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舞台裏にある個室で、俺はひとり……現実逃避中だった。
{さぁ、次で最後の対決です!勝ち残ったのは……アオイさんと、生徒会長ー!}
……うん。
俺は途中で落選するはずだったんだ。
それなのに、どういうバグか気づけばファイナル……俺の人生、なんの冗談?
「は、はは……」
苦笑いしか出てこない。
{では、お二人は準備ができましたら、目の前の《転移魔法陣》からどうぞ!}
「……はぁ……」
大きなため息をひとつ。
仕方なく転移魔法陣を踏むと——。
ぱっ、と視界が開けた。
生徒会長と並んで体育館の入り口に転移されていて、目の前には——
……真っ赤な絨毯。
{最後の演目は……《ウェディングロード》!!}
……はい?
{お二人には、このレッドカーペットの上を、会場中央まで歩いていただきます!
そして皆さんには、既にお配りした《魔皮紙の投票札》で、どちらがより美しいかをご投票ください!}
「「「うおおおおおおおお!!」」」
……お前ら、ちょっと落ち着け。
なんでそんなテンションで拍手してんだ。
おかしいだろ、俺は男だぞ!?
「い、いこ……? 生徒会長……」
「あ、あたりみゃえだ!」
顔を真っ赤にしながら噛みつつも、堂々と返す生徒会長。
うん、わかった。確信した。
この人、《女の子らしい服》を着ると自動的にバグるタイプだ。
普段キリッとした完璧超人だからこそのギャップが、会場の票をかっさらってるんだな……
でもな……今の俺には、わかるんだ。
この生徒会長、絶対アニメの世界から出てきた人間だ!!
「……手、繋ぐ?」
「う、うむっ……!」
そっと差し出した手を、生徒会長は震えながら握ってきた。
それが恥ずかしさなのか、緊張なのかは……俺にもわからない。
けど——
俺たちは、ゆっくりと歩き出す。
真っ赤なカーペットの上。
頭上からは花びらが舞って、左右からは歓声と拍手が降ってくる。
まるで、本物の結婚式みたいな光景。
…………いや、ちょっと待て?
……うん……これ、やっぱりおかしいよね?
なんで俺が、女の子のゴールみたいな道、歩いてんの!?!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、いうわけで——。
最初に戻るけど、はい。優勝、しちゃいました。
……え? 過程が短い?
語れって? ……こっちは男で美少女コンテスト出てるんだよ!?
もうこれ以上しゃべらせないでくれ……!
{では、優勝者のアオイさんには優勝賞品、魔法の指輪をプレゼントしまーす!}
……もういらないから帰らせて……マジで。
{そして、その指輪を渡してくれるのは……なんと!
美男子コンテスト優勝者のこの方です!どうぞー!!}
舞台裏から、ゆっくりと一人の男子生徒が現れた。
「「「キャーーー!!こっち向いてー!!」」」
女子達の黄色い歓声が轟く。
マジか、こいつめっちゃ人気じゃん……。
そして、俺の目の前まで来たその“王子様”は——
……ポケットから、指輪ケースを取り出した。
おい、やめろ。
それ、完全にプロポーズの構えだから。
「アオイさん、優勝おめでとうございます。そして……」
カチッと指輪のケースを開けながら——
「ひとめぼれしました。どうか、僕と付き合ってください」
「っ!?」
頭が真っ白になる。
いや、違う、白を通り越してスパークしてる。
なんで男から告白されてんだ俺!?
これ、完全にプロポーズ現場だろ!?
でも俺が声にならないままフリーズしてるせいで、観客たちは——
{おおっとー!? これはアオイさん、あまりの喜びで言葉が出ない!?}
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
やめろ!盛り上がるな!!
そうじゃない!違うんだって!!
{なんという絵になるツーショット!これはもう、誰も異論はないでしょう!}
うあああああああああああああ!!!
変な流れを作るなあああ!!
「……返事は、どうですか?」
「え、えっと……」
無理無理無理!この空気じゃ断れねぇ!!
——いや、待てよ。
……そうだ。こっちは“顔じゃない”って言ってたじゃん、あいつ。
だったら、こっちだって“顔だけで決められたくない”って返してやれば——
俺は、その指輪を手に取った。
そして、全力でぶん投げた。
カキーンッと体育館に響く音。
{……!?}
「「「…………??」」」
会場が一瞬、凍りつく。
その中で、俺は——堂々と言い放った。
「顔で決める恋なんて、僕の恋じゃない!
僕の恋は、僕が決めるんだよ!!」
——……沈黙。
……からの。
「「「キャーーーーーー!!」」」
「アオイさーん!つきあってくださーい!!」
「抱いてー!!」
「結婚してー!!」
えっ、なんで!?
その日から——俺は。
男子からも、女子からも、学校中から——
告白されるようになった。
……誰か、このカオスから、俺を救ってください。