テラーノベル
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館の広間に、紅茶の香りが満ちていた。 窓の外では、さっきまで白一色だった空に、淡い赤がまだ漂っている。
「ねえ、あの人の目、すごく綺麗だったね」
光が湯気越しに微笑む。
「火みたいに揺れてた」
「でも、すぐに燃えすぎてしまう目でもあったわ」
闇はカップの縁に唇を触れ、静かに笑った。
「全部燃やすなんて、寂しいでしょうに」
「でも、あの人はそうやって歩いてきたんだよ。燃やすしかなかったんだ」
光は椅子に深く腰かけ、赤い空を見上げる。
「ふふ……でも、見たでしょう? あの人、少しだけ変わったわ」
「うん。もう炎だけじゃない。ちょっとだけ“ここ”の色が混ざった」
二人は目を合わせてクスクス笑った。
その笑いは紅茶の香りと混ざり、館の中に小さな波紋を広げる。
「次はどんな人が来るかな」
「楽しみね。……ずっと先かもしれないけれど」
時間がどれほど過ぎても、この館には二人の笑顔と紅茶が絶えることはない。