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「なぜ行かなかった?」
黙ったままでいても、恩師は瑠衣の口から答えが出るまで、恐らく待ち続けるかもしれない。
ここまで問い詰められてしまったら、もう正直に言うしかない。
「九條、答えろ」
何しろ、侑の刺すような視線が、今の彼女にとって心が痛くて痛くて堪らない。
瑠衣は覚悟を決めるかのように、大きく息を吐き出した。
「実は……」
彼女は、これまでの出来事を、目の前で侑が組んでいる手に眼差しを向けながら、ポツリポツリと話し始めた。
大学卒業間近に、父から家業の建設会社が業績不振のため、三月いっぱいで会社をたたむと知らされた事。
そのため、大学院進学を諦めてくれ、と言われた事。
大学卒業式の日、両親が揃って富士山の樹海で命を絶った事。
葬儀と納骨が済み、実は父が消費者金融から五千万の借金をしていた事が発覚し、瑠衣の知らない所で彼女が連帯保証人にされていた事。
五千万の借金を返済するために、ここに売り飛ばされ、今に至っている事……。
こんな話、恩師には話したくもなかった。
だが、全部吐き出した事で、瑠衣の中にこびり付いている黒ずんだ痼が落ちたようにも感じた。
「…………」
彼女は恐々と侑の顔を伺うと、彼は無言のまま眉根に皺を刻ませ、厳しい表情を映し出している。
「…………そうだったのか」
その一言を口に出しただけで、侑は再び黙り込む。
「…………こんな暗い話を聞かせてしまって……申し訳ございません」
座ったままで、瑠衣は彼に会釈した。
「いや、いいんだ」