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#宵待ち亭
#夢
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「しかし、珠子お嬢様も切り替えが早いというか……」
ヤスヨは、自分は、まだ訳がわからないのにと、口ごもる。
「まあ、こっちは、グズグズ言われるよりかは楽だけどさぁ。確かに、珠子ったら、切り替え早いねぇ。こりゃ、筋がいいかもしれないわ」
「グズグズは、言いませんけど、でも、高飛車具合はそのまま。お浜さん、なんとかしてくださいよ」
「それぐらいじゃなきゃ、女の道は歩めないよ!あんたらが、しっかりすればいいだけのことじゃないか」
お浜は、ヤスヨの愚痴をさらりと交わすとお玉を呼んだ。
「さあ、一休みだよ。お玉。ヤスさん、お茶入れとくれ」
あぁ、そうだそうだと、ヤスヨは、踵を返した。
「お玉にあんパンだしとくれよっ!」
後を追いながら、お浜は、ヤスヨへ言いつける。
奥向きへ向かうお浜達を眺めながら、
「お浜のやつ、てめぇこそ、高飛車で、やりたい放題じゃねぇか」
金原は、笑いを堪え、お玉がまき散らかした、おはじきをつまみ上げた。
「……お玉ちゃん、おはじきの遊び方知らないんですね。きっと……。後で教えてあげなきゃ……」
櫻子が、散らばっている、おはじきを集めながら言った。
「……お前も、好きだったろう?おはじき……」
「え?」
確かに子供の頃、櫻子は、よくおはじきで遊んだ。
豪商の一人娘と、皆、遠慮し、同じ年頃の遊び相手が居なかったこともあり、一人でも遊べる、おはじきを屋敷の者達が櫻子へ与えたのだ。
「……使いっ走りの途中……、よく、お前とおはじきで遊んだろ……」
「え?私と……ですか?」
うん、と頷き、金原は櫻子を見る。
しかし……。
櫻子には、全く覚えが無かった。
「……木戸から抜け出したのか、お前は、道に座り込み、おはじきで、遊んでいた……通りかかった俺と……よく、こいつで遊んだろ?」
金原は、指先で光る、ガラス製のおはじきを、懐かしそうに眺めていた。
「……旦那様と……」
「ああ、ちょうど、お玉ぐらいだったか。屋敷の者達が、お前を探し始めたら、木戸を開けて屋敷の庭へ連れていった……俺は、見つからないように、すぐに、逃げて……」
「逃げたの……ですか……」
「ああ、俺も子供ではあったがな、人攫いの一味と勘違いされても……何せ、この風貌だ……」
金原は、持つおはじきを頬に近づけ、瞳と比べて見せた。
青いガラスのおはじきと、金原の碧い瞳が輝いている。
「……お前は、いや、お前だけだった。俺の瞳を怖がらなかったのは。おはじきとおんなじだと、笑っていた……」
懐かしそうに金原は語るが、櫻子には思い出せないどころか、身に覚えがないと言っても過言ではなく、つい、
「あの、私がですか?」
と、金原へ問っていた。
コトンと、縁側におはじきが落ちる音がする。
「……それは……」
たちまち、金原の顔つきが固まって行く。
「……それは、お前は、覚えていない……ということか……?」
かろうじて、金原は、言葉を絞り出す。
「あ……は、はい……」
頷く櫻子へ金原は、大きく目を見開き、
「嘘だろっ!!今までの、今までの、俺の苦労は、何だったんだっっ?!」
宙をあおいで、雄叫びをあげた。