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侑は口元を右手で覆い隠し、何かを思案しているように壁の絵画に視線を移す。
「立川音大の最後のレッスンの時、お前、浮かない顔してたから何かあったのか、と思ってはいたが……」
言いながら瑠衣へ眼差しを向けた。
外見は大学在学中とあまり変わってないと瑠衣は思っているが、侑が彼女の口元へ視線を向けている事が恥ずかしい。
彼の眼差しから逃げたくて顔を背けようとするが、侑はそれを許さないように『九條。こっちを向け』と命令する。
「借金返済の目処は立ってるのか?」
「ええ、一応。でも完済したとしても、ここを辞めた後の生活費も稼いでおきたいから……」
瑠衣は立ち上がると、ローテーブルを周り込み、さり気なく侑の隣へ腰掛けた。
「響野……先生……」
彼女は突然侑に抱きつき、筋張った首に顔を寄せる。
「おい九條。真面目な話をしてる時に——」
瑠衣は侑の話を遮るように耳元で囁いた。
「先生。セックスもせずに話ばっかりしてたらオーナーに怪しまれます。私たち娼婦には……自由もないし、全て…………監視されているから……」
「監視されている?」
「はい」
瑠衣は侑の首筋から顔を離し、一枚の絵画に目を向ける。
裸体の男女が抱き合い、女がこちらに顔を向けている油絵。
女の黒目の片側に、ごく小さな穴が開いていて、そこにはマイクロサイズの高性能監視カメラが仕込まれているという。
この部屋だけではなく、客室全てに、特別室と同じ監視カメラが取り付けてあるらしい。
もちろん、客には分からないような場所に設置されている。
その事を侑に伝えると、僅かに顔を顰めさせた。
「今こうやって私が先生に抱きついている様子も……しっかり映像として残るんです。この件はどうぞ内密に。先生だから言ったんですよ?」
瑠衣は侑の口元に人差し指を当てると、彼は細い手首を引き剥がし彼女の腰を抱き寄せた。