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第十六章 月へ還る闇
第一話 迎え入れる灯り
東から昇った月は、いつの間にか頭上近くまで辿り着いていた。
冷えた夜風が頬を撫でる。
必死に闘って、生き延びて。
みんなで泣いて、笑って、抱き合って。
張り詰め続けていた心も身体も、もう限界が近かった。
しばらくその場に静かな時間が流れた後、ハヤトがゆっくりと立ち上がった。
「……みんな、ミストア村まで行けるか?」
その声はいつもより少しだけ柔らかかった。
シュンタはまだ赤く腫れた目のまま、ぐったりと地面へ寝転がる。
「むりやぁ……だれかおぶってぇ〜……」
力の抜けた声に、思わず全員から小さな笑いが漏れた。
ハヤトは苦笑しながら指を口元へ運ぶ。
鋭い指笛が夜空へ響いた。
すると少し離れた森の奥から、馬たちが駆けてくる音が聞こえ始める。
やがて月明かりの下へ現れた四頭の馬に、4人は目を丸くした。
「おぉ〜!」
「すご……!」
ハヤトは歩み寄ると、愛馬の首を優しく撫でる。
「よく訓練された馬たちだからな。ちゃんと待っていてくれた」
重い体を起こし、安心したように全員が馬へ跨がった。
ジントは前で手綱を握るダイチの背中にそっと触れ、顔を覗き込む。
「ダイチ……傷、大丈夫?」
「ああ!全然痛ないで!」
ダイチはいつものように笑って見せた。
「……ていうか……さっき切られた傷、ほとんど塞がってるんやけど」
シュンタが自分の肩をまじまじと見つめる。
「ジンちゃんの、あの光のお陰かぁ……」
「確かに……」
ジュウタロウも静かに自らの腕へ視線を落とした。
裂けていたはずの傷は、もう薄く痕が残る程度にまで癒えている。
「大きな傷が残っていない……」
その声には隠しきれない驚きが滲んでいた。
ハヤトが振り返り、穏やかに笑う。
「やっぱり、ジントの力はすごいな」
「っ……」
突然褒められ、ジントは少し照れたように目を伏せた。
淡い月明かりが、その横顔を静かに照らしていた。
5人はミストア村へ向け、ゆっくりと馬を走らせる。
深夜の森は静かだった。
木々の隙間から零れる月光が、白い道をぼんやりと照らしている。
誰もあまり喋らなかった。
疲労もあった。
けれどそれ以上に、全員が穏やかなこの時間を心地良く感じていた。
やがて遠くに、小さな灯りが見え始める。
「……見えた」
ダイチがぽつりと呟いた。
ミストア村だった。
深夜の西門へ辿り着くと、門兵が慌てて槍を構える。
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「止まれ! こんな時間に――」
しかし月明かりの下で5人の姿を確認した瞬間、表情が変わった。
「あっ……!あ、あなた方は……!」
以前、魔物から村を守った旅人たち。
村では彼らのことを知らぬ者はいない。
門兵は慌てて門を開いた。
「ど、どうぞ!お通り下さい……!」
5人は軽く会釈を返し、そのまま静かな村へ入っていく。
時間も遅く、家々の灯りはほとんど消えていた。
聞こえるのは馬の足音と、夜風の音だけ。
けれど通りの奥に、ぽつりと温かな光が見えた。
宿屋だった。
看板を照らす魔石灯。
窓から漏れる橙色の灯り。
その光を見ただけで、全員の肩からふっと力が抜ける。
シュンタが小さく笑った。
「……帰ってきたみたいやな」
ジントも安心したように息を吐く。
ハヤトが扉を開けると、カウンター奥にいた主人が顔を上げた。
そして次の瞬間、目を丸くする。
「おおっ……!あなた方は!
またいらして下さったんですね!」
その声を聞きつけ、おかみさんも奥から飛び出してくる。
「あらまぁ!!
