テラーノベル
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「そ、そりゃ、お前は、まだ小さかった。だがな、あんなに、あんなに、俺に懐いて、おまけに、毎日待ってくれてたんだぞ?!なんとなく、せめて、ぼんやりとでも覚えているもんじゃないのかぁ?!」
裏返った声をあげ、金原は、櫻子へ迫ってくる。
どう答えて良いものかと、おどおどする、煮え切らない態度の櫻子を見て、金原は、ぶつぶつ、ぼやき始めた。
「なんでだよ……俺は、帰りが遅いと、親方に殴られる毎日だったのに……いつか、いつか、立派になって……堂々と会いにいくんだと、それだけのために、俺は……耐えたのに……」
そして、櫻子の消息は途絶えたかのように、屋敷からは子供の声すら聞こえなくなってしまった。自分の立場では、調べることも、当然、屋敷に訪ねて行くこともできないと、金原は諦めつつ、どうしても、気になって仕方なかった。
そうこうするうち、柳原家に、後妻が入り、櫻子は邪険にされているようだと、小耳にはさんだ金原は、成り上がり、金持ちになり、櫻子を迎えに行くんだと、心に誓い懸命に働いた。
「後ろ楯も何もない。だから、俺は、汚いこともやった。そうでもしないと、お前を迎えに行くことなどできないから……。世間は、俺を鬼と呼び始め……俺は、それも、誉め言葉だと思って耐えて来た……すべて、お前、いや、柳原の家と対等になるために。そうするしかなかった……そ、それなのに!!何でだよっ!!」
大泣きしそうな金原の姿に、今度は、櫻子が目を見開いた。
切々と訴えられても、覚えて無いものは思い出せない。
「……あ、あの、旦那様、人違い……とか、では?」
かろうじて、言葉をかけるが、金原は、
「嘘だろっーー!!」
再び叫ぶと、腹立ち紛れに頭をぐしゃぐしゃ掻きむしる。
「ち、ちょっと!何事だい!」
騒ぎを聞き付けたお浜が、血相をかえてやって来た。
肩を落として、うつ向いている金原の尋常でない姿に、お浜は、櫻子を問い詰めた。
「櫻子ちゃん!大丈夫だったかいっ!!また、キヨシのやつが、無茶やりやがったんだねっ!!まったく!昼まっから、それも、縁側で、やろうなんて!!そりゃ、櫻子ちゃんだって、驚くよ!!」
「いえ、あの、お浜さん……」
櫻子は、お浜が何を言っているのか分からなかったが、多分、いつもの行き違いだろうと思いつつも、あまりの剣幕に、口ごもってしまう。
一方、金原は、そんなお浜の余計なお世話が頭に来たらしく、
「うるせぇーよ!!お浜!てめぇは、あっちのことしか考えてねぇのかよ!」
「悪いかいっ!!」
掴みかかる勢いで、食ってかかって来るお浜に、金原は一瞬怯んだ。
そこへ……。
何故か、あんパンが、差し出される。
ついて来た、お玉が、金原へあんパンを差し出していた。
「それでも食って落ち着けだとよっ!!」
お浜が、いまいましげに言った。
「なっ、なんで?!お玉が、かじったよだれベトベトのあんパンなんか、食えるかっ!!」
怒る金原に、お玉は、顔を歪めて泣き出しそうになる。
「ちょ。ちょっと、待ってください!お玉ちゃんは、関係ないと思います!」
泣き出しそうになっているお玉を、しっかり抱きしめながら、櫻子が、金原へ注意したものの……。
それが、更に逆鱗にふれたようで、
「お前だろ!お前がいけないんだろ!」
金原は、思いの丈をぶちまけるかのように、櫻子へ噛みついた。
「わ、私ですか?!」
「ちょっと!キヨシ!あんたねぇ、縁側で、櫻子ちゃんを襲いかけて、なんだよっ、櫻子ちゃんのせいにするのかいっ!」
「そんなこと俺はやってねぇだろうがあっ!!」
大人達の言い合いに巻き込まれたと、お玉が、わーんと泣き出し縁側で、ちょっとした騒ぎが巻き起こる。
「あら、まっ、なんだか、お邪魔だった?」
そこへ、聞き覚えのある、微妙な日本語が流れて来た。
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