……彼女は喉の……病で……ラップすると死ぬんです」
「病気扱い!? てか死ぬって盛りすぎだろ!!
ラップは生き様だぞコラァ!」
私は小声で叫んだ。
「実は……私の祖父も、
ビートを刻みすぎて心臓が止まったのです……」
門兵が心配そうに私を見る。
「じいちゃんラッパーだったの!?
死因がファンキーすぎるだろ!?」
「ライム(韻)と共に逝きました……」
「それは是非とも見習いたい!?」
(この世界、意外とヒップホップ浸透してる……?)
「門兵! 先程の私の知り合いという話、
聞こえなかったんですか?
──私に、恥をかかせる気ですか?」
ジルは静かに怒気をにじませた。
「ひッ……わ、わかりました! お通りください!!」
門兵は顔を蒼白にし、慌てて門を開けた。
手はガクガク震えている。
ジルの糸目が開くかと思って身構えたけど──
やっぱり開かなかった。
「私の顔を立ててくれてありがとうございます……
このお礼は、必ずいつか……」
「さて、それでは皆様。参りましょう」
ジルは穏やかな口調に戻り、私たちを促した。
「……ジル、案外頼れる……!
糸目さえ開いてくれれば100点なのに」
「減点理由そこ!?」
「……まぁ。魔王軍総出で攻め込まなくて済んで良かったよね」
私は小声でぼやいたが、みんな下を向いて聞かないフリをした。
*
門をくぐった後も、私のヴァイブスは止まらなかった。
私は続きを歌いながら街を歩く。
気付けば周囲が勝手にMV化していた。
通行人の若者がブレイクダンスで乱入し、
パン屋の煙突から出る煙がビートに合わせてポンッ!と弾ける。
「領主の陰謀? 笑って放置!
請求書ドーンで 財布は凍死!
ポンコツ魔王が 横で行進!
ドラゴンライドで 街ごと更新!」
犬が飛び跳ねて「わん!」と合いの手を入れ、
通行人がサクラの周りをサークルで手拍子。
銅貨が空に舞い、スポットライトみたいにキラキラ輝く。
「チェックの検閲? そんなの無効!
城下に咲かすぜ 黒い栄光!
夜明けに轟く 我らの咆哮!
征服完了☆ 歴史に登場──! Peace !」
通行人の子供たち:「ぴーす!」「まおーぐん!」
沈黙。
「へい、これでパンでも買いな!」
小銭がポイッと投げられる。
チャリン……
小銭が足元に転がってくる。
「おぉ! これぞストリートの魂!」
通行人がサムズアップ。
「あれ? ジルさんが怪しい集団を街に入れてね?」
「魔王とか征服とか言ってる……」
「芸風が尖ってるなぁ」
ひそひそ話が聞こえる。
「わー! お姉ちゃん!?
完全にMV撮影みたいになってるよ!?」
エスト様は目を輝かせて私を見上げた。
「いや違う! これ完全にバレフラグだから!」
辰美が慌てて叫ぶ。
「ふむ……これはもはや征服ではなく営業活動……」
辰夫は顎に手を当て、低く唸った。
「頼むから誰か胃薬を……!」
ジルが胃を押さえて崩れ落ちる。
*
とにかく無事に街の中へ入れた。
街の中は活気に満ち、
人々の喧騒や市場の呼び声が耳に飛び込んでくる。
香辛料や焼き立てのパンの香りが鼻をくすぐる。
「ふぅー……なんとかなったね!」
「なったのでしょうか……?」
辰夫が心配そうに周囲をキョロキョロ。
ジルが緊張を緩めながら言った。
その肩の力が抜けるのが見て取れる。
「ジルさん凄い凄い」
エスト様が両手を挙げて喜んだ。
その目は星のように輝いている。
「ま、まだ認めたわけじゃないんだからねッ!」
私はぷいっと顔を背け、腕を組んだ。
「ツンデレサクラさんが尊すぎる……」
私の横で、辰美は両手を胸の前でぎゅっと握り、
感動したように震えている。
「とにかく、大騒ぎにならずに良かった……」
エスト様は胸を撫で下ろし、ようやく肩の力を抜いた。
数拍の沈黙。
「いや、今もなお、大騒ぎですぞ……」
辰夫は周囲を見回し、まだざわつく通行人と地面の小銭を視界に収めてから、重く口を開いた。
私たちが安堵してると、ジルが言葉を続けた。
「さてと……とりあえず私の家に行きましょうか」
「「「ジルさん有能すぎ! マジパネェ!!!」」」
私たちは口を揃えた。
(つづく)
◇◇◇
──【今週のおばあちゃん語録】──
『助けるためには、まず困らせなきゃいけないの。
だから私は、おじいちゃんの靴を毎日、放課後に隠してたのよ。
……そしたらね、サクラ。あんたが産まれたの』
解説:
“愛の形”と”因果関係”を履き違えた系おばあちゃん。
迷惑の積み重ねが人生を動かす──という誤解の上に成り立つ情熱。
でも、おじいちゃんが逃げなかったから──
サクラという最終兵器が生まれた。
ありがとう。おばあちゃん。
……そして、逃げなかったおじいちゃん。
サクラ「いや逃げろよ。じいちゃん」