ほんとにまた来てくれたの!?」
ぱっと花が咲くような笑顔だった。
だが次の瞬間、前回以上にボロボロの5人を見て眉を下げる。
「あんたたち……まただいぶ派手にやったわねぇ!」
「はは……」
乾いた笑いを漏らすハヤト。
おかみさんは慣れた様子で腕まくりした。
「ほらほら!立ってないで座りなさい!今すぐ手当ての準備するから!」
その声を聞いた瞬間。
5人はようやく、本当の意味で張り詰めていた力を抜いたのだった。
宿屋の娘も起きてきて手伝いながら、5人の傷の手当ては進められた。
「はい、これ染みるよ〜」
「うわぁっ!!待って待って待って!」
「大袈裟ねぇ」
ダイチの情けない悲鳴に、おかみさんが呆れたように笑う。
「また、ひどく怪我されたんですね……」
シュンタの肩の傷を見て、宿屋の娘が心配そうに声を落とす。
「こんなん大したことないで」
ニコニコと嬉しそうに笑う。
「それにお嬢さんに手当てしてもらえるなら、怪我するのも悪く無いかもなぁ」
真っ赤な顔で俯く娘。
「おい、シュンタ。馬鹿なことばかり言うな」
すかさず突っ込むジュウタロウ。
「え〜っ!お嬢さん、おばちゃんより優しいし!」
「何だって!?」
そのやり取りに、みんなが吹き出した。
包帯を巻き終えた頃には、宿屋の食堂には温かな料理が並べられていた。
湯気の立つスープ。
柔らかく煮込まれた野菜。
香草の香るパン。
疲れ切った身体には、それだけで涙が出そうになるほどありがたかった。
「っはぁ〜〜〜……」
シュンタが椅子へ深くもたれかかる。
「ひと月ぶりの味やわ〜……」
「なんかもっと、懐かしいような気もするなぁ」
ダイチも嬉しそうに席に着く。
「最高の晩餐や!」
シュンタはそう言いながら、大事そうにスープを口へ運んだ。
ジュウタロウも静かに息を吐く。
「……温かい食事というのは、こんなにも安心するものなんだな」
「ジュウタロウもそう思うんだな」
ハヤトが笑うと、ジュウタロウは少しだけ目を細めた。
「戦場の後だからだ」
その言葉に、誰も少しだけ黙る。
けれどすぐに、ジントが小さく笑った。
「……うん、美味しい」
その声だけで、また空気は柔らかく戻っていった。
食事を終えた後、全員軽く湯浴みも済ませる。
熱い湯が疲労を溶かしていくようだった。
そして二階の廊下、一番手前の二人部屋。
5人は自然とそこへ集まっていた。
ハヤトが部屋を見回しながら腕を組む。
「確か前はジャンケンで、俺とジント、シュンタとダイチ」
「あとジュウタロウが一人部屋だったよな」
「せやったなぁ」
シュンタが懐かしそうに頷く。
「今回はどうするか……」
その時、ジントが小さな声で呟いた。
「俺……今日は、みんなと寝たいな……」
「え?」
ダイチが目を瞬かせる。
ジントは少し視線を逸らしたまま続けた。
「……なんとなく……」
その意味を、誰も聞かなかった。
静かな空気が少しだけ流れる。
「……いや、でもまぁ……」
「しゃあないか……」
ダイチがどこか残念そうに呟くと、すかさずシュンタが肘で腕をつついた。
「もぅ〜ダイちゃん何期待しとったん?」
ニヤニヤしながら顔を覗き込む。
「いや……!そ、そんなんやないし!!」
一気に真っ赤になるダイチ。
その様子を見て、ジュウタロウがさらりと言った。
「想いが通じ合っても相変わらずなんだな」
一瞬、静寂。
そして。
「ふっ……っ」
ハヤトが堪えきれずに吹き出した。
「あははははっ!!」
シュンタも腹を抱えて大笑いする。
「ジュウ最高!!」
ばんばんとジュウタロウの肩を叩く。
「やめろ」
迷惑そうに眉間へ皺を寄せるジュウタロウ。
ジントは両手で顔を覆っていた。
だが真っ赤になった耳だけは隠せていない。
「……もう無理や……」
一方ダイチは完全に頭を抱えていた。
「なんやねんほんま……!」
「お前が分かりやすすぎるんだ」
ハヤトは笑いながら目元を拭う。
そして部屋を見回した。
「……もう今日はこのまま、この部屋で過ごすか!」
二つしかないベッド。
床に雑に置かれた荷物。
狭い部屋。
けれど今は、それが妙に心地良かった。
「ええやん!そうしよそうしよ!」
シュンタはすでにノリノリでベッドへ飛び込む。
「はしゃぐな」
「ええやん!ジュウも来いや!」
「断る」
そう言いながらも、ジュウタロウはため息混じりに荷物を置き、静かに同じベッドへ腰掛けた。
ダイチとジントは顔を見合わせる。
そしてどちらからともなく微笑んだ。
ふと窓の外に目をやると、眩いほどの丸い月が見えた。
白く、静かで、美しい月。
ジントの黒い瞳に、その光が映り込む。
――明日の今頃、俺はどうなっているんだろう。
――まだ、みんなと居られるのかな。
胸の奥が、少しだけ冷える。
その時。
そっと、ダイチの手がジントの手を包んだ。
温かかった。
安心する、いつもの体温。
「……ジント」
心配そうな声。
ジントは月から視線を逸らし、ダイチを見上げた。
青い瞳。
サファイアみたいに澄んだ、優しい色。
そこに映っているのは、自分だけだった。
ジントはじっとその瞳を見つめる。
「……俺」
真剣な顔のまま、まっすぐ覗き込む。
「ダイチの目の色、好きだな……」
するとダイチの瞳がわずかに揺れた。
そして次の瞬間。
「っ……」
ぱっと顔を逸らす。
片手で顔を覆い、小さく呻いた。
「……もう、無理やって……」
「………?」
ハヤトが優しく笑う。
「完全に二人の世界だな」
ジュウタロウは呆れた顔で腕を組んだ。
「あれは見せつけているのか?」
シュンタはニヤニヤしながら何度も頷く。
「ええなぁ〜青春やなぁ〜」
「…………っっ!!」
ようやく三人の視線に気づいたダイチが飛び上がる。
「お、お前ら!!見んなよ!!」
真っ赤になって叫ぶダイチ。
その隣で、ジントがふふっと目尻を下げて笑った。
つい数時間前まで、死線をくぐり抜けていたとは思えないほど、いつもの5人の時間だった。
そしてそれが永遠ではないことを、誰もが知っていた。
けれど今だけは、ただこうして笑っていたかった。
コメント
5件
5人でわちゃわちゃしてるのがほんとに大好きです! ジントにみんなで寝たいって言うのも可愛すぎますし、2人でイチャついて3人に見られて恥ずかしがってるのも最高ですね🤭︎💕
イチャイチャお待ちしております🫶🥰
💙💛可愛いです🫶 💛さんが皆で寝たい、というのも、残念がる💙さんも、皆が居るのに無自覚にイチャつく2人も、本当に可愛くて最高です🙏